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本編

32:出航

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 一ヶ月後、私とアデル様は、ダン様の庇護のもと何事もなく母国を後にし、隣国へと船で出国した。

 そこには、ああのドラ息子の癇癪で解雇になったイヴやノイ、他の使用人達の姿もあった。

 ノイが来たのは、驚いたが……。

「義理は果たした。跡取りが必要ないと言うのなら、あそこにいても仕方がない」

 との事だった。

 でも、そう言っててもいつもと言葉に鋭さがなく、落ち込んでいるようだったからいまいち調子が出ない。

 歳も歳だし、あそこで骨を埋めてもいいと思ったんだけど……変わり行くアロガス領を見たくなかったのかもしれない。

「イヴはよかったの?ついてきて」

 イヴは、家族を残し、一人私達についてきた。

「はい! 新しい国ってワクワクしますから!」
「わかる! なんか楽しみだよねぇ!」

 もう、私の侍女じゃないから普通に話してほしいと言ったのだけど、相変わらず敬語を使ってくる。

 でも、以前より気楽に話してくれるようになったからそれは嬉しかった。

 揺れる船の中、私はアデル様を探して歩く。

 一応客人扱いなので、船内は自由に歩いていいと言われているのだ。

「アデル様、ダン様」

 アデル様を見つけたのは甲板の上。ダン様と海を見ながら話しているところだった。

「やあ、エリス。どうしたんだい?」

 ダン様との話を切り上げたアデル様は、私に微笑む。

「いえ、お顔を見たくなって……」
「そう。会いに来てくれて嬉しいよ」

 アデル様と話したくて探してた事を告げれば、アデル様は私の体を抱き締める。

 あの日、追放されて以降、アデル様からの接触が増えた。

 心臓が持たないと思いながらも、アデル様から触れてくれるのが嬉しくて堪能している。

「昼間っからお熱いねぇ……あー、俺も早く嫁さんに会いたい」

 私達の様子を見ていたダン様ため息を吐く。

 奥様は、元王女だというのに呼び方がそれっぽくないのはダン様だからだろう。

「ダン様の奥様は、王女だったって聞きますけど……どんな方なんですか?」
「嫁さんか? いい女だぞ!嬢ちゃん以上にな!」

 なんだか惚気られたけど何もわからない……。ダン様の奥様……本当にどんな方だろう。

「ま、気になるなら明日にでも会えるさ!」
「明日にはつくんですか?」
「おう! 一日予定より早いが、風の調子がよかったんだ」

 そう言って笑うダン様にワクワクしてくる。

 明日から新しい生活が始まるのだ。不安もあるが心から楽しみだった。
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