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第一部:本編

106:帰り道の野営

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 しばらく泣き続けた僕は知らない間に眠りについていて、起きたのは野営をしているテントの中だった。

「起きたか」

 泣きつかれたせいかなんとなくだるい体で起き上がれば、ヘルトさんが隣で微笑んでいた。

「はい……眠っちゃってすみません」
「いいさ。色々あったからな」

 謝る僕の頭をヘルトさんが撫でてくれる。その優しい手にホッとした。

「そうだ。ローブ脱がせておいたからな」

 僕を撫で終わったヘルトさんがそう言って僕の横に置かれているローブを指差す。

 血を被っていたヘルトさんに抱きついたからか汚れていたそれは、綺麗になっていた。

 おそらくヘルトさんが魔法で綺麗にしたのだろう。ヘルトさん自信の汚れも綺麗になっているみたいだし。

「ありがとうございます」
「飯も残してあるが食うか?」
「はい。……でも、少しだけ」

 お腹は空いている感じはするけど、食欲はあまりない。

 気分的な問題だとは思うけど、故郷での出来事は、僕の心に大きな衝撃を与えたのだろう。

「わかった。待ってろ」

 ヘルトさんは、もう一度僕の頭を軽く撫でてから、テントの外へと出ていく。

「どうなさいましたかヘルト様」
「エルツが起きたから飯取りにきた」
「さようですか」

 そんな会話が外から聞こえる。その会話を聞くかぎり、ソルとルナが外で見張りをしてくれているのだろう。

 本来は、僕が動かなきゃいけないのにヘルトさんにお世話してもらっているのを申し訳なく思う。

 村長と会話を聞いていたら、ヘルトさんにもいろいろ思う事はあると思うから。

「待たせたな。食え」
「……ありがとうございます」

 ヘルトさんから渡された器を受け取るれば、温かいシチューが入っている。

 それをゆっくりと食べながら、僕はポツリと呟いた。

「いろいろすみません……ヘルトさんにも思う事は色々あったはずなのに」
「俺の事は気にしなくていい。ずいぶん前に受け入れたしな」

 ヘルトさんは、僕の背中を撫でながら笑う。

「ヘルトさんは……何が、あったか聞いてもいいですか?」
「あー、面白くねぇぞ?」
「聞きたいです」

 なんでヘルトさんが村に帰らなくなったのか知りたかった。

「あー……そうだな。俺の場合は、冒険者になってからもちょいちょい村に帰ってたんだが……いつ辞めて、村に落ち着くのか……だったかな」

 ヘルトさんは、観念したように話し出す。

「冒険者として成功してもいつ死ぬかわからねぇ。そんな馬鹿な事してないで帰ってこい。村から出た英雄だとか言われても、あいつらの根っこにあるのはそんな言葉だったわけだ」

 ヘルトさんの活躍は、常に流れてきた。それは、村の外に出かけた人だったり、ヘルトさんに憧れて冒険者になりながらも諦めて帰ってきた人だったり。

 だから、子供達は憧れたけど土地にこだわる大人や跡継ぎである長男なんかは面白きなかったのかもしれない。

 そんな姿、見せた事はなかったけど……帰ってこない人の事の陰口を言うのはたまに聞くことがあった。

「まあ、そんな感じだ。それでも、お前みたいな目にあうヤツを出すとは信じたくなかったけどな」

 故郷に見切りをつけても、ヘルトさん自身もどこかで信じたい気持ちはあったのかもしれない。

 捨てたくても、捨てきれない。故郷とはそんなものだと思った。
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