22 / 89
卒業パーティー
婚約破棄と予言 1
しおりを挟むリオネルとローズマリーが問答しているとパーティーの開会の挨拶があり、国王陛下の入場となった。
ローズマリーはこちらをギロリと睨んできた。……おそらく、彼女の出した『予言』ではもうリオネルが『婚約破棄』を言い渡していなければならないのだろう。
ローズマリーは全ては自分の『予言』通りになると思っているようだが、相手がその『予言』を知っているのに、本当にそのまま自分達に都合の良い思い通りの展開に皆が動くと思っているのだろうか?
リオネルはそれを不思議に思いながらも国王に向き合った。
国王が入場しリオネルと目が合う。リオネルは静かに頷き、父王もそれを見て頷いた。
……これが、リオネルが二つ目の道を選んだ合図だった。
国王はまずは挨拶と学生達へ卒業の祝いを述べる。
「そして……この祝いの時に、この王国の更なる発展の為に皆に知らせたいことがある。
――王太子リオネル。ここへ」
「はい。国王陛下」
指名されたリオネルは国王のすぐ近くまで行き、そしてパーティーの参加者を向いた。
「ランゴーニュ王国王太子であるリオネル ランゴーニュである。ここに皆と共に勉学に励みそして卒業出来たことを幸せに思う。皆、ありがとう」
パーティーの参加者は皆頭を下げる。ある者は王太子と共に学生生活を送れたことを誇らしげに。そしてある者は……、これから一体なにを始めるつもりかと訝しみながら。
「私はこれからこの王国の為に力を尽くしていく所存であるが、新しき道を歩む事も皆に知らせておきたい。
――知っている者もいるかと思うが、私と婚約者の仲はとてもではないが良いものとは言えない。しかしこの王国を更に発展させ、より良き王国とする為には王と王妃が不仲では成り立たない。……よって、ここに私とフランドル公爵令嬢との婚約を解消する事を宣言する」
ざわっ!
会場中が揺れるように騒めいた。
「な……何を仰いますか! 王太子殿下っ! 我がフランドル公爵家の承諾も得ずにこのような場所で強硬に発表するなどという手段に出られるとは……。気は確かであらせられるのか!?」
まず声を上げたのはフランドル公爵。
「……そうですわっ! 我が娘は国王陛下に認められたリオネル王太子殿下の正式な『婚約者』。何の瑕疵もない我が娘を殿下の思い付きだけで破棄にすることなどは出来ないはずですわ!」
そして次にフランドル公爵夫人も悲痛な声を上げた。
「――国王陛下より、フランドル公爵家にはこれまで何度も『婚約の解消』の打診はあったはず。これだけフランドル公爵令嬢の『予言』とやらが人々に噂されている中、本人やフランドル公爵家からその撤回なども無い。そのような信頼のない関係での婚約の継続は不可能であると陛下は考えられた。……勿論、私も陛下と同意見である」
あくまでも、王家として国王の考えからの『婚約の解消』。……そう伝えているのだが。
「そのようなこと……! 『予言』のせいだなどとこちらの責任のような事を仰っておられるが、私どもはリオネル殿下が他に思うお方がいるらしい事を聞き及んでおりますぞ! そのお相手と一緒になりたいが為に我が娘をこのようなやり方で『婚約破棄』をしようなどと、何と酷い事を仰るのか……!!」
フランドル公爵は唾を飛ばさんばかりにそう捲し立てた。
……彼にとっては今この瞬間は権力を握れるかどうかの勝負の時なのだ。
『国王の考え』からではなくリオネル個人の考えのように、そして『解消』と言ったものを『破棄』と言い直し、予言に近付けようとする事も忘れない。
「私は、誰に恥ずべき事もしていない。勿論婚約者を裏切るような事もしてはいない。私はフランドル公爵令嬢の出した『予言』の通りにはならなかった。……しかしフランドル公爵令嬢、貴女は『予言』を現実とする為に私と無関係の女性を『浮気相手』に仕立て上げ攻撃を加えた。これは、決して許されることでは無い!」
リオネルはそう言い切った。
10歳の時あの『予言』を出されてからリオネルは特に自分を律して生きてきた。心惹かれる女性が出来てもそれを胸に秘め、婚約者を裏切る事など考えてはいなかった。もし自分の想いを貫く事を許されるのなら自分はこの王太子という立場を退いただろう。
