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第一部:本編

103:決別

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「まだ、僕の事を家族だって言うんですか?」
「そりゃあそうよ。私が産んだ子ですもの」

 僕の言葉に母さんが自信に満ちた顔で頷く。

「自分達で売ったのに?」
「それは、その……」
「あの時は仕方なかったんだ! お前にこんな才能があるとも思っていなかったし、うちには余裕がなかった! 仕方なかったんだ!」

 僕の質問に戸惑う母さんの代わりに父さんが喋る。仕方ない。仕方ないね……。

「じゃあ、父さん達に売られた僕が皆を嫌いになっても仕方ないですよね」
「な、何を言っているんだ! あれは、仕方なく……仕方なく……」

 僕の口から出た言葉は、今までそう思わないようにしていた言葉だった。

「僕、父さんも、母さんも、兄さんも、義姉さんも嫌いです。この村も嫌いです。ずっと、ずっと……大切だと思ってたけど……今日でわかりました」

 スタンピードの事を聞いた時、故郷がなくなる事に青ざめた。

 売られても、捨てられても、大切な故郷だと思っていた。

 でも、避難もせず、善意で助けに来てくれた冒険者を危険にさらした村人達。

 僕を見かけただけで怒鳴ってくる兄さん。

 役に立ちそうだからって取り入ろうとする父さん。

 家族って単語で絡めとろうとする母さん。

 僕という存在を認識したくないのか顔すら見せない義姉さん。

 皆、もう他人でしかないほどに思い入れがなくなっていた。

「村で役立たず扱いされる事が当たり前だと思っていたけど……そうじゃなかった。ずっと、村から出ても変わらないと思っていた。でも、違った。僕には可能性があった。信じてくれた人がいたからここまでなれた」

 隣にいるヘルトさんを見る。

 僕を見下ろしていたヘルトさんと視線が交わり、優しく浮かんだ笑みに僕も笑みを浮かべた。

「売られた事は悲しかった。だけど、そのお陰で僕はヘルトさんに会えたし、育ててもらえた。そのおかげで今日、皆を助ける事ができた」

 家族や村長に視線を戻す。

「あなた達のせいで、命を落とすところだった冒険者達を減らせてよかった。だから、今は売ってくれた事を感謝します。そうじゃないと、僕は皆と一緒に死んでいただろうから」

 売られたからこそ、僕はここにいる。

 ヘルトさんの役に立てた。

 冒険者の死者を減らす事ができた。

 それは、事実だから。

「僕からできる恩返しは、これが最初で最後です。どうか、僕の事は忘れてください。あの日、あなた達が僕を売った時点で、あなた達の息子の一人は人じゃなくなった。家族じゃなくなったんです。だから、さようなら。僕の家族だった人達」

 思っていた事を言いきって、小さく息を吐く。

 もう、家族に言いたいことはない。

 そう思っていたら、ヘルトさんが僕の肩を叩く。

「だそうだ。俺もエルツも、もうこの村に帰る気はねぇ。今日みてぇにスタンピードがあったら応援で来るかもしれねぇがそれは冒険者を、人の為に働けるヤツらを助ける為だ。断じて、お前らの為なんかじゃねぇ」

 きっぱり言いきったヘルトさんに村長も僕の家族も目を逸らす。

「ロークさん、残り任せていいですか?」
「構わねぇよ。こんな村早く出たいだろ? 領軍や領主とのやり取りやダンジョンの捜索は俺らでやってやるよ」
「助かります。エルツ行くぞ」
「はい」

 ヘルトさんと共にその場を後にする。

 僕らの後を、静かに話を聞いていたソルとルナがついてきた。
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