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卒業パーティー
婚約破棄と予言 2
しおりを挟む「……婚約破棄、でございますか? やはりリオネル殿下は『予言』通りの事をなさいますのね」
見事な赤い髪をゴージャスにカールさせ真っ赤なドレスを着た美しき公爵令嬢ローズマリーは、満足そうに口元を緩めながらも眉を顰めてみせた。
そしてその前には金髪碧眼美青年のこの王国のリオネル王太子。彼は冷静を装ってはいるが、内心はおそらく怒りに震えている。
「――なんとでも言うがいい。ローズマリー フランドル公爵令嬢。私は貴女のした事を決して許すことは出来ない。自分の思うがままにする為に、関係のない人を犠牲にすることなど!」
「……私が一体何をしたと? 何か証拠でもございますの? ……それに関係のない人だなんて……。それは殿下の浮気相手、……その陰に隠れている、レティシア コベール子爵令嬢のことではありませんこと!?」
そこで名指しされた私レティシアは、内心かなり焦っていた。
勿論、今のこの状況もそうなのだけれど……。
『卒業パーティー』『王太子の婚約破棄』『ローズマリー フランドル公爵令嬢』『リオネル王太子』……そして、『レティシア コベール子爵令嬢』。
このキーワードと目の前のこの異常な事態……。これで私は完全に思い出した。日本で生きた前世の記憶を。そして今生きているこの世界はおそらく前世にした乙女ゲーム『公爵令嬢の憂い~真実の愛を求めて~』の世界だって事を……!
思い出したのが、まさかの……今!
いや、どうせならもっと早くに思い出していたら……! 色んな事を予測して行動出来たのに……。…………ん? 予測? ……ッ! 『予言』!!
……そうか……! フランドル公爵令嬢も、きっと私と同じ……。日本での前世の記憶を持っていてしかもあの乙女ゲームの事を詳しく知っているんだわ! だからこそ、数々の『公爵令嬢の予言』を出し、見事当ててきたのね! 前世で知り得たゲームの内容なのだから、当たるのは当然だったんだわ……!
うわー、ズルい! それは所謂『前世チート』じゃない!?
私は今からじゃ、何も出来ないじゃない!
……というか、私はこれこらどうする事が正しいの……!!
だって、このゲームの主役はローズマリー フランドル公爵令嬢。前世で主流になっていた婚約破棄ものの、所謂『ザマァ返し』のゲームなのだもの!
自分の婚約者に色目をつかう女性と裏切った婚約者を懲らしめ真実の愛とは何かを追い求めるゲーム。まあ、婚約者の浮気の証拠集めや周囲の人々を味方につけていき、そしてその中で攻略対象者と密かに愛を育てていくというちょっと乙女ゲームとしては異色のゲームだったのよね。
……とにかく、私レティシアはあの乙女ゲームではザマァされる側!!
離宮で行われているパーティーで、目の前で王太子と公爵令嬢が火花を散らして向き合っている中。
私は今どうするべきか、頭をフル回転させて必死に考えていた――。
「――私は貴女が何の罪もない令嬢に嫌がらせをした事に、憤りを感じている。それでも、私はこのような場でこの事を言うつもりはなかった。……しかし、貴女は決してしてはならない事をした。……それは、貴女が私の『浮気相手』と勝手に定めた本当は関係のない令嬢を階段から突き落とした事だ」
リオネル王太子とローズマリーとの会話を緊張の面持ちで聞いているこの会場の人々は、その話の内容にどよめく。
人を階段から突き落とすのは傷害罪、つまりは完全に犯罪だ。それを貴族の最高位であるフランドル公爵令嬢がしたとするならば大スキャンダルとなる。
「そのような恐ろしいこと、私はしてはおりませんわ。証拠もないのにそんなことを仰るなんて……!」
「……私は貴女の姿を見たのだ。貴女が令嬢の肩を押し突き落とした所を!」
「とんでもない言いがかりですわ。私は先程まで王太后様に呼ばれておりましたの。その後は侍女と一緒でしたしそのような事は出来ませんわ」
2人の応酬は続いた。……しかし今までもそうであったようにローズマリーはのらりくらりとリオネルの指摘を躱し続けた。『証拠がない』『誰かと一緒にいた』……その繰り返し。今までも証言者を公爵家の力で抑えつけたり、証言した者の証言は信用は出来ないとしてきたのだ。
「それに、貴女は昔から私への信頼など全くなかった。……あるはずがない、貴女は私を裏切り続けていたのだから。そしてそんな貴女を私も信頼する事など出来ない。私達が結婚することなどムリなのだ」
「何もしていない私に、そこまで酷いことを仰るなんて!! ああ、こんな酷い罪をなすりつけられるなんて……」
ローズマリーは嗚呼と打ちひしがれたような態度をとった。
レティシアは少し離れた場所で2人の様子を人々と見ていた。
……公爵令嬢はこのまま、『冤罪をかけられ婚約破棄をされた』とゲーム通りの展開とするつもりなのね。けれど……、ゲームの中では王子が余りにも酷い仕打ちをしたとして最後に国王陛下が公爵令嬢側についたけれど、今国王陛下はリオネル王太子の味方だわ。ゲームの展開通りにはならないと思うけれど……。
パーティー会場では、学生を含め貴族達が固唾を飲んでこの状況を見つめている。……しかし、これではやったやっていないの水掛論で決着などつかない。
そして国王は頃合いかと声を上げた。
「これ程までに信頼のない者同士での、結婚など不可能だ。ましてこの状況で一国を守って行くことなど! 2人の婚約の解消を国王である私が認め……」
……そう国王が宣言しかけた時。
「お待ちなさい。……この王太后たる私が、フランドル公爵令嬢ローズマリーの証人となろうではないか。リオネル、証拠もないのによくもそのような愚かなことを申したものだ! 大方その浮気相手の娘がローズマリー嬢を陥れる為に嘘をついたのだ。そしてリオネルも、浮気相手のそのような戯言を愚かにも信じたのだ!」
突然、王太后が話に割って入り自分がローズマリーの無実の証人だと宣言したのである。
これにはリオネルは勿論王太后の息子である国王も、そして貴族達も驚く。……まさか、王太后がここまで愚かだとは……!
ここでフランドル公爵令嬢の味方をすれば、このランゴーニュ王国の実権をフランドル公爵家に奪われてしまうかもしれないというのに、王家側であるはずの王太后にはそれが分からないのか……!?
「リオネル殿下! 酷いですわ! 浮気相手の口車に乗って、罪もない私にそのような冤罪を被せようだなんて……! あんまりですわ……!」
王太后を味方に付け流れを掴んだとほくそ笑み、そう言って涙を流して見せるローズマリー。
……まただ……! またこのやり方でやられるのか……!
いつも『予言』やこういった被害者になりきった『嘘泣き』でリオネルが悪者にされてきた。またこれがまかり通ってしまうのか……!
リオネルは一瞬そう悲観的になった。――その時。
「嘘ではありません」
そこに、一つの澄んだ声が響いた。
どこからか聞こえてきたその声の主を周りは探す。
「――レティシア コベールでございます。……発言の許可をいただきたく」
……そこにはふわりとした妖精のような、それでいて凛とした美しい少女が立っていた。
会場中の人々は、一瞬その少女の凛とした姿に目を奪われた。
ーーーーー
ローズマリーの『予言』の理由が分かったレティシアです。そして王太后がローズマリー側の味方につきリオネル王子が不利になった事で、前に出る事にしました。
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