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30歳の、誕生祝い

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「ちょっと花凛ー、飲み過ぎだって!」


 少し小洒落た美味しいと評判のレストラン。よく流行っているその店では人々はそれぞれに食事と会話を楽しんでいる。
 そんな中、少々お酒の量が増えて来た私に親友美沙が嗜める言葉をかけた。
 ……しかし私はその友人に物申す!


「イヤイヤ……、今日は私の誕生日だよー? どれだけ飲んだっていいじゃない! 無礼講だ! 美沙ももっと飲めーーッ!」


 そう言って次のお酒を頼む為店員さんを呼んだ。


「イヤ、花凛と私の間で無礼講もないでしょ。それに私を巻き込まないでよー。2人して潰れたら帰れないでしょ? ……もー、花凛は飲んでもいいから私はもう終わり! てか、幾ら花凛が小柄だからって私が担いで帰れる訳ないんだから自分で歩ける程度にしといてよね? 家までは送ってあげるから。……ここんとこ、物騒だからね」


 お酒にはこれ以上付き合ってはくれないものの、美沙は本当に良い友人だ。
 

「美沙~~! 私は嬉しいッ! 良い友人を持って私は幸せだ~~! 男運は、なかったけども……!」

「あ~~、はいはい。今日は花凛のナイトにならせていただきますよ、お姫様」


 美沙は背が高めでスレンダーなモデルみたいな姉御肌の美人。大学時代から何故かすごくウマがあってそのまま友人関係が続いている。
 反して私は背が低く小柄。昔から自分の周りには家族含め背の高い美形が多くて、そのコンプレックスから女子力を上げてなんとかそこそこな可愛い系に仕上げているつもりなんだけど……。


「……本当、花凛はねぇ……。可愛いし女子力高いのに理想が高過ぎるから……」


 なーんて、美沙にボチャかれる。……イヤイヤ、貴女の彼氏は新進気鋭の起業家社長。絶対美沙の方が理想は高いよね?


「美沙ほど理想は高くはないわよー。
……でも考えてもみてよ、料理教室で講師やらないかとまで言わせた料理スキルを持つ私をそんじょそこらの男子1人のものにしてもいいわけ? 語学力、お花、裁縫……。そして磨き上げたこの身体!」


 ……まあ、講師云々はたまたま人が足りない時にちょっと手伝いを頼まれただけ、他のもそれなりに嗜んだだけなんだけどね。
 しかし美沙は残念なものを見る目で私を見た。


「……で、それを活かす相手を見つけられなかった訳よね?」

「うっ……」


 そう……実は私は生まれてこの方誰とも付き合った事がない。
 私のこの血の滲むような努力から培った女子力からいうとモテないことはなかった。しかし、言い寄ってくるのはどうにも自分的にピンとこない相手ばかりだった。

 ……私はこの人と付き合う為にこれまで女を磨いてきたのか? ……イヤ違うだろう!! 
 ……という鋼の意志を貫いていたら、いつの間にやら誰とも付き合う事もなく『祝・30歳!!』……となった訳だ。なんだろう、イマイチ納得いかない。


「まあそんな風に言い続けて早30歳、て事なのよねぇ」

「ちょっと待って! 私は夜の11時30分生まれなの! つまり9時過ぎ現在の今の私はまだ29歳よ?」


「つまりあと2時間そこらで30歳という事ね」


「おおふ……」


 つい、女子力のカケラもない声が出てしまった。これも美沙の容赦ないツッコミの所為である。
 ……しかし私は負けない。


「あー……、うん。でも来年の今頃はもう結婚しちゃってたりなんかして」

「そのセリフ確か去年……いや一昨年も聞いたわよねぇ」


「ごふッ……」


 ……討ち死にしました。


 そんなこんなで2人で思う存分飲んで喋り倒し、今日は花凛の誕生日祝いだからーと美沙がタクシーで11時になる前に酔っ払いを我が一人暮らしマンションまで送ってくれた。


「……花凛? 本当に大丈夫? ほら、ちゃんと靴脱いでー!」

「んー、だいじょぶよ! 美沙、送ってくれてありがとー! ほら、タクシー待たせてるし、私はあとはベッドで寝るだけだし! ……うふふ、今日はありがとねー!」

「……なんだかすごく不安だけと、私が出たらすぐにちゃんと鍵を閉めなさいよ? それから、出来たらメイクも落としてから寝ないと後で大変な事になるわよ。
……花凛、今日はお誕生日おめでとう。コレで魔法使いになれるわね」


 美沙は最後まで私を心配しつつおかしなセリフを言ってから帰って行った。





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