【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

文字の大きさ
上 下
93 / 146
第一部:本編

93:御者台からの景色

しおりを挟む
 村へ向かう特急馬車は、急いでいるから宿場町などで止まるわけもなく、朝から日が暮れるまで走り続ける。

 馬車を走らせる事ができなくなったら、先頭の馬車が決めた野営地で皆夜を明かす。それを繰り返しながら進み続けるのだ。

 一晩二晩、と日を跨ぎ……今、手綱を取っているのはヘルトさんだ。

 だけど、昨日はソルとルナが交代で手綱を握ってくれた。

 最初は、やり方がわからなかった二人だが、思考を共有しているからなのかあっさりと操縦方法を覚えてしまったのだ。

 特急馬車だから普通の馬車と違って、馬がモンスターの血を引く魔獣だから難しいはずなのに……。

 僕は、操作できないのでちょっと悔しい……。

 ヘルトさんが休めるから二人の性能には感謝しているのだけど。

 ただ、僕自信が操縦できない代わり今ヘルトさんと一緒に御者台に乗らせて貰っている。

 話し相手が欲しいと言われたからだ。

 中からも話しかけられるけど、小さな小窓から話しかけるので、喋り続けるにはちょっと不便なんだよね。

 でも、それだけではないと思う。ずっと馬車の中は、僕の気が滅入ると思ってくれたんじゃないかな。

 その気遣いのおかげでヘルトさんの隣に居ることができるし、風を感じることができるから嬉しかった。

「エルツ。本当に大丈夫か?」

 たわいのない話をしていたところに、ヘルトさんがそんな事を聞いてくる。

「大丈夫です。ヘルトさんがいますし……ソルとルナもいますから」

 ヘルトさんの隣にいれば、なにがあっても大丈夫。

 それに……まだ付き合いは短いけどソルとルナもいる。

 僕を主人と仰ぐ二人は、ヘルトさんと同じくらい僕に安心感を与えてくれる。

 裏切らない、離れることのない存在というものが……故郷へと戻る恐怖心を少なくしてくれていた。

「そうか、お前は強くなったな」
「ヘルトさんのおかげですよ。あの時見つけてくれたから、今まで見守ってくれたから……それに、愛してくれているから大丈夫だって思うんです」

 ヘルトさんの邪魔にならないように少しだけ肩に寄りかかれば、ほんの少しだけ、ヘルトさんも僕へと寄りかかる。

「それでも、それはお前が強くなろうとした結果だ。俺は手伝ったに過ぎねぇよ」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。ちゃんと誇れ」

 ヘルトさん見上げると、ニカッと笑うヘルトさんの笑みが見えた。

「……はい」

 ヘルトさんの笑みに答えるように頷く。

 でも……まだ、自分自身に自信は持てない。

 強くなったとは思う。心も、体も。

 魔法だって使えるようになったし、ヘルトさんにもそれは認めてもらえている。

 だけど、奴隷だから……という以外に、なにかが僕の心を塞いでいる気がするのだ。

 このスタンピードによる帰郷がその何かを取り除くきっかけになればいい。

 そんな事を思いながら、まだ遥か遠くに思える故郷への道を見つめたのだった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

アンドロイドは愛を得る

天霧 ロウ
BL
アンドロイドを持つのが当たり前になった時代。 ある名家は八歳になったらアンドロイドを与えるというしきたりがあった。創造主であるライラからコヨリという名を与えられたアンドロイドの私は助手として彼女とともにその家に訪れた。しかし、理想のアンドロイドを頼めるにもかかわらず、その家の子供――史人は私がほしいと言った。 一悶着あった末、私は彼のものになり十年。すっかり青年に育った彼を見るたびに私の胸のコアや頭の回路はときおり熱を帯びてエラーを吐くようになった。 ムーンライトノベルズにも掲載しております 史人(ふみと)×コヨリ (SF/主従/俺様一途×天然健気/主×従者/人間×アンドロイド/年下攻め/甘々/溺愛/じれじれ/ハッピーエンド/受視点)

地下酒場ナンバーワンの僕のお仕事

カシナシ
BL
地下にある紹介制の酒場で、僕は働いている。 お触りされ放題の給仕係の美少年と、悪戯の過ぎる残念なイケメンたち。 果たしてハルトの貞操は守られるのか?

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

処理中です...