ヴォールのアメジスト 〜悪役令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜

本見りん

文字の大きさ
上 下
23 / 89
卒業パーティー

婚約破棄と予言 2

しおりを挟む


「……婚約破棄、でございますか? やはりリオネル殿下は『予言』通りの事をなさいますのね」


 見事な赤い髪をゴージャスにカールさせ真っ赤なドレスを着た美しき公爵令嬢ローズマリーは、満足そうに口元を緩めながらも眉を顰めてみせた。
 そしてその前には金髪碧眼美青年のこの王国のリオネル王太子。彼は冷静を装ってはいるが、内心はおそらく怒りに震えている。


「――なんとでも言うがいい。ローズマリー フランドル公爵令嬢。私は貴女のした事を決して許すことは出来ない。自分の思うがままにする為に、関係のない人を犠牲にすることなど!」

「……私が一体何をしたと? 何か証拠でもございますの? ……それに関係のない人だなんて……。それは殿下の浮気相手、……その陰に隠れている、レティシア コベール子爵令嬢のことではありませんこと!?」


 そこで名指しされた私レティシアは、内心かなり焦っていた。
 勿論、今のこの状況もそうなのだけれど……。

 『卒業パーティー』『王太子の婚約破棄』『ローズマリー フランドル公爵令嬢』『リオネル王太子』……そして、『レティシア コベール子爵令嬢』。

 このキーワードと目の前のこの異常な事態……。これで私は完全に思い出した。日本で生きた前世の記憶を。そして今生きているこの世界はおそらく前世にした乙女ゲーム『公爵令嬢の憂い~真実の愛を求めて~』の世界だって事を……!


 思い出したのが、まさかの……今! 


 いや、どうせならもっと早くに思い出していたら……! 色んな事を予測して行動出来たのに……。…………ん? 予測? ……ッ! 『予言』!!

 ……そうか……! フランドル公爵令嬢も、きっと私と同じ……。日本での前世の記憶を持っていてしかもあの乙女ゲームの事を詳しく知っているんだわ! だからこそ、数々の『公爵令嬢の予言』を出し、見事当ててきたのね! 前世で知り得たゲームの内容なのだから、当たるのは当然だったんだわ……!

 うわー、ズルい! それは所謂『前世チート』じゃない!?

 私は今からじゃ、何も出来ないじゃない!


 ……というか、私はこれこらどうする事が正しいの……!! 
 だって、このゲームの主役はローズマリー フランドル公爵令嬢。前世で主流になっていた婚約破棄ものの、所謂『ザマァ返し』のゲームなのだもの! 
 自分の婚約者に色目をつかう女性と裏切った婚約者を懲らしめ真実の愛とは何かを追い求めるゲーム。まあ、婚約者の浮気の証拠集めや周囲の人々を味方につけていき、そしてその中で攻略対象者と密かに愛を育てていくというちょっと乙女ゲームとしては異色のゲームだったのよね。

 ……とにかく、私レティシアはあの乙女ゲームではザマァされる側!!



 離宮で行われているパーティーで、目の前で王太子と公爵令嬢が火花を散らして向き合っている中。

 私は今どうするべきか、頭をフル回転させて必死に考えていた――。



「――私は貴女が何の罪もない令嬢に嫌がらせをした事に、憤りを感じている。それでも、私はこのような場でこの事を言うつもりはなかった。……しかし、貴女は決してしてはならない事をした。……それは、貴女が私の『浮気相手』と勝手に定めた本当は関係のない令嬢を階段から突き落とした事だ」
 

