ヴォールのアメジスト 〜悪役令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜

本見りん

文字の大きさ
上 下
13 / 89
公爵令嬢の予言

侯爵家の居候 3

しおりを挟む


 卒業式の前日。私はミーシャのベルニエ侯爵家から護衛を付けていただき、コベール子爵家に帰ってきていた。


 昨日、コベール子爵夫人から卒業式の前に顔が見たいと手紙が届いたのだ。

 今王都のコベール子爵邸には義母しかいない。子爵は毎年のこの時期には領地へ行くのだ。夫人は私の卒業を祝う為にと王都に残ってくださっている。……それなのに、学園で不穏な動きがあるからとはいえ大変な不義理をしているからとても心苦しい。

 ミーシャには『成さぬ仲の義母と2人で会うなんて』と止められたが、義母との仲は2年目辺りから良好だと思っている。

 とにかく、卒業式を1人で迎えるのは可哀想と王都に残ってくださった夫人が顔を見たいと言ってくださるのなら、私は喜んでこの顔を見せようと思った。


「お帰りなさい、レティシア。貴女が行ってしまって、この屋敷は火が消えたかのようになってしまいましたわ。明日の卒業式後は帰って来るとは思ったのですけれど……。その前に貴女の顔を見てお話がしたかったのよ」

 子爵家の上品に整えられた居間に通され、夫人がにこやかにそう切り出した。

「私の卒業を祝う為にこちらに残っていただいているのに、大変申し訳ございません」

 私は夫人に心から謝罪した。
 
「いいのよ。……私も最近の不穏な噂は聞き及んでいます。ここ2週間程で急に貴女が『王太子の浮気相手』として名前が挙がってきていることを。……まるで、公爵令嬢の『予言』に合わせたかのような噂をね」

 子爵夫人は最後眉間に皺を入れながらそう言った。


「ッ! 夫人のお耳にも入ってしまっているのですね……。申し訳ございません。私はやましい事は何もしておりませんが……、社交界でもそれ程噂になっているのですか?」

 私は胸が痛んだ。……子爵家の名を上げるどころか、またしてもご迷惑をおかけしてしまったことに。


「子爵家とはいえ私も貴族の端くれですからね。2週間程前からチラホラとそんな話が聞こえ出したと思ったら、ここ数日でかなり貴女の名前を確定的に出されるようになっています。……貴女を守る為にと子爵家に受け入れたというのに、まさかこのような事に巻き込まれるとは……。旦那様にも急ぎ手紙を出しましたが、おそらく明日には間に合わないでしょう」


 私は目の前が真っ暗になった気がした。

 ――どうして? 私は本当にリオネル様とそんな関係ではない。お慕いしてはいるけれど、最近は2年ぶりに偶然会って少しお話をしただけ。それなのに、何故それが『浮気相手』とされるほど世間に私の名が挙がることになってしまっているの?

 おそらく青い顔をしたのだろう私を子爵夫人は気遣い、お茶のおかわりを用意させてから侍女を下がらせた。


「明日の卒業パーティーは、何やら不穏な予感がします。……けれど、王家派の高位貴族の方々から貴女を必ずパーティーに参加させるようにとの通達を受けています」

「!?」

 私は驚く。今まで聞いた『公爵令嬢の予言』の話で考えると、王家派の方々から見れば『浮気相手』とされる私はそれを回避する為にもパーティーに行かない方が都合が良いのではないかと思っていた。……そういえば、おそらく王家派であろうミーシャのベルニエ侯爵家からもパーティーに行くなとは一度も言われていない。


「王家側にも何か考えがあるのかもしれませんが……。私達は、本当は貴女をそのような事には巻き込ませたくない。
……そうでなければ、貴女の母親にも……父親にも申し訳がたちませんもの……」

 子爵夫人は、そう心苦しそうに言われた。

 私は一瞬、そこまで私の母の事を考えて下さるなんて、と考えて……ハタと思考が停止する。

「『父親』……。コベール子爵に、ですか?」

 今この場に居ないコベール子爵に、ということ……?


