ヴォールのアメジスト 〜悪役令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜

本見りん

文字の大きさ
上 下
52 / 89
ヴォール帝国へ

弟ステファン 1

しおりを挟む
 夜半過ぎ、ウルドが眠っているのを確かめ、寝間着の上からジャヒーヤを被ってこっそり部屋を抜け出した。そして昔エイレケのマスダルに襲われた時、万が一のためにと教えてもらった隠し通路を通って神殿の端にある塔の階段を上る。
 そこは初めて僕がサイードさんとアジャール山を見たところで、その後カハル皇帝と一足先にアル・ハダールへ帰国するダルガートとの別れの時に三人で景色を眺めた場所だった。

 白くて丈の長い寝間着の裾が汚れないように手で持ち、階段を上って塔の外へ出たとたん冷たい風が吹きつけて思わず身を竦ませる。しまった、もっと厚い毛布を持ってくるべきだった。こんな時、昔アジャール山でヤハルが手渡してくれた駱駝の毛布があったらな、と思う。
 前の世界のような極端な渇水はなくてもここが砂漠地帯であることには変わりない。昼夜の寒暖の差を肌で感じながら僕は薄掛けをきつく巻き付け、胸壁に乗せた腕に顎を乗せた。

 この世界に来てから毎日町で奉仕活動をしてはいたが、こんな風に上から外の景色を見るのは初めてだ。
 以前と同じく見渡す限りの砂漠に囲まれているが、ところどころにオアシスが見えるし、神殿の回りには豊かに茂る木々や畑まである。

「本当に新しい別の世界になったんだなぁ……」

 そう呟いてぼんやりと景色を眺めた。空には満点の星、そして冴えわたる満月がある。そういえば夜の砂漠で初めてお互いちゃんと告白しあった時も空には綺麗に満月があった。

「サイードさんも元気にしてるかな」

 アル・ハダールからの一行にはサイードさんはいなかった。神殿長によれば本国に残っているわけでもないらしい。
 やっぱりダウレシュにいるんだ。家族と一緒に。

 良かった、と思う気持ちは本当だ。だって家族を守れなかったことをあんなに悔やんでいたのだから、今では牧草も水も豊かになった生まれ故郷で大好きな家族や馬たちに囲まれて生きられることはサイードさんにとって一番の幸せだろう。

 僕もなんとか住む場所は確保できているし仕事もちゃんとある。それにウルドだっている。

 ダルガートも相変わらず人を寄せ付けない雰囲気バリバリでちょっと遠巻きにはされているみたいだけれど、この間鍛錬から戻った神武官たちがどうしてもダルガートに勝てないと話していたり、通いの下働きの少年が町でごろつきに絡まれた時に彼に助けてもらったと興奮しながら言っていたから、それなりに馴染んでうまくやっているのだろう。

 この世界の歴史を改変してしまうというかなり荒っぽい手を使ってしまったけれど、僕が知る限りでは八方丸く収まっているようだ。良かった。うん良かった。
 そう思いながら無意識に耳のピアスを触っていたのに気づいて慌てて手をどけた。

 最近、いつも気が付くとピアスを弄っていることが多くて困る。こんな高価なものを下級神官の僕がつけているのがバレたら絶対不審に思われるし、下手をすればどこかで盗んだと思われかねない。それにあまり頻繁に触っていたら留め具が外れて落としてしまう可能性だってある。
 それでもついピアスに触れたくなる手をぎゅっと掴んで胸壁に顔を伏せた。

「…………会いたいなぁ……」

 サイードさんに会いたい。ダルガートのそばにいたい。会えなくて悲しい。話せなくて寂しい。
 今みたいに綺麗な夜空と満月の下を三人一緒に神殿に向かって歩いたあの時はあんなに幸せだったのに。

 寂しい。でもサイードさんが故郷で幸せに暮らしているならそれでいい。だけどあの時と同じ夜空を一人で見ていると涙が出てきてしょうがない。
 駄目だ。泣いたらまた嵐が――――ああ、もう神子の力なんてないんだっけ? ならどれだけ泣いても大丈夫かな。わからない。またしても初めの頃のようにルールがわからなくなってしまって不安でたまらない。

 砂漠の塔で、僕も元の日本に帰してもらうべきだったのかもしれない。でもできなかった。

「だって、会いたかったんだ。もう一度、サイードさんとダルガートに」

 目の奥がたまらなく熱くて溢れる涙が止まらない。
 一人は寂しい。一緒にいたい。ずっと、ずっと三人一緒に。

 その時、突然肩を掴まれ胸壁から引きはがされた。肩に食い込む指の力がとてつもなく強い。

「い、痛……っ」

 思わず声を上げたがその手は少しも緩まなかった。

「ここで何をしている」

 冷たい風の隙間から聞こえてきた声に呼吸が止まる。

「ダ、ダルガー……」

 ト、と顔を跳ね上げ名前を呼びそうになって慌てて唇を噛んだ。だってこの世界ではお互いの名前さえ知らないのに、親し気に呼び捨てになんてしたら絶対に不快に思われる。
 それでもつい食い入るように彼の顔を見つめてしまうのだけは止められなかった。

 懐かしい、大好きな人の顔がすぐ目の前にある。
 黒々とした眉やがっしりとした顎、そして硬く引き結ばれた口元から漂う獰猛な気配と、それとは裏腹に感情の読めない冷ややかな目。
 初めて会った頃はこの目が怖くて仕方がなかった。でもあの時でさえ今の彼と比べればたいそう僕に好意的な態度だったのだとわかる。それくらい今僕を見下ろしている彼は、まるで夜中にうろつくコソ泥でも見るような冷めきった目をしていて……
 そこで、今自分が頭に何も被っていないことに気がついた。いけない、耳のピアス……!
 僕が激しく動揺したのにすぐに気づいたダルガートの視線がわずかに逸れて僕の耳を見る。

