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第一部:番外編

ヘルト視点4:心配、目覚め、決意

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 エルツが目を覚ますまでに三日かかった。

 その間に家具屋の店主が来たり、新たに紹介された家具屋が来たりしたが些細な事だ。

 最初は、酷い目に遭ったエルツへの詫びも兼ねていろいろ買っていたのだが、なかなか目を覚まさずに日が過ぎていき気が気でなくなった。

 俺からしたらあれくらいの出血……と思ってしまったのだが、エルツ華奢だ。

 俺と倍くらい体重が違うと思えるほどに、いや……おそらく違うと確信できるほどに細い。

 抱き上げて、重さを感じないほどなのだから軽い。

 そのエルツからあれだけの血が出ていたのだと気づいて血の気が引いた。

 目が覚めてくれと何度も願いながら昼夜問わず、世話をした。

 布に湿らせた水を吸わせ、定期的に体の向きを変え、汗をかいたら着替えさせた。

 起きたらすぐに気づけるようにエルツの眠るベッドに突っ伏しながら仮眠を取り……ようやくエルツが目を覚ました時はようやく安心できた。

 三日も寝ていたのだから、しばらくは安静にさせておこうと思ったのだが……。

「もっと訓練頑張って自分の身を守れるようになりたいです」

 まだ起き上がれるほどにも体力が回復していないのに、厳しく訓練をつけてほしいと願ったエルツの緑色の瞳はまっすぐに俺を見据え、揺るぎのない決意を感じた。

 その瞳を見て、エルツ自身の強さに思わず笑みがこぼれる。

「はははっ、そうか……そうくるか。いいとも!厳しく訓練してやろう!自分で身を守れるのは良い事だからな!」

 今回の事件は、あまりにも理不尽なものだった。

 ものだったが、エルツの意識を強く変える出来事でもあった。

 一方的に嬲られる事を良しとはせず、身を守る事で抵抗しようとする意識を持てたのは、前進といってもいい。

 そう、それでいい。いずれ一人でも生きていけるようになるには必要な意識だ。

 だが、まだ無理はさせられない。

 今日は休息。明日調子を見て、明後日から訓練を再開すると約束した。

 まあ、魔力循環くらいなら問題はないが……安静にしてくれた方が俺は安心できる。

 なに、時間はあるのだから、ゆっくりでいい。

 早く育ててやりたいと心から思っているが、急ぎすぎて潰れる方があってはならないからな。

 横たわりながらも決意を固めやる気に満ちているエルツを眺めつつ、まずは食事からだと立ち上がるのだった。
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