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第一部:番外編
ヘルト視点3:事件、治療、後悔
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決意を固めた翌日。芽生えかけたエルツへの想いを封じて、いい師匠を心がける。
ただ、想いを封じているせいか、それを誤魔化すためか……ついついいろいろ与えちまうんだよな……。
もちろん、必要だと思うものを与えてはいるのだが、あれもこれもと与えているうちに、あたふたとするエルツの姿が可愛くてついついいろいろとやっちまうんだ。
もう少し我が儘になってもいいと思うんだが、それもエルツの良いところだろう。
買い物も終えて、隣で嬉しそうにクレープを持っているエルツが可愛い。もちろん、弟子としてだ。弟子として。
食事を終えてから、魔力についての話とエルツを育てたい建前を話して、魔力を起こした。
だけど、まさかすぐに扱い方を覚えるとは思っていなかった。
魔力の量から将来性は高いと見込んでいた。だけど、エルツ自身の魔法への才能も俺が思う以上に優れていたのだ。
建前だった言葉が、本音に変わる。俺の手で育てたい。どこまで育つか見てみたい。
庇護すべき存在から未熟ながらもたぐいまれなる才を持った存在に変わった瞬間だった。
守ってやりたい気持ちはある。だけど、囲うよりはのびのびといろいろ経験させて育てる方がエルツにはいいだろう。
元々、好奇心の強い子供だった。一緒にダンジョンに潜らせたら面白くなる。
俺自身の好奇心で、芽生えた想いを忘れるほどにエルツの才能に夢中になった。
だが、だから俺は油断していたのだ。エルツが奴隷だと言うことを。平民からの理不尽すら許される存在だという事を。
その翌日。厨房でエルツが血を流しているのを見つけた。
エルツと繋がっている隷属魔法の魔力が揺らいでいるのを辿った先に職人見習いの男から暴行を受けている姿を。
「おい! そこで何をしている!」
咄嗟に声を上げて男の動きを止める。
何かいいわけをしていたが、なんと返したかあまり覚えていない。
倒れ伏すエルツを抱き上げ、血の流れる頭を押さえる。
ああ、なんで……なぜこんな目にこいつが合うのか!
俺の声に駆けつけた家具屋の店員も、職人見習いの親方も一方的に追い出して、自室にエルツを運んでの
治療を行う。
二人きりになったと同時に意識を失ったエルツ。
どこかにぶつけたのであろう頭の傷は深くそして広かった。俺の治癒魔法じゃあとが残ると判断して、ダンジョン産のエリクサーを使用した。
エルツには上級ポーションと言ったが、一つも傷痕を残す可能性を無くしたかった。
半分を傷口にかけ、残りを飲ませるように。
薄く開いた口にエリクサーを少しずつ垂らせばゆっくりと飲み込んでいく。その様子に安堵した。
これで飲まなかったら……口移しも考えたが……治療行為とはいえ、いたたまれなくなる。
そんな複雑な思いを抱えながらもエリクサーのおかげでエルツの怪我は瞬く間に治った。
飲ませたおかげで、蹴られた際の打撲痕もなくなったから対処としては正解だっただろう。
さすがは、ダンジョン産のエリクサーと言ったところか。瀕死の人間すら回復させるという効果は伊達じゃなかったようだ。
ただ、エルツには上級ポーションのままで通す事とする。
エリクサーの価値を知ったら萎縮しそうだし、誤魔化せる部分は誤魔化すが良しだ。
意識を失ったエルツを俺の部屋へと運び、エルツの部屋から取ってきた着替えに着替えさせる。
穏やかに眠っているようなエルツの頬には、奴隷の証となる黒い刻印が焼きついている。
その小さな二つの印が酷く忌々しかった。
奴隷という存在が嫌いだ。使い潰されていく存在が。
そして、奴隷を使い潰して当たり前の存在として扱う奴らが嫌いだ。
奴隷というだけで理不尽な目に合わせる奴らが嫌いだった。
冒険者はよく奴隷を使う。だが、俺のように否定派もいる。
自分の力でダンジョンを攻略するのが面白いんだ。
仲間と協力して攻略するのが面白いんだ。
他人の命を一方的に搾取して攻略するなんて反吐が出た。
だから、そんな存在を俺が持つ事はないと思っていた。
「……お前が、奴隷じゃなければな」
守るという理由があっても、奴隷を所有している事実が心苦しい。
そして、その奴隷に想いを芽生えかけているという事実が良心を苛む。