「こ……これは駄目……っ!!」

 思わず力任せにもがいて耳を押さえ、しゃがみ込もうとした。けれど暴れる僕の両腕をいとも容易く捕らえたダルガートの手はまるで鋼鉄の枷のようでびくともしない。
 どうしよう。これを取り上げられたらと思うと怖くてますます涙が止まらなくなる。ああ、嫌だ。こんな風に泣くのが嫌で、強くなりたくて、二年半の間ずっと自分を鍛えてきたはずなのに。
 その時、悔しさと情けなさに伏せた頭の上でダルガートの声がした。

「ここで何をしていた。大祭の間、塔の上は立ち入りを禁じられていることを知らぬはずはなかろう」

 声は同じ。
 でも話し方が違う。
 また泣きたくなるのを必死にこらえる。

「……ただ、景色を見ていただけです」
「このような夜更けに?」
「日中は自由になる時間などないので」

 半ばやけくそ気味にそう答える。すると僕の腕を握る手から少しだけ力が抜けた。

「確かにその通りだ」

 一瞬、ダルガートがあの少し意地悪そうな、皮肉げな笑みを浮かべて言ったような気がして思わず顔を上げる。けれど夜でも目深に被ったままのシュマグの下の表情はよくわからなかった。
 彼が神殿の警護につく時の黒い革の鎧に白い衣を纏った姿なのに気づく。そうか、今夜も彼は夜番なのか。それでこんな時間に塔の上にいる僕に気が付いて不審に思い、問いただしに来たのだろう。
 するとダルガートが僕の寝間着を見下ろして言った。

「部屋に戻れ」

 それだけ言い置いて踵を返す。え、それだけ? ピアスのことは? 驚いて思わず両耳に触れた拍子にまた冷たい風が吹きつけ、羽織っていたジャヒーヤが飛ばされてしまう。

「あっ」

 するとこちらに背を向けていたにも関わらず、まるで後ろにも目があるようにダルガートがそれを捕まえた。そして僕に差し出す姿に、昔同じようなことがあったと思い出す。そう、カルブの儀式でアジャール山に登った時に。あの時もこうやって風に飛ばされたシュマグを捕まえてくれて、そして。
 それが限界だった。

「……ッ、う゛、う゛~~~~~~っ!」

 とうとう我慢できずにその場にしゃがみ込む。
 好きだ。やっぱりダルガートが好きだ。例え僕のことを覚えていなくても、あんな冷たい目で見られても、まるで見知らぬ他人のように扱われてもどうしても好きでいることをやめられない。

 泣いちゃ駄目だ。きっとおかしなやつだと思われる。情けない男だと嫌われる。だけど致命傷になるほど深い傷から流れる血が止められないのと同じように、涙が後から後から溢れてきてしまう。

 彼と最後にゆっくり話をしたのはイスタリアの太陽の光溢れる石造りの回廊だった。彼はそこで、僕やサイードさんのように家族を思い誰かのために自分を犠牲にしようとする感情にはまるで縁がなかったと言っていた。
 そのくせ、彼はこうも言ったのだ。「貴方もサイード殿も、私とはあまりにも違う人間だ。だからこそ貴方がた二人を大事に思う」と。それが愛でなくて一体なんだというのだろう。

 今思えば、彼が心に思っていることを自分からあそこまでたくさん話してくれたのはあの時が初めてだった。あれが最初で最後になってしまうのだろうか。

 自分に気を許すなと言っておきながら、レティシア王女とサイードさんの話を聞いてショックを受けた僕を支えてくれて、灼熱の砂漠を突っ切って僕たちを助けに来てくれた。
 いつでも僕を少し離れたところから守ってくれて、強くなりたい僕のために剣を教えてくれて。大きくて重い身体に組み敷かれて、抱きしめられて奥の奥まで何度も愛された。

 僕をからかう意地悪な言葉が聞きたい。あの腕でぎゅっと抱きしめられて、押しつぶされそうな身体の重みを感じたい。

 すると空気が動く気配がして、ダルガートが僕の前に膝をついた。

「なぜ泣く」

 こんな時でも冷静で冷淡なダルガートの声が憎らしくて愛おしい。

「……ダルガートが好きだから」

 もうどうなってもいい。そんな投げやりな気持ちで答えた。
 もう我慢ができなかった。気持ちが悪いと思われても、くだらぬことを言うなと殴られてもいいからはっきりと口に出して叫びたかった。
 ダルガートが好きだ。好きで好きで、どうしても思いを断ち切れない。

 突然大きな手に顎を掴まれて持ち上げられる。
 ダルガートの冷ややかな目が僕を見ている。いや、正確には僕のピアスを。

「……右に鑽玉、左に橄欖玉」

 ダルガートが小さく呟く。聞き覚えのないその名を僕はただ黙って聞いた。

「この耳環じかんをどこで?」
「……貰ったんだ。世界で一番大切な人たちに」

 何を考えているかまったくわからない黒い目がじっと僕の耳を見ている。息もできずに答えを待っていると、ふいに顎から手が離れてぐい、と立たされた。

「大祭の間は特に警備の目が厳しい。夜間不出の禁をたがえるな」
「…………わかりました」

 密かに、耳のピアスを見たら全部思い出してくれるのではないかと期待していた。あの砂漠の塔の男がこれは『めちゃくちゃボーナスポイント高いアイテムだし、特殊効果も追加しておいた』と言っていたから。
 でもそんな都合よくはいかないようだ。

 ジャヒーヤを僕に渡し立ち去るダルガートの背中を黙って見送る。そして一人で階段を降り部屋に戻った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...