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第一部:番外編

ヘルト視点8:寝坊、泣き顔、告白

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 ダンジョンに潜った翌朝。

 普段、訓練している時間になってもエルツが起きてこなかった。

 さすがに昨日無理させ過ぎたか? と、ダンジョンから帰った後に訓練させた事を気にしながら部屋へと向かうと、扉の向こうから小さな声が返っていた。

「なんだか、だるくて……」

 調子は悪そうだが、それだけではないような気がする声色。

 深く聞くか悩みつつも、昨日無理させ過ぎた事を謝り、朝食も作れないというエルツに食べたい物がないか聞いたが、食欲もないようだった。

「わかった。でも、腹が減ったら言えよ。今日は、休みでいいし、俺も家にいるから何かあったら言うんだぞ?」

 そっとしておくべきかと思ってそれだけ告げて一度エルツの部屋の前から立ち去る。

 だけど、階段の前まで来て……どうしてもエルツの様子が気になり、すぐに引き返した。

「ひっ……ひっく……」

 扉の前にたどり着けば、すぐ向こうで泣いている声がする。

 なぜ泣いているのか。辛い事でも思い出したのか気が気ではなかった。

「……エルツ」

 できるだけ動揺を悟らせないように落ち着いた声で扉の向こうへと呼びかける。

「ヘルト、さん……」

 泣きじゃくった声で、俺を呼ぶ声がして僅かに安堵した。俺に気づく余裕はあったらしい。

「様子がおかしいと思ったから戻ってきてみれば……どうした?」
「ヘルトさん、ヘルトさん……」

 問いかければ、まるで迷子の子供が親を呼ぶような声でエルツは俺を呼ぶ。

 すぐにでも抱き締めてやりたい。だが、俺が扉を開けるのをエルツは望んでいないかもしれない。

 そんな考えがあって、扉が開くのを待っていたら、内側から扉が開いた。

「ヘルト、さ……ん……」

 扉の向こうからは、ぐちゃぐちゃに泣いたエルツが姿を現す。

 俺が一度目に来た時からそんなに時間は経ってないはずなのに、その泣き崩れた顔が痛々しかった。

 口調は、軽いものを心がけてエルツの頬を両手で包み込めば、エルツはなぜだか謝罪を繰り返してくる。

 なんとか宥めて話を聞く為に抱き上げて、エルツの部屋の長椅子へと腰かけた。

「ほら、泣いてないで落ち着け。大丈夫。大丈夫だから」

 子供にしてやるみたいにあやしちまったけど、逆効果だったらしくまたエルツが泣き始める。

 こうなったらとことん泣かせてやろうと思って、そう言ったらエルツは安心したように泣きじゃくり始めた。

 とことん付き合ってやるつもりだが……泣き止む前に涙が枯れてしまいそうな泣きようでちょっと心配になる。

 そして、ようやく泣き止んだエルツに問いかけた時。俺の予想もしなかった言葉が飛んできた。

「ひっ……っ……すき……好き、なんです……じぶんでも、わからなく……なるくらい……ヘルトさんが……好き、なんです……」
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