【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

文字の大きさ
上 下
117 / 146
第一部:本編

117:また明日から《第一部・完》

しおりを挟む
 町に帰ってきてから半月が経った。

 故郷でのスタンピードは、原因ダンジョンの発見により、ひとまず幕を閉じたらしい。

 僕達と共にこの町から応援に出た冒険者もちらほらと帰って来て、ヘルトさんと結果を聞きに行ったギルドで軽く顔を合わせた。

 帰って来た皆はこれからしばらく休みを取るみたいだけど、ダンジョンで顔を合わせたら、よろしくな。と言われて別れた。

 ……あの人達は優しいから好きだ。

 上級冒険者も人によりけりで、自分の利益しか追求しない人もいるらしい。

 だけど、人なんてそんなものだ。いい人もいれば、悪い人もいる。それだけだった。

「それじゃあ、あの村は解体してよりダンジョンに近い場所に町を作る事になったっと」
「ああ、その通りだ」

 ギルドマスターの執務室で故郷がどうなったのかをヘルトさんと共に聞く。

 どうやら、聞いた通りだと故郷はなくなってしまうらしい。

 あの村は、僕の三代か四代前にできた開拓村で歴史はそこまでは古くはない。

 だけど……ううん、だからこそ。自分達で開拓した土地にこだわり、破滅したんだろうなと思った。

 村の人や家族がどうなるかわからない。

 しばらくは領主からの支援もあるだろうけど……あの偏屈で差別的な人達が普通の町で暮らせるとは思わなかった。

「それで、報酬なんだけど……こんな感じになった」
「ふむ……まー、妥当だな。エルツの分が俺の分になっているのは納得いかねぇが」

 ギルドマスターの差し出した紙をヘルトさんの横から覗き込むとそこには報酬の一覧が並んでいる。

 ギルドからの報酬。国からの報酬。その合計金額に息を飲みながらも、一番下に書かれている報酬に動きを止めた。

 ……ソルとルナが、初心者冒険者から中級冒険者に一気にランクアップしてる!

 僕とヘルトさんの後ろで大人しく話を聞いている二人のランクが上がるのは嬉しいけど……僕が主人なのにどんどん置いていかれてるよぉ……。

 そんな事にガッカリしつつもヘルトさんとギルドマスターの話が終わったので、ギルドを後にした。

 大通りを歩きながら、ヘルトさんが呟く。

「さーて、スタンピードの事も片づいたし……また、明日からダンジョン潜るか」
「そうですね」

 ソルとルナを見つけたり、スタンピードで活躍したりしたけど、僕達の目的は、まだ達成されていない。

 ヘルトさんは、ダンジョン産の魔導義手を。僕は、奴隷から脱却する為に解呪薬を探さねばならないのだから。

「ま、とりあえず今日までは休みだ。どっか寄ってから帰ろうぜ。報酬もたんまり入ったし……なんでも買ってやるぞー」
「では、ヘルト様。本が欲しいです」
「実用書も、娯楽用の小説もです」

 ヘルトさんの言葉に早速ソルとルナが欲しいものをあげる。無表情なのに物欲が凄い。遠慮することなくねだっている。僕にあの度胸はなかった。

「エルツ。お前は?」
「……何か、美味しいもの食べたいです」
「じゃあ、屋台にでも行くか」
「はい!」

 今日くらいは、ヘルトさんの散財に付き合うかと、ささやかな希望を告げて歩き出す。

 未だに、目的は達成されていない。

 でも……。

 これから……どんな事があってもヘルトさんの隣にいれば……そして、ソルとルナが側にいてくれる限り……幸せな日々が続くのだろうと思った。


第一部・完
→あとがき
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

アンドロイドは愛を得る

天霧 ロウ
BL
アンドロイドを持つのが当たり前になった時代。 ある名家は八歳になったらアンドロイドを与えるというしきたりがあった。創造主であるライラからコヨリという名を与えられたアンドロイドの私は助手として彼女とともにその家に訪れた。しかし、理想のアンドロイドを頼めるにもかかわらず、その家の子供――史人は私がほしいと言った。 一悶着あった末、私は彼のものになり十年。すっかり青年に育った彼を見るたびに私の胸のコアや頭の回路はときおり熱を帯びてエラーを吐くようになった。 ムーンライトノベルズにも掲載しております 史人(ふみと)×コヨリ (SF/主従/俺様一途×天然健気/主×従者/人間×アンドロイド/年下攻め/甘々/溺愛/じれじれ/ハッピーエンド/受視点)

地下酒場ナンバーワンの僕のお仕事

カシナシ
BL
地下にある紹介制の酒場で、僕は働いている。 お触りされ放題の給仕係の美少年と、悪戯の過ぎる残念なイケメンたち。 果たしてハルトの貞操は守られるのか?

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

処理中です...