しかし。婚約者であるフランドル公爵令嬢は『予言』で人々を操り、フランドル公爵家は権力を握ろうと画策している。もし自分が王太子の立場を退いたならば、彼らは弟のアベルが王太子になった後にローズマリーを王妃とさせ彼を傀儡の王とするつもりだろう。それが分かっていて自分が退く訳にはいかない。
……そして何より、リオネルは無関係なレティシアに手を出された事が許し難かった。2年前、レティシアの平穏な生活を守る為に彼女の側を離れる事を決めた。それなのにフランドル公爵家の権力欲の為に再び彼女を巻き込み今日は怪我までさせた。……許せるはずがなかった。
そしてリオネルが入り口近くを見ると、そこには治療を終えたレティシアが心配そうにこちらを見ている姿が見えた。
◇ ◇ ◇
レティシアは医務室で軽い捻挫と診断され足に硬めに包帯を巻かれると、何処からか現れたベルニエ侯爵家の護衛に連れられてパーティー会場に戻って来た。
――ベルニエ侯爵からは、フランドル公爵令嬢側から『浮気相手の令嬢』とされているレティシアが、パーティー会場で王子の側でない場所にいること。場合によっては彼らの誘いを受けたり否定したり、そして最悪の事態にはミーシャの従兄弟サミュエルの婚約者として振る舞うなど臨機応変な対応を求められている。
そして、今のこの状況は――。
……リオネル殿下は名誉毀損も甚だしい『予言』を出しそれを放置したとして、フランドル公爵令嬢との婚約を『解消』なさるつもりなのね。
そう納得しながら会場の後方で様子を窺っていた。そしてここからは『浮気相手』のレティシアに飛び火が来ることを想定してミーシャの従兄弟サミュエルがレティシアの側に来てくれている。
「聞いたよ。……足は大丈夫? 良かったら僕に掴まっていて。今のこの状況は理解してもらえているかな?」
サミュエルはそう声をかけて足を痛めたレティシアを支えてくれた。
「ありがとうございます。軽い捻挫ですので大丈夫ですわ。
……そして、殿下は当たらなかった『予言』を『公爵令嬢側の瑕疵』として婚約の『解消』を申し出られている。……という事でよろしいですか?」
レティシアの言葉を聞き、サミュエルは頷いた。
「そうだ。だから、なるべく僕と仲睦まじそうに寄り添っていて。……何かあれば、僕たちは『婚約間近な恋人』だからね」
王太子殿下の『浮気相手』に仕立てるつもりだったレティシアに『婚約間近な恋人』がいる。……これでますますフランドル公爵側は不利になるだろう。
そう思いながらリオネル王子とフランドル公爵令嬢のやり取りを見ていたレティシアは……。何やら今目の前で行われる2人の攻防戦を見ていて、以前少し感じた『モヤモヤ』な気分を思い出していた。
……なにかしら……。なんだか、胸の奥がモヤモヤする……。
少し前にもこんな気持ちになったわ。あれは……、そうだわ。数日前にフランドル公爵令嬢とその友人の方々に『王太子殿下に近付くなんて』と責められた時。私は偶然殿下に会っただけなのにあんな風に集団で責めてくるなんて、『まるで悪役令嬢の嫌がらせみたい』ってそう思って……。……?
そうだわ、『悪役令嬢』って何だったかしらって、モヤモヤして……。
『悪役令嬢』……?
『悪役令嬢』の婚約者を奪った子爵令嬢。王太子はその子爵令嬢に夢中になり、卒業パーティーで婚約者である『悪役令嬢』に冤罪をかけ『婚約破棄』をする……。
何故か、そんなストーリーが頭に浮かぶ。
――え? 待って、それってまるで今の私達じゃない。……いえ違うわ。それは『フランドル公爵令嬢が出した予言』みたいってことよね?
――その時。レティシアの中で一つの人生が走馬灯のように流れた。ニホンという国で生きた1人の女性。学生の時に友人達の間で流行った『乙女ゲーム』。攻略本まで買って全ルート制覇しようと夢中になっていた。確か、その乙女ゲームの王太子の『浮気相手』の名前が――。
「……レティシア嬢? 大丈夫かい? 顔が真っ青だ」
隣のサミュエルが心配そうにレティシアを覗き込む。レティシアは「大丈夫ですわ」と言ったものの、内心かなり動揺していた。
レティシアの動揺をよそに、リオネル王太子とフランドル公爵令嬢の話は進んでいく。レティシアは『乙女ゲーム』の事をゆっくりと思い出しながら改めて2人を見た。
ーーーーー
パーティーでのリオネルとフランドル公爵令嬢との戦いが始まりました。
そしてとうとうレティシアも前世を思い出しました。
10
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる