24 / 89
卒業パーティー
婚約破棄と予言 3
しおりを挟む「……発言を許そう」
国王も一瞬この令嬢に目を奪われたが、素早く立ち直り言葉を発した。
国王は息子リオネルが心惹かれたというこの子爵令嬢を見るのは初めてだった。
元平民でコベール子爵家の令嬢であるレティシア。息子リオネルは高慢な公爵令嬢ローズマリーへの反動でこの令嬢に惹かれているのかと思っていたが……。
レティシアは少し微笑み、そして話し出した。……内心、皆が注目する状況に少し怯えながらもそれを表に出さないようにお腹に力を入れた。
「ありがとうございます。……まず最初に申し上げますと、先程から私の名が上がっておりましたが私はリオネル王太子殿下の恋人ではございません。畏れ多い事でございます。
……ですが私は学園で、ここ数日持ち物が壊されたり上から植木鉢が落ちて来たりと、色んな不審な出来事がありました……」
「それが、私がした事だと言うの!? いったいなんの証拠があって!!」
そこにローズマリーがくってかかる。国王は苦々しくそれを見た。それを察した国王の侍従がローズマリーを諌める。
「フランドル公爵令嬢。貴女は黙りなさい。……レティシア コベール嬢。続けるが良い」
レティシアはローズマリーをチラと見た。
……フランドル公爵令嬢の事はよく知らなかったけれど、彼女は本来こんな我慢の利かない方なのかしら? 幼い頃から『予言』を出していた事からその頃にはもう前世を思い出していたのだろうけど……。前世のニホンの感覚や人間性が大きく現れているという事かしら?
だってこの貴族社会では高位の貴族、ましてや国王陛下の前でそんな態度を取る事はあり得ない事だと、ここ数年に私が受けた貴族教育でも重点的に教わったことだもの。
レティシアはついさっき前世を思い出したところなので、この世界でのレティシアである意識が強い。過去の記憶としての前世が遠くにある感じだ。けれど、フランドル公爵令嬢が相当幼い頃から前世の記憶があったのなら。……その前世のニホンでの記憶を基準にして新たにこの世界での常識を追加していったという事なら、フランドル公爵令嬢と自分のその感覚は全く違っているのかもしれない。
そんな事を考えながらも、レティシアは再び話し出した。
「……はい。ここ数日は色んな不審な出来事がありましたが、それらは誰がした事なのかは分かりません。ですが……」
「ほらっ! やっぱりそうじゃない! 証拠もないのに……」
再び話に割って入ったローズマリーに、今度は別の重臣がその非常識を咎めた。
「黙りなさい! フランドル公爵。そちらの令嬢は人の話を聞く事も出来ないのか! 国王陛下の御前であるぞ!」
重臣の叱責にフランドル公爵はカッとするも、現時点で娘ローズマリーが貴族としてはしたなくも言葉を荒げていることは確かで、周囲の人々の目も自分達に相当厳しい事に気付いた。仕方なく公爵はローズマリーを止める。
ローズマリーは「どうして……っ」と呟き不服そうにレティシアを睨んだ。
静かになったところで、レティシアは話し始めた。
「……先ほど申し上げた事は誰がしたとは私には分かりません。けれど公爵令嬢が私にしたこととして確実に言えるのは、数日前に数人のご友人と一緒に私を呼び出し、たった一度リオネル殿下と偶然会った事を咎められた事。これは沢山の学生の方々が見られていたので確かです。
そして……。つい先程このパーティーが始まる前に、螺旋階段の中程から私を突き落とされたことでございます」
ざわっ……
パーティー会場が騒めいた。
これは黙ってはおられないとフランドル公爵が口を開く。
「それこそなんの証拠があってそのような事を! お前と我が娘は一緒に居なかったと、王太后様がご証言くださっているのだぞ!? ……陛下! これ以上この者の発言は許せません! このような嘘をつく小娘の話など……!」
「そうじゃぞ! 全く……、このように息を吐くように嘘をつくなど、なんとあくどい娘か……! 子爵家程度の娘などはとんでもないものだな!」
フランドル公爵に加勢し、王太后がレティシアを酷く貶めた。
それに反論しようとしたリオネルより先にレティシアは言った。
「……それでは、私が申し上げた事が『嘘』だという『証拠』をお示しくださいませ。失礼ながら、王太后様は私が階段から落ちた所をご覧にはなっていないと思います。そしてお2人は別々に会場にいらっしゃいました。その間フランドル公爵令嬢が何をなさっていたのかはお分かりにならないでしょう?
