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卒業パーティー
卒業パーティー 1
しおりを挟む卒業パーティーの当日。
レティシアはベルニエ侯爵家の応接間にて、今日レティシアのエスコートをしてくれるサミュエルの紹介を受けていた。
ちなみにミーシャはこの後、婚約者のランベール公爵家ご嫡男が迎えに来てくださるそうだ。
「――はじめまして、レティシア嬢。本日貴女のパートナーを務めさせていただくサミュエルと申します。いとこのミーシャより是が非とも貴女と仲良くなるようにと申しつかって……」
サミュエルはサラサラの明るい栗色の髪に青い瞳。なかなかの好青年で茶目っ気もあるようだった。
「サミュエル! 余計な事は言わなくていいわ。今日はレティシアをしっかりエスコートしてくださらないと、伯母様に昔のアレコレを言い付けますからね!」
ミーシャは仲の良い従兄弟に対してそんなやりとりを交わしながら、レティシアを心配そうにチラリと見る。
「レティシア……。本当に、ごめんなさい。まさかお父様があんな事を仰るなんて、私は……」
「ミーシャ。私は貴女がそうやって私の事を思って心配してくれているだけで嬉しいのよ。今回、とても重要な局面になってしまうのかもしれないけれど……。それはミーシャや侯爵様のせいではないわ。気にしないで」
レティシアはミーシャが気に病まなくて済むように、出来るだけ明るくそう言った。
それにベルニエ侯爵にしても、レティシアをただパーティー会場に放り込む訳ではなくきちんと事情も可能な限り説明してくれた。そして出来るだけ危険を回避できるようにこうしてお身内のサミュエル様をパートナーとして付けてくださったのだ。
どうでも良い完全な捨て駒と思われているのならば、もっと扱いは雑になると思う。約1週間侯爵家で親切にしてくださったベルニエ侯爵家の方々の事を、レティシアは信じたいと思っていた。
……それに、昨日の侯爵の説明からすると、今のところその役割は私にしか出来ないわ……。
「……ミーシャ。私……引き受けると決めたからには、もし本当にそんな状況になったならきっちり頑張るから!」
私は自分に言い聞かせる為にも、ミーシャに力強くそう宣言した。
「……レティシア……」
そんなレティシアをミーシャとサミュエルは眩しそうに見つめた。
◇ ◇ ◇
卒業パーティーは、学園の生徒たちとそのパートナーや保護者が訪れる相当大規模なパーティー。……であるからして、学園の講堂では大きさが足りず毎年会場は王宮の近くの離宮を貸し切って行われる。
大人の貴族のパーティーも行われる会場の為、何度も来たことがある高位貴族もいれば初めて訪れる者もいる。
「うわぁ……、凄い……。王宮に来るのなんて、初めてです……」
当然後者であり王宮に来るのが初めてなレティシアは宮殿の豪華さにドギマギしながら、エスコートしてくださるサミュエルの腕の袖部分を興奮のあまりついキュッと強めに握ってしまう。
「正確に言うと、ここは王宮ではなく離宮だけれどね。王宮内にはもっと豪華な会場があるよ。ここは大人数で集まる時に使われる事が多いね。卒業パーティーでは学生たちがハメをはずしがちだから必ずこちらだね」
キョロキョロと辺りを見回すお上りさん状態のレティシアに、サミュエルはクスリと優しく笑いながら説明してくれた。
サミュエルは伯爵家に嫁いだミーシャの伯母の息子だそうだ。二男だけれど親の持つ爵位の一つである子爵をいただいているのでおススメよ、とミーシャに言われている。
……子爵位を持っていて実家は伯爵家で従兄弟は侯爵家。オマケに優しくて結構な美青年とくればモテるだろうし、私にはとても無理だからね? ミーシャ。
レティシアはそう考えながら、隣にいるこの場に慣れた様子のサミュエルを見て愛想笑いをした。そんなレティシアを見てサミュエルは微笑む。
「……ミーシャから話は聞いていたけれど、本当にレティシア嬢は可愛い人だね。卒業式の制服姿も可愛かったけれど、こうして着飾ればまるで妖精みたいだ。こんな役得な役割を貰えてミーシャに感謝しなければね」
サミュエルはとても魅力的な笑顔でそう言った。
……スゴイ。そうか、これが貴族の誉め殺し? なのね。素敵な貴族の青年に微笑みながらこんな事を言われたら、そりゃ平民の娘はイチコロだわ。平民時代によく言われた『貴族のお世辞や笑顔に騙されちゃいけない』って言葉は本当だったのね。
私は心の中で『貴族コワイ……。イケメン貴族恐るべし』などと思いながらも、とりあえず笑顔で誤魔化しておいた。……どんな反応するのが正解か分からないんだもの。
サミュエルはニコリと笑顔を返してくれた後、スッと真剣な顔をした。
「……本当はずっと一緒にいたいのだけれど、今回は叔父上の依頼もあるからね。会場に入れば君とはいったん距離をおくようにと言われている。会場内では叔父に言われたようにしていて。けれど何か危険なことやおかしな動きがあれば僕は君の近くにいてすぐ駆けつけるから。安心して」
どうやらサミュエルは、ミーシャとベルニエ侯爵、両方からの依頼を受けているらしい。
大変ですねと言いかけて、ああ、今から自分の方が大変になるのだわと思い直した。
離宮の広間に入ったレティシアはいったんサミュエルと別れ、おそるおそる会場を見渡す。
会場内はまだ時間が早いからか人はまばらだった。1人でいるレティシアをチラリと見る方はいたけれど、それほど目立っている訳ではない。
レティシアは少し緊張しながら、もう少し中の方に行こうかしら? と歩き出した。……その時。
「あらっ。失礼」
このまだ人もまばらな大広間で、1人の女生徒がレティシアにぶつかって来た。
「……ごめんなさいね。まあ、リボンが少し曲がってしまったわ。あの扉を出てすぐの階段で2階に行くと大きな鏡のある化粧室がございましてよ。是非直していらして」
そして、結構強引にその2階へと続く扉へと追い立てられてしまった。
……うーん、コレは多分……いえ絶対に? わざとよねぇ。そしてこのまま2階へ行くと、罠か何かが待っている。……そういうことよね……。
レティシアは本当は行きたくない気もしたけれど、侯爵からは少し離れた所から護衛は付けるので、初めは出来るだけ周りの思惑に乗ってやるようにと言われている。
……うん。仕方ない、行くとしますか!
レティシアはその扉から出てすぐにある螺旋階段を、ドレスの裾を気にしながらゆっくりと登り出した。
ーーーーー
レティシアはいよいよ卒業パーティーに突入しました!
そしてレティシアとミーシャは昨日のベルニエ侯爵の態度に戸惑いつつ、このパーティーの流れ次第でこの国の未来が変わってしまうと理解する事になりました。
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