「あの店主が言ってた事は、間違っちゃいなかったな……」
エルツを買った時に言われた言葉を思い出しながら、眠り続けるエルツの頭を撫でた。
ただ、想いを封じているせいか、それを誤魔化すためか……ついついいろいろ与えちまうんだよな……。
もちろん、必要だと思うものを与えてはいるのだが、あれもこれもと与えているうちに、あたふたとするエルツの姿が可愛くてついついいろいろとやっちまうんだ。
もう少し我が儘になってもいいと思うんだが、それもエルツの良いところだろう。
買い物も終えて、隣で嬉しそうにクレープを持っているエルツが可愛い。もちろん、弟子としてだ。弟子として。
食事を終えてから、魔力についての話とエルツを育てたい建前を話して、魔力を起こした。
だけど、まさかすぐに扱い方を覚えるとは思っていなかった。
魔力の量から将来性は高いと見込んでいた。だけど、エルツ自身の魔法への才能も俺が思う以上に優れていたのだ。
建前だった言葉が、本音に変わる。俺の手で育てたい。どこまで育つか見てみたい。
庇護すべき存在から未熟ながらもたぐいまれなる才を持った存在に変わった瞬間だった。
守ってやりたい気持ちはある。だけど、囲うよりはのびのびといろいろ経験させて育てる方がエルツにはいいだろう。
元々、好奇心の強い子供だった。一緒にダンジョンに潜らせたら面白くなる。
俺自身の好奇心で、芽生えた想いを忘れるほどにエルツの才能に夢中になった。
だが、だから俺は油断していたのだ。エルツが奴隷だと言うことを。平民からの理不尽すら許される存在だという事を。
その翌日。厨房でエルツが血を流しているのを見つけた。
エルツと繋がっている隷属魔法の魔力が揺らいでいるのを辿った先に職人見習いの男から暴行を受けている姿を。
「おい! そこで何をしている!」
咄嗟に声を上げて男の動きを止める。
何かいいわけをしていたが、なんと返したかあまり覚えていない。
倒れ伏すエルツを抱き上げ、血の流れる頭を押さえる。
ああ、なんで……なぜこんな目にこいつが合うのか!
俺の声に駆けつけた家具屋の店員も、職人見習いの親方も一方的に追い出して、自室にエルツを運んでの
治療を行う。
二人きりになったと同時に意識を失ったエルツ。
どこかにぶつけたのであろう頭の傷は深くそして広かった。俺の治癒魔法じゃあとが残ると判断して、ダンジョン産のエリクサーを使用した。
エルツには上級ポーションと言ったが、一つも傷痕を残す可能性を無くしたかった。
半分を傷口にかけ、残りを飲ませるように。
薄く開いた口にエリクサーを少しずつ垂らせばゆっくりと飲み込んでいく。その様子に安堵した。
これで飲まなかったら……口移しも考えたが……治療行為とはいえ、いたたまれなくなる。
そんな複雑な思いを抱えながらもエリクサーのおかげでエルツの怪我は瞬く間に治った。
飲ませたおかげで、蹴られた際の打撲痕もなくなったから対処としては正解だっただろう。
さすがは、ダンジョン産のエリクサーと言ったところか。瀕死の人間すら回復させるという効果は伊達じゃなかったようだ。
ただ、エルツには上級ポーションのままで通す事とする。
エリクサーの価値を知ったら萎縮しそうだし、誤魔化せる部分は誤魔化すが良しだ。
意識を失ったエルツを俺の部屋へと運び、エルツの部屋から取ってきた着替えに着替えさせる。
穏やかに眠っているようなエルツの頬には、奴隷の証となる黒い刻印が焼きついている。
その小さな二つの印が酷く忌々しかった。
奴隷という存在が嫌いだ。使い潰されていく存在が。
そして、奴隷を使い潰して当たり前の存在として扱う奴らが嫌いだ。
奴隷というだけで理不尽な目に合わせる奴らが嫌いだった。
冒険者はよく奴隷を使う。だが、俺のように否定派もいる。
自分の力でダンジョンを攻略するのが面白いんだ。
仲間と協力して攻略するのが面白いんだ。
他人の命を一方的に搾取して攻略するなんて反吐が出た。
だから、そんな存在を俺が持つ事はないと思っていた。
「……お前が、奴隷じゃなければな」
守るという理由があっても、奴隷を所有している事実が心苦しい。
そして、その奴隷に想いを芽生えかけているという事実が良心を苛む。
「あの店主が言ってた事は、間違っちゃいなかったな……」
エルツを買った時に言われた言葉を思い出しながら、眠り続けるエルツの頭を撫でた。
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