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番外編(本編時系列):ノイと言う男を知るまで
2:バルコニーでの逢瀬
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書類整理を終え、領地経営への助言をしてもいいとの許可も得て、その日は達成感に満ちていた。
夕食をアデル様と取り、ゆっくりとお風呂に入って、夜の時間をゆっくりと過ごす。
「イヴ、そろそろ退室しても良いわ」
「わかりました。何かご用があれば外の侍女達へお申し付けください」
そろそろ寝ようと思い、部屋で控えているイヴへと退室を促せば、イヴは一礼して出ていく。
部屋の前の侍女というのは、私とアデル様に婚前の間違いがないか見張る役目の人達である。
部屋の中までは入ってこないが、廊下からの見張りはしっかりされていた。
「……さてと」
だけど、ここからが私の楽しみの時間だ。
寝る前、時間にしたら午後九時ぐらいにバルコニーへと出る。
「アデル様」
「おや、今日も来たのかい?」
「はい」
バルコニーに出れば、隣の部屋のバルコニーには、アデル様が椅子を出してくつろいでいた。
初日にアデル様とバルコニーで顔を会わせて以降、こうしてほとんど毎日バルコニーで顔を会わせるようにしている。
約束はしていないが、アデル様は昔から寝る前にバルコニーで過ごす習慣があるらしく、夜の支度が全て終わった九時を過ぎると基本的にバルコニーに居る事が多かった。
私は、それに気づいてから御同席させてもらっているのだ。
ただ、その習慣を知ってから、初日の深夜に出会った時、アデル様は何時間バルコニーに居たのかと心配になったのはここだけの話である。
「アデル様、今日もお疲れ様でした」
「エリスもね」
バルコニーの距離は、会話はできるけど、部屋を行き来する事はできない程度に離れている。
その為、間違いが起こることはないだろうと判断して、部屋の中にまで侍女達が待機していないのだと思う。
まあ、侍女達への指示はアデル様がしているだろうから、ただ単に一人になる時間をくれているだけかもしれないが。
「アデル様、今日はありがとうございました」
「ん? なにがだい?」
アデル様と他愛もない話をして、一段落ついた頃に今日のお礼を言うとアデル様は首を傾げた。
「ノイを説得してくれた事とか、私の事を思って誓約書を断ってくれたりとか」
「ああ、その事か。別にお礼なんていいのに。私はエリスの人柄と能力を信頼しているだけだし、働きたいと思っている子に働ける場所を与えたかっただけだしね」
アデル様は、なんてことないと言いたげだけど、それができる人はなかなかいないと思う。
アデル様の誠実さに惚れ直していると、アデル様は言葉を続ける。
「ノイについては、真面目で融通が利かないところもあるけど、ちゃんと話せば納得してくれるからそうしただけだよ。まあ、君の本気度がわかったから納得してくれたのだと思うけどね。まさか、君から誓約書とか出てくるとは思ってなかったと思う」
昼のノイの様子を思い出してかクスクスと笑うアデル様に、ノイの意表をつけたのなら今までの嫌味もちょっとは軽くなる。
本当にちょっとだけど。
夕食をアデル様と取り、ゆっくりとお風呂に入って、夜の時間をゆっくりと過ごす。
「イヴ、そろそろ退室しても良いわ」
「わかりました。何かご用があれば外の侍女達へお申し付けください」
そろそろ寝ようと思い、部屋で控えているイヴへと退室を促せば、イヴは一礼して出ていく。
部屋の前の侍女というのは、私とアデル様に婚前の間違いがないか見張る役目の人達である。
部屋の中までは入ってこないが、廊下からの見張りはしっかりされていた。
「……さてと」
だけど、ここからが私の楽しみの時間だ。
寝る前、時間にしたら午後九時ぐらいにバルコニーへと出る。
「アデル様」
「おや、今日も来たのかい?」
「はい」
バルコニーに出れば、隣の部屋のバルコニーには、アデル様が椅子を出してくつろいでいた。
初日にアデル様とバルコニーで顔を会わせて以降、こうしてほとんど毎日バルコニーで顔を会わせるようにしている。
約束はしていないが、アデル様は昔から寝る前にバルコニーで過ごす習慣があるらしく、夜の支度が全て終わった九時を過ぎると基本的にバルコニーに居る事が多かった。
私は、それに気づいてから御同席させてもらっているのだ。
ただ、その習慣を知ってから、初日の深夜に出会った時、アデル様は何時間バルコニーに居たのかと心配になったのはここだけの話である。
「アデル様、今日もお疲れ様でした」
「エリスもね」
バルコニーの距離は、会話はできるけど、部屋を行き来する事はできない程度に離れている。
その為、間違いが起こることはないだろうと判断して、部屋の中にまで侍女達が待機していないのだと思う。
まあ、侍女達への指示はアデル様がしているだろうから、ただ単に一人になる時間をくれているだけかもしれないが。
「アデル様、今日はありがとうございました」
「ん? なにがだい?」
アデル様と他愛もない話をして、一段落ついた頃に今日のお礼を言うとアデル様は首を傾げた。
「ノイを説得してくれた事とか、私の事を思って誓約書を断ってくれたりとか」
「ああ、その事か。別にお礼なんていいのに。私はエリスの人柄と能力を信頼しているだけだし、働きたいと思っている子に働ける場所を与えたかっただけだしね」
アデル様は、なんてことないと言いたげだけど、それができる人はなかなかいないと思う。
アデル様の誠実さに惚れ直していると、アデル様は言葉を続ける。
「ノイについては、真面目で融通が利かないところもあるけど、ちゃんと話せば納得してくれるからそうしただけだよ。まあ、君の本気度がわかったから納得してくれたのだと思うけどね。まさか、君から誓約書とか出てくるとは思ってなかったと思う」
昼のノイの様子を思い出してかクスクスと笑うアデル様に、ノイの意表をつけたのなら今までの嫌味もちょっとは軽くなる。
本当にちょっとだけど。
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