私は先程階段を落ちた際に怪我をし、こちらの医務室で診察をしていただきました。私を見て笑いながら肩を突き飛ばされたフランドル公爵令嬢。それを『していない証拠』をお示しくださいませ!」
会場内は一瞬シンとしてから、人々は騒めき出す。
そして、フランドル公爵とその令嬢、それに王太后は怒りに肩を震わせた。
「なんという不敬な……!」
王太后は怒り、その『不敬な』小娘を睨みつけた。レティシアはそんな王太后を真っ直ぐに見詰め返す。……そして王太后はその娘の、深い紫の瞳に気付いた。王太后は……目を見開いた。
「……ッ!! お前……! いえ……貴女様は……、その、瞳は……ッ!」
レティシアを見ながら、王太后は遠目から見ても分かる程にブルブルと震え出した。そんな今までにあり得ない状態の母を、急にどうしたのかと案じた国王が声をかける。
「……母上?」
しかし王太后には、この時レティシアしか……、彼女の瞳しか見えていなかった。
そして思い出していた。……古い記憶を。
王太后がまだヴォール帝国の公爵令嬢であった時。
帝国の城に呼び出され、当時の女帝マリアンナ陛下に拝謁した時のことを。
威厳ある女帝の、その深い高貴な紫の瞳に見つめられ、畏れのあまり身動きが出来なくなった、あの時の事を――。
「あああぁぁーーッ! お許しを! お許しください、陛下ッ! 私はっ! 私は陛下のご命令にお応え出来ずに……ッ!」
狂ったように謝罪し出した王太后に、会場中の人々は皆驚いた。
そして、自分に向かって突然謝罪を始めた王太后に、レティシアも戸惑っていた。
……私に、言ってるの? でもついさっきまでは私を酷く糾弾していたじゃない!? ……私を、誰かと勘違いしている?
さっき、私の顔を見た途端に急に顔色が変わってこんな風になられたのよね……。というか、『陛下』? 陛下はあちらでしょう?
そう思ってレティシアは国王陛下をチラリと見る。
国王陛下も自分の母親の今まで見た事のないその異常な様子に驚愕していた。
「王太后様!? ……母上! お気を確かに!」
国王は母に呼びかけたが、そんな息子の声も今の王太后には届かない。
「ええい! 邪魔をするでない! ……おお、我が『ヴォールのアメジスト』……! 私は……!」
尚もレティシアに狂ったように語りかける王太后だったが……。
「……誰か! 母上を寝所にお連れせよ! 侍医を呼ぶのだ!」
国王は母が尋常な状態でない事を察し、強引に衛兵に王太后を連れて行かせた。
王太后の見せた異常な状態に、暫くパーティー会場はしんと静まり返っていた。
「…………さて。確か、証拠が欲しいのでしたね」
その静かな会場に響いたその声に、皆が一斉にそちらを振り返る。
……そこには、金髪に薄紫の瞳の年齢不詳の美しい男性が立っていた。
「私は見ましたよ。……そちらの真っ赤なドレスに真っ赤な髪のご令嬢が、ラベンダーのドレスを着た令嬢が階段から落ちた時に一緒にいたのをね」
ざわっ……
会場が騒つく。
この男性が誰かは知らないが、この王国で王家の次に圧倒的な力を誇るフランドル公爵家の令嬢にそのような発言をするなんて、気は確かなのか?
王家派は男性を心配し、フランドル公爵派は目を吊り上げてその男性を見た。
10
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

契約の花嫁 ~政略結婚から始まる甘い復讐~
ゆる
恋愛
「互いに干渉しない契約結婚」**のはずだった。
冷遇されて育った辺境公爵家の令嬢マルグリートは、第一王子ルシアンとの政略結婚を命じられる。権力争いに巻き込まれたくはなかったが、家を出る唯一の手段として彼女は結婚を受け入れた。——条件は「互いに干渉しないこと」。
しかし、王宮では彼女を侮辱する貴族令嬢たちが跋扈し、社交界での冷遇が続く。ルシアンは表向き無関心を装いながらも、影で彼女を守り、彼女を傷つけた者たちは次々と失脚していく。
「俺の妻が侮辱されるのは気に入らない」
次第に態度を変え、彼女を独占しようとするルシアン。しかしマルグリートは「契約」の枠を超えた彼の執着を拒み続ける。
そんな中、かつて彼女を見下していた異母兄が暗躍し、ついには彼女の命が狙われる。だが、その陰謀はルシアンによって徹底的に潰され、異母兄と母は完全に失脚。マルグリートは復讐を果たすが、心は満たされることはなかった。
「俺のものになれ」
ルシアンの愛は狂おしいほど強く、激しく、そして真っ直ぐだった。彼の執着を拒み続けていたマルグリートだったが、次第に彼の真意を知るにつれ、抗いきれない感情が芽生えていく。
やがて彼女は、政略結婚の枠を超え、王妃として新たな未来を歩み始める——。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる