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第一部:本編

101:師匠の師匠

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 走ってくるヘルトさんの姿に少しだけ涙がにじみそうになる。

 ヘルトさんの事を信じていなかった訳じゃないけど、あの量のモンスターを倒しきれるのか不安だった。

 僕だって、魔力が尽きれば死んでいた。障壁が耐えきれなかったら死んでいた。

 絶対じゃない。絶対じゃない中、互いに生きていた事に安堵する。

「エルツ、もう障壁を解除しても大丈夫だ」

 僕のすぐ側に立ち止まったヘルトさんがそう告げる。

 その言葉に、本当に終ったのだと安堵して、障壁を解除する。

「ヘルトさん……ヘルトさん……!」
「あ、おい! ったく……こっちは汚れてるってのに」

 感極まってヘルトさんの体に抱きつけば、仕方ないと笑うような声で、頭を撫でてくれた。

「頑張ったな」
「はい……ヘルトさんも、お疲れさまでした」

 抱きついたまま、ヘルトさんを見上げて笑みを浮かべる。

 笑い返してくれるヘルトさんに嬉しくなっていると、僕らに話しかけてくる人がいた。

「ようヘルト、その坊主お前のだったのか」

 その声の主は、村の中の冒険者を纏めていた壮年の冒険者だった。

 どうやらヘルトさんを知っていたらしい。

 抱きついているところに声をかけられたのが恥ずかしくて、ヘルトさんからそっと離れた。

「ロークさん! 久しぶりじゃないですか!」

 その冒険者……ロークさんを見たヘルトさんが、嬉しそうに笑う。なんというか……少年らしい笑み? で。

「お知り合いですか?」
「エルツ。この人は、俺が若い頃お世話になった人だよ。先輩っていうか、師匠に近いな」

 ヘルトさんの返答にヘルトさんにもそんな人がいたんだと驚くと同時に、丁寧な言葉を使っていることにも納得する。

「よせよせ、さっさと頭角現してった奴らにそんな事を言われるとこそばゆい」
「ロークさん、こそ凄い功績を残して未だに現役なんでしょう? 生きる伝説じゃないですか。俺なんて追いつけませんよ」
「ハッハッハッハッ! 言うじゃねぇか!」

 ヘルトさんとロークさんが楽しげに笑っているのを聞きながら、こういう関係って素敵だなと心が温かくなる。

「で……奴隷否定派のお前がそっちの坊主持ってんのはどういうことだ?」

 ひとしきり笑ったロークさんがヘルトさんへ僕の事を尋ねる。

「実は……」
「やっぱりエルツじゃねぇか!」

 ヘルトさんがロークさんへ説明しようとした時、再び兄さんの声が辺りに響いた。 
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