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本編
20:屋敷に来て一週間
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アロガス領に来て、一週間が経ちここでの生活も慣れてきた。
だけど……。
「暇……」
アデル様と一緒に生活できるのは楽しい。
だけど、貴族の令嬢としてやる事がつまらないのだ。
刺繍。できなくもないが得意でもない。
楽器の演奏。楽器の良し悪しはわかるが、演奏できるかどうかは別。
読書。伯爵家の蔵書は多く読んでいて楽しいがそればかりだと飽きる。
それに文字を読むにしても、数字の羅列された帳簿を見ている方が楽しい。
まあ、言ってしまえば私は根っからの仕事人。商人というわけだ。
「お暇でしたら、お庭でお茶でもなさいますか?」
「良い提案だけど……なんか違うのよ」
読んでいた本を閉じて、ぼんやりしていた私にイヴが提案してくれたけど、昨日もやったし、なんか別の事がしたい。
……もういっそ、アデル様のお仕事手伝わせてもらおうかしら?
余計なお世話だとも思うし、あのノイが煩いとは思うのだけど、もういい加減働きたい。
「……アデル様の執務室に行くわ」
「かしこまりました」
ポツリと呟き、立ち上がると、イヴを連れてアデル様の執務室へと向かう。
この一週間、暇で暇で屋敷の中も外も歩き回ったからアデル様の執務室の場所は把握していた。
「アデル様、エリスです。少しよろしいでしょうか」
執務室の扉を叩き、声をかければ、扉が開く。
「何用ですかエリス嬢」
「あなたじゃなくて、アデル様に用事があるの」
私を出迎えたのは、気に入らない男であるノイだ。
住み込みで領主補佐をしているこの男とはちらほら顔を会わすけど、その度に嫌味を言われる。
というか、当主であるアデル様の婚約者を貴族扱いしないのもなんなんだこいつ。ってなる。
当人は、先代から仕えてはいるものの、従者の家系で平民だ。
なぜこんなに偉そうなのかわからない。
「たかだか婚約者でしかないのに、当主の仕事を邪魔しに来るなど……」
「ノイ、入れてあげて」
また嫌味の応酬かと思ったら部屋の奥からアデル様の声が聞こえる。
「入れ」
私の前に立ちふさがっていたノイは、その声に嫌そうな顔をしながら、横に退く。
だから、なんでそんなに偉そうなのか。
キッ……! っと睨めば向こうも鋭い視線を返してくる。本当に合わないわこいつ。
「どうしたんだいエリス」
ノイとバチバチに睨み合っていたらアデル様が穏やかに問いかけてきた。
その手もとには書類がある。あまり長時間手を止めさせるのは申し訳ないので本題を切り出そう。
だけど……。
「暇……」
アデル様と一緒に生活できるのは楽しい。
だけど、貴族の令嬢としてやる事がつまらないのだ。
刺繍。できなくもないが得意でもない。
楽器の演奏。楽器の良し悪しはわかるが、演奏できるかどうかは別。
読書。伯爵家の蔵書は多く読んでいて楽しいがそればかりだと飽きる。
それに文字を読むにしても、数字の羅列された帳簿を見ている方が楽しい。
まあ、言ってしまえば私は根っからの仕事人。商人というわけだ。
「お暇でしたら、お庭でお茶でもなさいますか?」
「良い提案だけど……なんか違うのよ」
読んでいた本を閉じて、ぼんやりしていた私にイヴが提案してくれたけど、昨日もやったし、なんか別の事がしたい。
……もういっそ、アデル様のお仕事手伝わせてもらおうかしら?
余計なお世話だとも思うし、あのノイが煩いとは思うのだけど、もういい加減働きたい。
「……アデル様の執務室に行くわ」
「かしこまりました」
ポツリと呟き、立ち上がると、イヴを連れてアデル様の執務室へと向かう。
この一週間、暇で暇で屋敷の中も外も歩き回ったからアデル様の執務室の場所は把握していた。
「アデル様、エリスです。少しよろしいでしょうか」
執務室の扉を叩き、声をかければ、扉が開く。
「何用ですかエリス嬢」
「あなたじゃなくて、アデル様に用事があるの」
私を出迎えたのは、気に入らない男であるノイだ。
住み込みで領主補佐をしているこの男とはちらほら顔を会わすけど、その度に嫌味を言われる。
というか、当主であるアデル様の婚約者を貴族扱いしないのもなんなんだこいつ。ってなる。
当人は、先代から仕えてはいるものの、従者の家系で平民だ。
なぜこんなに偉そうなのかわからない。
「たかだか婚約者でしかないのに、当主の仕事を邪魔しに来るなど……」
「ノイ、入れてあげて」
また嫌味の応酬かと思ったら部屋の奥からアデル様の声が聞こえる。
「入れ」
私の前に立ちふさがっていたノイは、その声に嫌そうな顔をしながら、横に退く。
だから、なんでそんなに偉そうなのか。
キッ……! っと睨めば向こうも鋭い視線を返してくる。本当に合わないわこいつ。
「どうしたんだいエリス」
ノイとバチバチに睨み合っていたらアデル様が穏やかに問いかけてきた。
その手もとには書類がある。あまり長時間手を止めさせるのは申し訳ないので本題を切り出そう。
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