【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

文字の大きさ
上 下
123 / 146
第一部:番外編

ヘルト視点5:特訓、装備、独占欲

しおりを挟む
 エルツが目覚め、特訓に励むようになってから一ヶ月が経った。

 体力面でもだいぶ鍛えたし、魔法に関しては、障壁魔法はすでに俺以上の使い手だと思っている。

 満遍なく教えるよりは、まずは一点特化させた方がいいとの判断だったのだが……経った一ヶ月で上級冒険者の魔法士レベルに達するとは思いもしなかった。

 いけて中級くらいだと思っていたのに、魔法に関しては俺の想像を越えてくるエルツの成長性が楽しい。

 自分の身を守るのも、モンスターを倒す事も十分にできる腕前だと判断して、次は実戦経験を積ませる事にした。

 エルツの部屋を訪ねて、今まで溜め込んでいた装備を与えていく。

 売るよりもいつか役に立つんじゃないかと思って、取っといた自分を誉めつつ、現状で最高の装備を選んだ。

 エルツは身の丈に合わない装備だと萎縮してるが、高性能装備で慢心するやつじゃないし、毎回装備を買い換えるよりは最初から良いものを使った方が体にも馴染む。

 それに、実戦経験さえ積めば、エルツはあっさりとその実力に見合った階層にたどり着ける。

 俺の補助すら必要ない状態でな。いや……俺の方がエルツに頼りきりになる可能性だってある。

 それほどにエルツの魔法の才は、素晴らしかった。

「じゃ、これで明日ギルド行った後ダンジョンな」

 一流の装備に身を包まれ震えているエルツにそう告げれば、驚愕した声と周りを気にする言葉が上がる。

 まあ、奴隷のエルツが着てたら周りのヤツらから視線は向けられるだろうが、これだけの装備与えてたらただの奴隷じゃねぇって事も周りに伝わる。

 装備を狙うヤツらもいるだろうが、俺の側から放さなけりゃ、最大の威嚇にもなるだろうし、気にする必要なんてなかった。

 探索中の安全を優先する事を主張すれば、エルツは渋々頷く。

 高い装備を与えられることより、探索中に俺へと迷惑をかける事の方が抵抗があったのだろう。

 明日、ギルドでたむろしている万年中級以下の冒険者達に絡まれる事を予想しながらも、ギルドへは最初の一回連れていくだけでいい。

 シャマにも会わせなくてもいいだろう。忙しいだろうし……あいつは奴隷に関しては中立寄りだからなんか言われそうだ。

 あと……今はギルドマスターをしているが元特級冒険者の魔法士。エルツを気に入られても困る。

 才能のある芽は育てたいと思うのが、年長者の悪いところだ。

 エルツは、俺が育てると決めたのだからあいつには譲らねぇ。

 そんな事を思いながら、着込んだ装備を外していくエルツを眺めていた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...