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公爵令嬢の予言
子爵家の令嬢 3
しおりを挟む「レティシア。そのブローチは……。もしやヴィオレのものでは?」
豪華な食事に目が眩み、夕食をコベール子爵と2人でとることになった私は……早速後悔する事になっていた。
……それは貴族の食事のマナーがサッパリ分かっていない、という事……。
たくさんのカラトリーが並び、美味しそうな食事が運ばれてくる。そして私にはどういう法則性でそれを使うのかが分からない。そして前に座る子爵が音を立てずに上品に食べるのを見て、『コレはヤバイ……』と気が付いた。
子爵の食べ方を見よう見真似でしてみるが、おそらく見る人が見れば全くなっていないに違いない。使用人の顔もなんとなく引き攣っているような気がしてしまう。とても美味しいはずの食事の味が、緊張でなんだかよく分からなくなっていた。
そんな中、子爵の先程のセリフになるのだが……。
実は私は母から貰ったペンダントとブローチを着けて来ていたのだ。
子爵は私が着けていたそれを見て、ずっと気になっていたようだった。そして「それは……君の母に渡したブローチだ」と言って涙ぐんだ。
私は正直食事に悪戦奮闘していてそれどころではない状況だったが、その言葉にハッとした。
そうなんだ、このブローチは父からのプレゼントだったのね……。そういえば、このサファイアはこの子爵の瞳の色だわ。アレ? じゃあこのアメジストのペンダントは?
そう聞こうとしたが、またしてもハッとする。
母は、父の名を決して明かさなかった。もし、母が他の男性とも付き合っていてそのどちらが私の前に現れるか分からず2つ共を私に託したのだとしたら? とんでもない藪蛇になるのではないかしら? もしかしてこの子爵が母や私の瞳の色である紫のアメジストのペンダントをプレゼントしたのかもしれないけれど、今このペンダントの話をしないという事はこの子爵には関わりのないものということも考えられるのだ。
この子爵に娘と認めてもらって得をしようという訳ではないけれど、母が気の多い女性だったと思われるのは絶対に嫌だわ。
……という訳で、私はペンダントのことは口にしなかった。
「そうですか、コレは貴方が母に……」
と神妙な顔で答えておいた。
「そうだ。そしてヴィオレが君にこれを託したという事は、レティシアを私に託したということだ。今まで苦労をさせたが、これからはここで安心して暮らして欲しい」
つい流れで、『はい』と答えてしまいそうになった、が。
「は……、いえ! 今見てもらって分かったと思いますが、私は貴族の食事のマナーも分からない平民です! ここで暮らすなんて無理です!」
私は断言した。
しかし、子爵は決して引かなかった。
「マナーなどこれから学べば良い。お前にはこのコベール子爵家の血が流れているのだ。お前には兄がいるのだが、既に結婚して領地を守っている。お前がここで私の側に居てくれると、とても嬉しいのだが」
私が幾ら辞退しても貴族でしかも実の父だというこの人の言うことは絶対で。しかも私の住んでいる町から馬車で随分遠くまで連れて来られたので、こんな夜に1人ですぐに帰るのは危険だ。
そして私はとりあえず一晩この屋敷に泊まることになり……。次の朝目覚めると、もう私はこの家の娘ということになっていた。
……せめて今までお世話になった人たちに挨拶をしたいと言ったのだけれど、もう全て手続きは済ませてありますと執事に言われて終わりだった。
こうして私は『貴族』子爵令嬢レティシア・コベールとして暮らすことになった。
――そして私は『貴族』としてのマナーなどほとんど身に付かないままに、貴族や王族が通う『王立学園』に行くことになった。
『貴族』となってから、急に変化した自分の生活。今まで自分のことは何でも自分でしていたのに、マナーの勉強などはあるものの使用人がいて美味しいものが食べられる。そして温かいふわふわの清潔なベッド。何よりも働かなくていい。何もかもが別世界だった。……子爵家の夫人は、当然私を歓迎してはいなかったけれど。
◇ ◇ ◇
「ふんふふ~ん」
私は王立学園の廊下を裏庭に向かって歩いていた。
そろそろ、アレが出来ているはずとウキウキしながら。
王立学園に入学して3ヶ月。元平民の私は……学園で少し浮いていると思う。マナーや勉強などは付け焼き刃で底辺だし、何より貴族の子弟はだいたいがもっと幼い頃から家同士の交流があり、ある程度初めからグループが出来ている。
そこに割って入れるほどコミュ力も高くなく、何より貴族に対して多少気が引けているのもある。一応同じクラスの男爵家のミーナと子爵家のソフィアとは仲良くなったものの、今日は2人は家の用事で居ない。
裏庭の、少し入り組んだ奥の方に行く前に私は周りを見回す。……うん、誰もいない。そして素早くあまり人目につかない奥の方に行く。
「……ッ! やった! 花が咲いてる!」
私は花壇の端のスペースに密かに植えたソレを見て、思わず笑顔になってそこに駆け寄った。
ここまでくれば、おそらく実が成るわ! そうしたら……!
「――学園の花壇に勝手におかしなモノを植えていたのは君?」
静かに、少し呆れたような声が後ろから掛かった。
……私は人が居るとは思わずビクッと身体を震わす。
「怒っている訳ではないけれどね。ここは一応学園の管理する花壇だから、何かを植えるなら学園の許可を得なければならない」
怯えた私の様子を見てか少し優しげになったその声に、私は恐る恐る後ろを振り向く。
……そこには。少し困ったように微笑むこの国の王子様がいた。
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