 リオネル王太子とローズマリーとの会話を緊張の面持ちで聞いているこの会場の人々は、その話の内容にどよめく。

 人を階段から突き落とすのは傷害罪、つまりは完全に犯罪だ。それを貴族の最高位であるフランドル公爵令嬢がしたとするならば大スキャンダルとなる。


「そのような恐ろしいこと、私はしてはおりませんわ。証拠もないのにそんなことを仰るなんて……!」

「……私は貴女の姿を見たのだ。貴女が令嬢の肩を押し突き落とした所を!」   

「とんでもない言いがかりですわ。私は先程まで王太后様に呼ばれておりましたの。その後は侍女と一緒でしたしそのような事は出来ませんわ」

 
 2人の応酬は続いた。……しかし今までもそうであったようにローズマリーはのらりくらりとリオネルの指摘を躱し続けた。『証拠がない』『誰かと一緒にいた』……その繰り返し。今までも証言者を公爵家の力で抑えつけたり、証言した者の証言は信用は出来ないとしてきたのだ。


「それに、貴女は昔から私への信頼など全くなかった。……あるはずがない、貴女は私を裏切り続けていたのだから。そしてそんな貴女を私も信頼する事など出来ない。私達が結婚することなどムリなのだ」

「何もしていない私に、そこまで酷いことを仰るなんて!! ああ、こんな酷い罪をなすりつけられるなんて……」

 ローズマリーは嗚呼と打ちひしがれたような態度をとった。


 レティシアは少し離れた場所で2人の様子を人々と見ていた。

 ……公爵令嬢はこのまま、『冤罪をかけられ婚約破棄をされた』とゲーム通りの展開とするつもりなのね。けれど……、ゲームの中では王子が余りにも酷い仕打ちをしたとして最後に国王陛下が公爵令嬢側についたけれど、今国王陛下はリオネル王太子の味方だわ。ゲームの展開通りにはならないと思うけれど……。


 パーティー会場では、学生を含め貴族達が固唾を飲んでこの状況を見つめている。……しかし、これではやったやっていないの水掛論で決着などつかない。


 そして国王は頃合いかと声を上げた。

「これ程までに信頼のない者同士での、結婚など不可能だ。ましてこの状況で一国を守って行くことなど! 2人の婚約の解消を国王である私が認め……」


 ……そう国王が宣言しかけた時。


「お待ちなさい。……この王太后たる私が、フランドル公爵令嬢ローズマリーの証人となろうではないか。リオネル、証拠もないのによくもそのような愚かなことを申したものだ! 大方その浮気相手の娘がローズマリー嬢を陥れる為に嘘をついたのだ。そしてリオネルも、浮気相手のそのような戯言ざれごとを愚かにも信じたのだ!」


 突然、王太后が話に割って入り自分がローズマリーの無実の証人だと宣言したのである。

 
 これにはリオネルは勿論王太后の息子である国王も、そして貴族達も驚く。……まさか、王太后がここまで愚かだとは……!

 ここでフランドル公爵令嬢の味方をすれば、このランゴーニュ王国の実権をフランドル公爵家に奪われてしまうかもしれないというのに、王家側であるはずの王太后にはそれが分からないのか……!?


「リオネル殿下! 酷いですわ! 浮気相手の口車に乗って、罪もない私にそのような冤罪を被せようだなんて……! あんまりですわ……!」


 王太后を味方に付け流れを掴んだとほくそ笑み、そう言って涙を流して見せるローズマリー。

 ……まただ……! またこのやり方でやられるのか……!


 いつも『予言』やこういった被害者になりきった『嘘泣き』でリオネルが悪者にされてきた。またこれがまかり通ってしまうのか……!

 リオネルは一瞬そう悲観的になった。――その時。


「嘘ではありません」


 そこに、一つの澄んだ声が響いた。
 どこからか聞こえてきたその声の主を周りは探す。


「――レティシア コベールでございます。……発言の許可をいただきたく」


 ……そこにはふわりとした妖精のような、それでいて凛とした美しい少女が立っていた。


 会場中の人々は、一瞬その少女の凛とした姿に目を奪われた。






ーーーーー


ローズマリーの『予言』の理由が分かったレティシアです。そして王太后がローズマリー側の味方につきリオネル王子が不利になった事で、前に出る事にしました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...