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第一部:本編
110:ピアス
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ヘルトさんからちょっかいを出されながらも、昼食を作り終える。
「できました。食べましょうか」
「おう。……でも、その前に渡したい物がある」
魔導コンロの火を止めた僕にヘルトさんがそう言って小さな箱を取り出す。
「前に頼まれたピアスが完成したの取りに行ってきた」
小さな化粧箱に入っていたのは、ヘルトさんに告白した時にお願いした魔石のピアスだった。
小指の爪程度の小さな赤い魔石が雫型に加工され、金の細い鎖で金具に繋がっている。
金がたぶん本物っぽいので、僕の想像より高いものになってしまった気がするけど……それでも僕の望んだ物だった。
「わぁ……ありがとうございます!」
「早く見せたかったけど、料理中目を離させるわけにはいかねぇからな」
その割には、ちょっかい出してたような? と笑うヘルトさんに首を傾げる。……まあ、いっか。
「飯食い終わったら……耳、穴開けるか?」
「はい!」
ヘルトさんからの提案に頷き、渡されたピアスを大事に手で包む。
「これ眺めながら昼食食べてもいいですか?」
「いいぞ。先にテーブル置いてこい」
「はい!」
一度食堂のテーブルにピアスを置きに行き、厨房に戻って、昼食を運ぶ。
ピアスを眺めながら食べる昼食は、いつも以上に心が踊っている気がした。
昼食を食べ、掃除を済ませたソルが次の作業を聞きに来たので昼食の片づけを頼む。
「ごめんソル。食器の片づけお願いできる?」
「わかりました」
「その後は、ルナと本読んでてもらっていいから」
「はい」
後片付けとそれが終わった後は自由にしていいとお願いして、ヘルトさんと一緒に自室へと向かう。
「穴開けるための針も買ってきたから任せろ」
「お願いします」
あの日の約束も覚えていてくれたのか、ヘルトさんは僕を長椅子へと座らせて針を取り出す。
縫い物用の針に比べると太いそれに少し怖くなるけど、ヘルトさんに開けてもらえるという期待でドキドキした。
「じゃあ、開けるぞ」
「はい」
魔法で消毒した針をヘルトさんが僕の耳へとあてる。
「っ……!」
耳たぶに鋭い痛みが走り、体が強ばるがすぐに痛みが消えた。
「よし、これでいい」
無詠唱だったけど、ヘルトさんが針を刺したまま治癒魔法を使ってくれたらしい。
傷口の塞がった穴から針が抜かれるこそばゆい感覚にムズムズする。
「次、反対な」
そして、反対の耳たぶにも同じように穴を開けてもらい、ヘルトさんの手でピアスをつけてもらう。
「うん、似合ってるぞ」
針をピアスに持ち変え、ピアスをつけてくれたヘルトさんが僕に笑みを浮かべ、手鏡を渡してくれた。
覗き込んだ手鏡の中には、黒い髪の間からゆらゆらと揺れる赤いピアスが覗いている。
「どうだ?」
「……すごく嬉しいです」
初めてヘルトさんとダンジョンに潜った証。
それが、ピアスとなって僕の耳で揺れているのがすごく嬉しい。
「ならよかった」
僕が笑うとヘルトさんも嬉しそうに笑う。
それを見て、全てヘルトさんのものになりたいな。と、いう欲求が僕の中に湧いた。
「……ヘルトさん」
「なんだ?」
名前を呼べば、ヘルトさんが首を傾げる。
「僕を、全部……ヘルトさんのものに、してもらえませんか……?」
抱いてほしい。そう直接的な言葉にはできなかったけど、ヘルトさんには伝わったらしい。
僕と視線を合わせるように屈み、僕の手を左手で握る。
「いいのか?」
問いかける言葉に頷く。
「そうか……じゃあ、いろいろ必要だよな。男同士だと」
男同士での行為の知識があるのか、どうするかな。と呟くヘルトさんに僕は口を開く。
「その……あります」
「ん?」
「商館から……渡された荷物の中に、必要な……道具、も……入ってたんです」
ぽつぽつ言葉を溢す僕にヘルトさんの動きが止まった。
「……ヘルトさん?」
「あの、店主……!」
不安になってヘルトさんを呼べば、ヘルトさんは魔導義手で額を押さえた。
「いや、うん……今は、もういい……。とりあえず、必要なものはあるんだな?」
「はい……」
「そうか」
確認する言葉に頷けば、ヘルトさんも理解を示すように頷く。
「今日でいいのか?」
「……はい」
