上 下
136 / 146
第一部:番外編

ヘルト視点18:家族、決別、帰路

しおりを挟む
 エルツの側まで近寄って、障壁を解除していいと告げれば、エルツは障壁を解除すると同時に俺に抱きついて来た。

 汚れてるってのに仕方ないヤツだ。

 だが、ルナが居るとはいえ自分を売った家族のいる故郷に一人乗り込んだのだ。

 外は、モンスターに囲まれているし心細かったに違いない。

 抱きついてくるエルツが無事だった事に安堵しながら、ようやく俺も安心できた。

 その後、ルナがやり取りしていた冒険者が昔世話になったロークさんだと知って驚いた。

 第一線は引いているが、特急冒険者の一人だ。通りで、中のヤツらが持ちこたえられたはずだと思ったところまでは良かった。

 問題は、ここからだ。

 スタンピード中に村をうろついていたエルツの兄が、エルツに気づいて両親を連れてやってきたのだ。

 エルツを嫌っていたという義姉がいなかったのは、良いのか悪いのかといったところだが、アイツらは最悪だった。

 自分達で売り払ったくせに、未だに自分達の所有物であるといった言い分。

 さらに追加で加わった村長は、俺すらそういう扱いをしてくる。

 一度、啖呵切って俺が出て行った事すら都合よく解釈するってどういう頭してんだホントに!

 怒りに任せて叫んで、ロークさんに宥められて……さらに馬鹿共の言葉に言い返そうとした時……。

「ヘルトさん。大丈夫です。自分で話します」

 俺よりずっと落ち着いた声でエルツが声を上げた。

 都合の良い頭しか持ってないヤツらに落ち着いた声で淡々と問い、言葉を告げていくエルツは俺よりずっと冷静に見えた。

 でも、エルツが告げる言葉はどれも心の悲鳴のように感じた。

 売られたおかげで皆を助けられた?

 そんな理由で納得できるような扱いじゃなかったろ。

 すぐにでも抱き締めてやりたい。だが、ここでヤツらにエルツの弱みを見せるつもりはなかった。

「僕からできる恩返しは、これが最初で最後です。どうか、僕の事は忘れてください。あの日、あなた達が僕を売った時点で、あなた達の息子の一人は人じゃなくなった。家族じゃなくなったんです。だから、さようなら。僕の家族だった人達」
「だそうだ。俺もエルツも、もうこの村に帰る気はねぇ。今日みてぇにスタンピードがあったら応援で来るかもしれねぇがそれは冒険者を、人の為に働けるヤツらを助ける為だ。断じて、お前らの為なんかじゃねぇ」

 淡々と告げられた言葉に俺からも言葉を重ねて、エルツの肩を叩く。

 これで俺とエルツの故郷への縁は切れた。

 ここは、生まれ故郷ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない……事実として存在しているだけの土地だ。

 早くエルツをコイツらから離してやりたくて、その場をロークさんに任せる。

 領軍の責任者にも頼んだが、ギルドへの処理は冒険者の領分になる。

 本当は、爵位を持ってる俺もいた方がいいが、村との関係を知ってくれたロークさんなら何とかしてくれるだろう。

 ロークさん自身も爵位持ちではあるしな。なんなら、そっちも俺より大先輩だ。領軍とのやり取りもお手のものだろう。

 村から出て俺達の乗ってきた特急馬車を探せば、止めていた場所から連れてきてくれたのか、若い上級冒険者が世話をしてくれていた。

 帰る理由を少し話して、何かあったらロークさんに頼るように伝えておく。

 その後、帰る準備をしていると改めてロークさんが顔を出してくれた。

 感謝されて嬉しそうなエルツを見てホッとする。俺は俺で褒められて照れ臭かったが……たまには弟子扱いされるのも悪くない。

 ソル達の態度の固さに首を傾げるロークさんにエルツと苦笑しながらも、和やかにロークさんへと見送られて故郷を後にした。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

転生したら神子さまと呼ばれています

カム
BL
佐伯要《さえきかなめ》が目を覚ますと、そこは病院のベッドの上ではなく知らない世界だった。目の前には見たことのない男の人がいる。彼は聖騎士であり、要の結婚相手だという。 要はこの世界で『神子』と呼ばれる存在だった。 健康な身体を手に入れて喜ぶ要だが、みんなが自分を必要としているのは、神子だからで、本当は結婚相手にも誰にも愛されてはいないのではないかと悩み始める。 愛されたことのない要が本当の愛を手に入れるまでの話。 聖騎士×転生神子 主人公総愛され気味ですが、最終は固定です。 ファンタジー要素強め。不定期更新です。 異世界の話なので、神子や聖騎士、神官、呪術士などの職業は独自の設定になっています。 エピソード0はかなめが目覚める前のアルバート視点の話になっています。 以前書いていた「転生したら神子と呼ばれています」を書き直しました。

【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。

竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。 溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。 みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。 囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。 サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。 真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。 ☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正 ⭐残酷表現あります。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...