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本編

2:一目惚れ

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 さて、アデル様と婚約したのはいいが、なぜアデルの子息ではないのかというと……。

 この息子がたいっ……へん! ドラドラドラドラドラ息子なのだ。

 アデル様は婿養子として伯爵家に婿入りされたのだが、伯爵家の跡取り令嬢であった前妻はこれまた甘やかされたご令嬢だったらしく、領地についてはアデル様に丸投げ。

 そして、自分は王都の社交界で艶やかに暮らし、生まれてきた子息も溺愛して育てたから出来たのは、前妻の男版ともいえる男だった。

 だから、そんな男が母親の借金のせいであろうと自分が借金の方にされるなんて許せるわけもない。

 そりゃあもう怒鳴られた。

 ……そう、最初はそいつが婚約者予定だったの!

「こんな地味な女が俺の婚約者になるだと!! 冗談も大概にしろよ無能! 母上の借金すら返せないお前が悪いのだから自分で責任を取れ! 伯爵家との縁が欲しいだけなのであればお前が娶ればいいだろう!」

 初の顔合わせの時、私とアデル様に向けられた言葉である。

 正直ぶっ飛ばそうかな? と思った。でも、堪えた。私えらい。

「ああ、言っておくが伯爵家の正式な血統は俺だけだ。成り上がりの男爵家ごときが乗っ取ろうと思うんじゃないぞ!」

 本当に堪えた。その顔だけはいい面をぶっ飛ばしてやりたかった。

 握りしめた拳がプルプルするのを堪えながら、ドラ息子を見送った私達。

 怒りに震える私に、アデル様は深く頭を下げた。

「あんな息子で申し訳ない。この話は、こちらの非があったとして断ろう」

 疲れきったアデル様の表情。その顔は美術品のように美しかった。

 短くも柔らかい癖のある茶髪。

 長いまつげに縁取られた伏し目がちなたれ目。

 鼻筋の通った形のよい鼻と薄い唇。

 それはそれは、繊細なガラス細工のような今にも壊れそうな危うさを秘めた美しさだった。

 二十も歳が上の男に使う表現ではないだろう。

 おおよそ一般的な男の好みともずれているのはわかる。

 だが、ここでこの人を逃しては、二度と好みの男に出会えないと確信した。

 幸の薄い歳上の繊細美形……。この人は私が幸せにする!

「結婚してください! 私が幸せにします!」
「……え?」

 一世一代の告白にアデル様から困惑の声が漏れたけど……それすら愛おしいと思うほどに私はアデル様に一目惚れしていたのだ。

 それが私とアデル様の慣れ始めである。
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