僕の言葉を聞いて、ヘルトさんは僕へと距離を詰めると、ピアスの揺れる耳へと囁いた。
「夜、先に風呂入って部屋で待ってる」
と。
「できました。食べましょうか」
「おう。……でも、その前に渡したい物がある」
魔導コンロの火を止めた僕にヘルトさんがそう言って小さな箱を取り出す。
「前に頼まれたピアスが完成したの取りに行ってきた」
小さな化粧箱に入っていたのは、ヘルトさんに告白した時にお願いした魔石のピアスだった。
小指の爪程度の小さな赤い魔石が雫型に加工され、金の細い鎖で金具に繋がっている。
金がたぶん本物っぽいので、僕の想像より高いものになってしまった気がするけど……それでも僕の望んだ物だった。
「わぁ……ありがとうございます!」
「早く見せたかったけど、料理中目を離させるわけにはいかねぇからな」
その割には、ちょっかい出してたような? と笑うヘルトさんに首を傾げる。……まあ、いっか。
「飯食い終わったら……耳、穴開けるか?」
「はい!」
ヘルトさんからの提案に頷き、渡されたピアスを大事に手で包む。
「これ眺めながら昼食食べてもいいですか?」
「いいぞ。先にテーブル置いてこい」
「はい!」
一度食堂のテーブルにピアスを置きに行き、厨房に戻って、昼食を運ぶ。
ピアスを眺めながら食べる昼食は、いつも以上に心が踊っている気がした。
昼食を食べ、掃除を済ませたソルが次の作業を聞きに来たので昼食の片づけを頼む。
「ごめんソル。食器の片づけお願いできる?」
「わかりました」
「その後は、ルナと本読んでてもらっていいから」
「はい」
後片付けとそれが終わった後は自由にしていいとお願いして、ヘルトさんと一緒に自室へと向かう。
「穴開けるための針も買ってきたから任せろ」
「お願いします」
あの日の約束も覚えていてくれたのか、ヘルトさんは僕を長椅子へと座らせて針を取り出す。
縫い物用の針に比べると太いそれに少し怖くなるけど、ヘルトさんに開けてもらえるという期待でドキドキした。
「じゃあ、開けるぞ」
「はい」
魔法で消毒した針をヘルトさんが僕の耳へとあてる。
「っ……!」
耳たぶに鋭い痛みが走り、体が強ばるがすぐに痛みが消えた。
「よし、これでいい」
無詠唱だったけど、ヘルトさんが針を刺したまま治癒魔法を使ってくれたらしい。
傷口の塞がった穴から針が抜かれるこそばゆい感覚にムズムズする。
「次、反対な」
そして、反対の耳たぶにも同じように穴を開けてもらい、ヘルトさんの手でピアスをつけてもらう。
「うん、似合ってるぞ」
針をピアスに持ち変え、ピアスをつけてくれたヘルトさんが僕に笑みを浮かべ、手鏡を渡してくれた。
覗き込んだ手鏡の中には、黒い髪の間からゆらゆらと揺れる赤いピアスが覗いている。
「どうだ?」
「……すごく嬉しいです」
初めてヘルトさんとダンジョンに潜った証。
それが、ピアスとなって僕の耳で揺れているのがすごく嬉しい。
「ならよかった」
僕が笑うとヘルトさんも嬉しそうに笑う。
それを見て、全てヘルトさんのものになりたいな。と、いう欲求が僕の中に湧いた。
「……ヘルトさん」
「なんだ?」
名前を呼べば、ヘルトさんが首を傾げる。
「僕を、全部……ヘルトさんのものに、してもらえませんか……?」
抱いてほしい。そう直接的な言葉にはできなかったけど、ヘルトさんには伝わったらしい。
僕と視線を合わせるように屈み、僕の手を左手で握る。
「いいのか?」
問いかける言葉に頷く。
「そうか……じゃあ、いろいろ必要だよな。男同士だと」
男同士での行為の知識があるのか、どうするかな。と呟くヘルトさんに僕は口を開く。
「その……あります」
「ん?」
「商館から……渡された荷物の中に、必要な……道具、も……入ってたんです」
ぽつぽつ言葉を溢す僕にヘルトさんの動きが止まった。
「……ヘルトさん?」
「あの、店主……!」
不安になってヘルトさんを呼べば、ヘルトさんは魔導義手で額を押さえた。
「いや、うん……今は、もういい……。とりあえず、必要なものはあるんだな?」
「はい……」
「そうか」
確認する言葉に頷けば、ヘルトさんも理解を示すように頷く。
「今日でいいのか?」
「……はい」
僕の言葉を聞いて、ヘルトさんは僕へと距離を詰めると、ピアスの揺れる耳へと囁いた。
「夜、先に風呂入って部屋で待ってる」
と。
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