 夫人は一瞬躊躇した後、決意したように私の目をしっかりと見て言った。

「レティシア。……本来ならば、旦那様からお話ししていただくべき事ですが……。
貴女の本当の父親は、コベール子爵ではありません」

 私は、驚きで目を見開く。


「ッ! ……でも……! 子爵と私は、顔立ちがそっくりではありませんか。髪と瞳の色は違いますが、顔も雰囲気もそっくりだって、みんなが……」


 3年半前、母を亡くした悲しみは新たに現れた父の存在と貴族の勉強の忙しさでなんとか乗り越えられた。
 今更、急にその『父親』が本当の父でない、だなんて……。


「貴女の本当の父親は……旦那様の弟。歳は離れていましたが2人はよく似ていました。とても優秀な方で外交官をしていたわ。そしてヴォール帝国へ何年か赴いて……、ヴィオレを連れて帰ったの」


 ……それから夫人から聞いた私の本当の父と母ヴィオレの話は、……なんというかこの間のミーシャの二つ目の推理がほぼ大正解だった。

 母は約20年前に起こったヴォール帝国の政争に敗れ亡命した帝国貴族の令嬢。亡命する為に行った我が王国の領事館で外交官をしていた父と出逢い恋に落ちたのだという。
 母の実家を追いやった帝国の貴族は何故かしつこく母の行方を追っていたらしく、2人は王国に来た後も隠れるように子爵家の領地でひっそりと暮らしていたそうだ。……が、その父が事故で亡くなり母は小さな子供、つまり私を連れて姿を消してしまったらしい。

 そして3年半前、コベール子爵は偶然新聞記事で馬車の事故を知り、何故か胸騒ぎがして調べてみたら当たりだったということだった。


 しかし、レティシアを子爵家に引き取るにあたり子爵は悩んだ。
 自分の大切な弟の忘れ形見を子爵家に入れる事は何の問題もない。だが、何故か弟とその妻はその姿を隠すようにして暮らしていた。ヴィオレの実家の政争相手に狙われているとの話だったが、その真偽はともかく彼らは最後までその身を隠し続けていた。

 ……レティシアを今ここで弟の子供と公表して、もし外交官をしていた弟と亡命してきた帝国の令嬢という繋がりに気付く者がいたとしたら? せっかく2人が隠し守ってきた大切な娘が危険に晒されてしまうのではないか? と――。

 しかも、もしその相手がヴォール帝国の貴族だとするのなら、この小さな王国の子爵程度では弟の大切な忘れ形見は守れない。

 それで悩んだ末に、コベール子爵の愛人の子、という事にしたのだ。


「……最初の頃は、本当にごめんなさいね、レティシア。貴女には何の罪もないし旦那様が浮気をした訳でもない事は分かってはいたのだけれど……。やはり『浮気をされてその子供を預かる事になった哀れな女』と社交界で蔑まれるのがとても辛くて、貴女には酷い仕打ちをしてしまったわ……」

 子爵夫人はとても申し訳なさそうにレティシアを見て謝罪した。

「子爵夫人……。いいえ。私の存在が夫人にとてもご迷惑をおかけしている事は自覚しています。それに、私のせいで子爵にも大変な不名誉を背負わせてしまっていたのですね……」

 私はコベール子爵が本当の父親では無い、という事に少なからずショックを受けていた。でも今更子爵夫人がそのような嘘をつくはずもないし、実際に死んだ母も『父は亡くなった』と話していた事を思い出していた。

 自分の弟の子というだけで、敢えて不名誉を背負ってくれた伯父であるコベール子爵夫妻に感謝と謝罪の気持ちでいっぱいだった。


「……それは、旦那様が決めたこと。貴女が気に病む事ではありません。
それにその事を気にするあまり、まさかフランドル公爵令嬢の『予言』に巻き込まれている事に気づかなかったなんて……! それに今貴女は侯爵家預かりとなっているから今回のパーティーを病欠とするのも今は難しいわ。……今日貴女に付いている侯爵家の護衛騎士も、おそらくは必ず貴女を侯爵家に連れ帰るように命じられてるはずよ」


