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第一部:本編

94:到着前夜

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 三日、四日と日が進み、馬車が進む。

 明日の昼にはようやく故郷にたどり着くだろう。

 果たして、まだ無事であるのか……それとも……。

 そんな考えを浮かべながらテントの中で膝を抱えているとヘルトさんに肩を抱かれる。

「今からそんな顔してたら持たねぇぞ」
「わかってるんですけど……なんだか寝れなくて」

 近くなれば近くなるほど、心に余裕がなくなっていく気がする。

 単純に壊れた故郷が見たくないのか、それとも家族にも村の人にも会いたくないのか……だんだんとわからなくなっていた。

 覚悟は決めたとしても、揺らぐ心はあったというわけである。

「まあ、わからなくもないがな」

 苦笑するヘルトさんに抱き寄せられ、その腕の中に収まると少しだけ心が落ち着く。

「だけど、明日何があるかわからねぇ。だから、今は寝ろ。見張りはソルとルナがしてくれてんだからな」
「はい」

 二人は、魔力が続く限り休む必要はない。

 だから、交代で外への見張りをしてくれている。

 交代なのは、人らしく振るまうためで、今も休憩中のルナが黙々と時間潰しに持ってきた冒険者の自伝本を僕らの側で座りながら読んでいた。

 他にも、ヘルトさんが買ってきてくれた娯楽小説とか読んでいるようだけど……楽しいのだろうか?

 手当たり次第にソルもルナも読んでいるから謎である。

 そんな二人は、ヘルトさんと僕の関係は、理解しているようでしていない。と思う。

 魔導人形だからだとは思うんだけどね。でも、たまにまじまじと見てくるから恥ずかしくなってしまう。

 僕より少し年下の少年少女の姿だからね。

 淡々と冷静な二人の前で、ヘルトさんに慰められたり甘やかされるのは気恥ずかしい。

 ヘルトさんは割り切ってるのか気にしないから特に。嬉しくもあるけど複雑でもある……。

 全部ひっくるめたら嬉しいから僕も僕だけど。

 しばらくヘルトさんの腕に収まっていたら馬車移動での疲れを思い出したのか眠くなってくる。

「ようやく眠れそうか?」
「はい……面倒をかけてすみません……」
「いいよ。こういう時のために俺がいるんだ。甘えられる時に甘えとけ」

 抱き締められながら頭を優しく撫でてもらっていると、余計にまぶたが重くなってきた。

「ゆっくり眠れ。休めるのも今のうちだろうからな」

 そんなヘルトさんの声が聞こえたけど……抗う事のできない睡魔に僕の意識は落ちていったのだった。
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