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第一部:番外編
ヘルト視点9:思い、答え、師弟以上恋人未満
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泣きながら俺への思いと謝罪を繰り返すエルツに困惑したのは言うまでもない。
エルツは俺の事をただの憧れだとしか思っていなかったからだ。
好かれているのはもちろん嬉しい。だが、こうして嫌わないでと泣くエルツを見ていると、好意もあるが、依存心も強いのだと思った。
今のエルツは、心がまだ幼い。成長期を迎えた頃からずっと抑圧されていた自我がようやく解放されたようなものだろう。
好きだと言えて、嫌わないでと泣けるだけ、前よりはマシになったと言えるが、それでも両想いだと喜べるような状態じゃねぇ。
この状況で俺の好きだと言ったら、エルツは喜ぶだろうが、俺の良心が咎める。
弱った心につけこんで、囲いこむようなもんだからな。
だが、断るのもエルツを傷つける。だから、言葉を選んで喋った。だけど偽ることなく。
告白されても可愛い弟子である事。
エルツから向けられている感情が憧れだけだと思っていた事。
さらに考えを纏めるために時間が欲しいという事を伝えれば、エルツは静かに待ってくれた。
……覚悟は、決めるかぁ。
自分の想いを隠しつつも、エルツの告白を受け入れる事を決める。
「お前の気持ちには応えてやりたいと思ってる。だけど、少し気持ちの整理がつかねぇんだ」
惚れた事は隠しつつも口を開く。
最初見つけた時は、村であった時の子供のままの認識だった事。
教育を含めて、大人になったエルツが魅力的に見えてしまった事への後悔。今までの行動がそれへの懺悔を含めたものだった事。
それらを聞いているエルツは、大人しかったが……エルツからの想いが依存に近いものだと思っている事なのではないかと思っていると告げた瞬間、エルツは声を荒げた。
「それでもいい……ヘルトさんがヘルトさんだったから! 僕は、今の僕になれたのに……! そんなこと言わないで……っ!」
感情をあらわにして叫ぶエルツ。こちらがなにを言っても、この想いは俺のおかげだと、エルツ自身が好きな俺を俺自身が否定するなと怒っていた。
「……こんなズルい男なのに、そんなに好きか?」
「好き! ヘルトさんじゃなきゃやだ!」
先ほどとは違って、ずいぶんと熱烈な告白だ。
まだ、依存はあると思う。だが、こうやって俺に怒れるくらいには信頼関係ができている。
なら、やっぱり覚悟は決めるべきだろう。
「じゃあ、そこまで好きにさせた責任をちゃんととらねぇとな。まだ、俺自身の気持ちに整理はついていないけど……お前の事は、好ましく思っている。俺に笑いかける姿も、努力しようと頑張る姿も……どんなお前の姿も好きだ」
「本当に……? 僕で……いいの?」
なのに、俺が受け入れたら首を傾げる自信の無さに、まだまだ村で受けた仕打ちが根深い事を改めて理解した。
「お前だからいいんだ。お前も俺がいいんだろ?」
「っ……! うん、うん……ヘルトさんじゃなきゃやだっ!」
「なんだ。嬉しくても泣くのか? 仕方ねぇなぁエルツは。いいぜ、いくらでも肩貸してやるから……満足したら、いつもの笑顔見せてくれよ」
想いを交わしても、恋人と言うにはまだ幼すぎるエルツをあやしながら、自分の理性にどうやって折り合いをつけるべきか頭を悩ませた。
エルツは俺の事をただの憧れだとしか思っていなかったからだ。
好かれているのはもちろん嬉しい。だが、こうして嫌わないでと泣くエルツを見ていると、好意もあるが、依存心も強いのだと思った。
今のエルツは、心がまだ幼い。成長期を迎えた頃からずっと抑圧されていた自我がようやく解放されたようなものだろう。
好きだと言えて、嫌わないでと泣けるだけ、前よりはマシになったと言えるが、それでも両想いだと喜べるような状態じゃねぇ。
この状況で俺の好きだと言ったら、エルツは喜ぶだろうが、俺の良心が咎める。
弱った心につけこんで、囲いこむようなもんだからな。
だが、断るのもエルツを傷つける。だから、言葉を選んで喋った。だけど偽ることなく。
告白されても可愛い弟子である事。
エルツから向けられている感情が憧れだけだと思っていた事。
さらに考えを纏めるために時間が欲しいという事を伝えれば、エルツは静かに待ってくれた。
……覚悟は、決めるかぁ。
自分の想いを隠しつつも、エルツの告白を受け入れる事を決める。
「お前の気持ちには応えてやりたいと思ってる。だけど、少し気持ちの整理がつかねぇんだ」
惚れた事は隠しつつも口を開く。
最初見つけた時は、村であった時の子供のままの認識だった事。
教育を含めて、大人になったエルツが魅力的に見えてしまった事への後悔。今までの行動がそれへの懺悔を含めたものだった事。
それらを聞いているエルツは、大人しかったが……エルツからの想いが依存に近いものだと思っている事なのではないかと思っていると告げた瞬間、エルツは声を荒げた。
「それでもいい……ヘルトさんがヘルトさんだったから! 僕は、今の僕になれたのに……! そんなこと言わないで……っ!」
感情をあらわにして叫ぶエルツ。こちらがなにを言っても、この想いは俺のおかげだと、エルツ自身が好きな俺を俺自身が否定するなと怒っていた。
「……こんなズルい男なのに、そんなに好きか?」
「好き! ヘルトさんじゃなきゃやだ!」
先ほどとは違って、ずいぶんと熱烈な告白だ。
まだ、依存はあると思う。だが、こうやって俺に怒れるくらいには信頼関係ができている。
なら、やっぱり覚悟は決めるべきだろう。
「じゃあ、そこまで好きにさせた責任をちゃんととらねぇとな。まだ、俺自身の気持ちに整理はついていないけど……お前の事は、好ましく思っている。俺に笑いかける姿も、努力しようと頑張る姿も……どんなお前の姿も好きだ」
「本当に……? 僕で……いいの?」
なのに、俺が受け入れたら首を傾げる自信の無さに、まだまだ村で受けた仕打ちが根深い事を改めて理解した。
「お前だからいいんだ。お前も俺がいいんだろ?」
「っ……! うん、うん……ヘルトさんじゃなきゃやだっ!」
「なんだ。嬉しくても泣くのか? 仕方ねぇなぁエルツは。いいぜ、いくらでも肩貸してやるから……満足したら、いつもの笑顔見せてくれよ」
想いを交わしても、恋人と言うにはまだ幼すぎるエルツをあやしながら、自分の理性にどうやって折り合いをつけるべきか頭を悩ませた。
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