 子爵夫人はそう悔しそうに言う。

「……まさか。ミーシャは、私の大切な友人で……。私の身を本当に案じてくれているんです。私がパーティーに行かないとさえ言えばきっと……」


 私はパーティーに行くかどうかは別にして、ミーシャが『パーティーに行かそう』としているという事を信じたくなかった。


「……そうだといいのだけれど……。私は今の状況で貴女を明日のパーティーに行かせたくないわ。……護衛騎士に、レティシアは具合が良くないから今日はこのままここに留まると、そう言ってみてもいいかしら?」

 夫人の確かな意思を感じて、私は頷いた。




「……え? ご体調がよろしく無いのですか?」

 侯爵家から付いてきて下さった護衛騎士に、子爵夫人が答える。

「ええ。……ですから、今日はこのまま貴方1人で侯爵家に戻って侯爵閣下にそうお伝えしていただけるかしら? ……明日のパーティーまでに体調が良くなればよいのですけれど」

 護衛騎士は少し考えた。

「……では尚更、侯爵家にお連れした方がいいでしょう。お屋敷では専属のお医者様がすぐに診てくださいますから。……失礼ながら、私がその身を運ばせていただきます」


 護衛騎士はそう言うと、有無を言わさずソファでグッタリした演技をしている私を抱き上げた。

 私と子爵夫人は目を合わせ、かなりガクリと力を落としたのだった。




 馬車に乗せられ数十分。私はベルニエ侯爵邸に戻ってきた。

「レティシア。具合が良くないと聞いたわ。今侍医を呼んだからもう少しの我慢よ。……やはり、夫人に何か酷い事を言われたのではなくて?」

 屋敷に入って客間で寝かされ、すぐにミーシャに連絡がいったらしい。

「ミーシャ……。ううん、そんなことではないの。ただ……、社交界でも王子と私の噂は流れているみたいで……。ミーシャ、私本当にリオネル様とはなんでもないのよ。この2年ずっと会ってもいなかった。この間は本当に偶然に会っただけ。それなのに……」


 ミーシャは私の側へ駆け寄り、手を取った。

「分かってるわ、レティシア! 私は貴女を守る! パーティーでは私の従兄弟が貴女のパートナーをする事になってるから。とても良い方よ。婚約者と紹介してしまっても……、いいえなんなら本当に婚約してもいいわ!」

 そうすればレティシアと私は親戚になれるわと、熱心に従兄弟を勧めてくるミーシャに何か思惑があるなどとは感じられない。


「ふふ……、ミーシャったら。
…………ねぇ、ミーシャ。私、明日のパーティーはお休みしようかしら……」

 
 ミーシャを信じたい。そう思いレティシアはそう口にした。すると、

「……そうね……。確かにその方がいいのかもしれないわ。……せっかくの学園の卒業パーティーだけれど、普通のパーティーならまた何度でも機会はあるもの」

 ミーシャは意外にもあっさりとそう答えた。レティシアは心からホッとする。

「じゃあ、決まりね。でもまた従兄弟には機会があれば是非会ってみて……」
「――駄目だ。レティシア嬢には明日の卒業パーティーには必ず出席してもらう」

 ミーシャの言葉を遮って、男性の声がした。

 声のする方を見ると、部屋の扉近くにミーシャの父、ベルニエ侯爵が立っていた。

「お父様? 何を言って――」
「ミーシャ。今からこのランゴーニュ王国の未来を左右する大切な話がある」

 いつもの優しい父親では無い――。ミーシャは驚き、言葉を失った。


「レティシア嬢。……貴女には酷な話かもしれないが、この国の未来の為にご協力願おう」


 レティシアは侯爵を見て、ゴクリと息を呑んだ。



ーーーーー


コベール子爵の娘ではないと分かって、ショックを受けるレティシア。
そしてベルニエ侯爵の態度に驚くレティシアとミーシャでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...