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本編
6:寝る前の訪問
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「イヴ、扉を開けてくれる?」
「かしこまりました」
はやる気持ちを押さえながら、返事をして椅子から立ち上がる。
扉を開けるために先に進むイヴの後ろをついていき、扉の前で姿勢を正した。
「遅くにすまないねエリス」
扉が開いた先でアデル様が微笑む。
ガウンを纏い普段は、撫でつけている前髪が崩れ、額にかかっているのが幼さと色っぽさを感じてしまう。
いつ! 何度見ても! 心がときめく! 魔性だと思うわアデル様。私に対して特に。
「いえ、寝る前にアデル様に会えるのは嬉しい事ですので……」
荒ぶる心を商人としての顔で隠しつつ、ほんの少し乙女を含ませる。
まだ成人してまもない私だけど、腹芸は得意だ。これでも、実家では仕入れも販売も経理だってしていた。
本当に跡取りとして頑張っていたのだ。
だから、本心を隠すのも得意。得意だけど……アデル様相手だとなりふり構っていられなくなるから困ったものだ。
まあ、それも商人としての性だろう。一度買い時を逃したものほど、後から後悔するのだから。
「そうかい? でも、長旅で疲れているだろう? 眠たい時は私を待たなくてもいいんだよ?」
「でも、それも明日までですから」
そう、長い……いや、短かった一週間の旅が明日で終わる。
アデル様の領地へと到着するのだ。
「確かに明日には領地に着くけど……本当に疲れてないのかい?」
「男爵になったとはいえ、これでも商家の娘ですよ! 仕入先への旅も、繁忙期の徹夜も慣れっこです!」
心配するアデル様に笑みを浮かべて答えたが自分で言っててちょっと悲しくなった。
跡取り娘だったけど、父さんも母さんも貴族への売り込みが中心になって、仕入れとか私任せだったもの……。
楽しかったけど大変だったわ……。
「商人というのは、大変なんだね……。私も領主として、いろんな所に世話になるけど、皆忙しそうだ」
自分の所に出入りする商人の忙しなさやセールストークを思い出しているのか、アデル様が苦笑している。
その困ったような笑みもまた美しい……。
「儲け時を逃したくありませんからね。生き急いでる生き物なんです商人って」
「それじゃあ、君も?」
私の言葉に、私はどうなのかと首を傾げるアデル様。
ま、眩しい……その動きは私に刺さる!
「え、ええ! それはそうですよ! そのおかげでアデル様の婚約者の座を手に入れましたから! ……儲け時とは違いますが、あの時の自分の判断は間違っていないと確信しております」
アデル様への愛おしさが爆発しそうになりながらも胸を張って答える。
アデル様、年齢差のせいか、それとも婿養子という立場のせいか、あまり私の言葉を本気にしていない節があるのだ。
だから、ただまっすぐ。心の内を正直に打ち明けた。
「かしこまりました」
はやる気持ちを押さえながら、返事をして椅子から立ち上がる。
扉を開けるために先に進むイヴの後ろをついていき、扉の前で姿勢を正した。
「遅くにすまないねエリス」
扉が開いた先でアデル様が微笑む。
ガウンを纏い普段は、撫でつけている前髪が崩れ、額にかかっているのが幼さと色っぽさを感じてしまう。
いつ! 何度見ても! 心がときめく! 魔性だと思うわアデル様。私に対して特に。
「いえ、寝る前にアデル様に会えるのは嬉しい事ですので……」
荒ぶる心を商人としての顔で隠しつつ、ほんの少し乙女を含ませる。
まだ成人してまもない私だけど、腹芸は得意だ。これでも、実家では仕入れも販売も経理だってしていた。
本当に跡取りとして頑張っていたのだ。
だから、本心を隠すのも得意。得意だけど……アデル様相手だとなりふり構っていられなくなるから困ったものだ。
まあ、それも商人としての性だろう。一度買い時を逃したものほど、後から後悔するのだから。
「そうかい? でも、長旅で疲れているだろう? 眠たい時は私を待たなくてもいいんだよ?」
「でも、それも明日までですから」
そう、長い……いや、短かった一週間の旅が明日で終わる。
アデル様の領地へと到着するのだ。
「確かに明日には領地に着くけど……本当に疲れてないのかい?」
「男爵になったとはいえ、これでも商家の娘ですよ! 仕入先への旅も、繁忙期の徹夜も慣れっこです!」
心配するアデル様に笑みを浮かべて答えたが自分で言っててちょっと悲しくなった。
跡取り娘だったけど、父さんも母さんも貴族への売り込みが中心になって、仕入れとか私任せだったもの……。
楽しかったけど大変だったわ……。
「商人というのは、大変なんだね……。私も領主として、いろんな所に世話になるけど、皆忙しそうだ」
自分の所に出入りする商人の忙しなさやセールストークを思い出しているのか、アデル様が苦笑している。
その困ったような笑みもまた美しい……。
「儲け時を逃したくありませんからね。生き急いでる生き物なんです商人って」
「それじゃあ、君も?」
私の言葉に、私はどうなのかと首を傾げるアデル様。
ま、眩しい……その動きは私に刺さる!
「え、ええ! それはそうですよ! そのおかげでアデル様の婚約者の座を手に入れましたから! ……儲け時とは違いますが、あの時の自分の判断は間違っていないと確信しております」
アデル様への愛おしさが爆発しそうになりながらも胸を張って答える。
アデル様、年齢差のせいか、それとも婿養子という立場のせいか、あまり私の言葉を本気にしていない節があるのだ。
だから、ただまっすぐ。心の内を正直に打ち明けた。
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