91 / 146
第一部:本編
91:故郷
しおりを挟む
故郷にスタンピードの予兆がある。その事実に、心が落ち着かない。
僕を売った家族。助けてくれなかった村人達。
それでも、幼い頃は優しくされていた記憶が甦った。
「……わかった。俺は行こう。だが、エルツ達は置いていく」
隣に居たヘルトさんの言葉に僕はうつむいていた顔を上げる。
「ま、待ってください! 僕も……僕も行きます!」
自分でも驚くような大きな声が口から出て、ヘルトさんが驚いたような顔をした。
「いいのか? お前を売った奴らがいる場所だぞ? まだ、一年と経ってないのに……無理する必要はない」
ヘルトさんが僕に気を使ってくれているのはわかる。でも、ここで行動しなければ、僕はずっとなにも変わらない気がした。
「確かに、家族に会うのも不安ですし……村の人達に顔を会わせるのも怖いです。でも、きっと……逃げてるばかりは駄目だから……」
膝の上にある手をぎゅっと握って言葉を呟けば、ヘルトさんの手が僕の背中を撫でる。
「わかった。それじゃあ、一緒に行こう」
「はい……!」
僕の覚悟を信じてくれたのかヘルトさんが力強い笑みを浮かべ、僕はそれに頷く。
「シャマ、馬車はいつ出る」
「すでにいくつかのパーティーには声をかけている。明日の朝には、出る予定だ」
「わかった。急いで準備しよう」
故郷へと向かう馬車の時間を確認したヘルトさんが立ち上がる。
「エルツ。ソルとルナも行くぞ」
「はい」
「「かしこまりました」」
準備を整える為に急ぐヘルトさんに僕らも続く。
ギルドマスターに見送られながら執務室を後にし、相変わらず騒がしいギルドの中を通りすぎて帰り道を急ぐ。
「ご主人様、予兆ってどれだけの猶予があるんでしょうか……」
「発見済みの人工ダンジョンとかだと、階層ごとのモンスターが急激に増えるから対処もしやすいんだが……未発見の環境ダンジョンじゃあ運次第だろう」
急いで通りを歩きながらヘルトさんに尋ねればそんな言葉が帰ってくる。
「環境ダンジョンは、その作りからごく稀にモンスターが出てくる事もある。だけど、予兆と言われるまでなら数も多いはずだ。他の町からも応援が行くと思うが……ここからだと早馬でも三日……特急馬車で五日ぐらいだ。間に合えばいいんだが……」
ヘルトさんの言葉に僕が売られた時は村から七日かかった事を思い出す。
最悪の事態を考えると……僕らが到着する頃には、スタンピードが発生していて、荒れ果てた村で発生後の討伐処理になるかもしれなかった。
僕を売った家族。助けてくれなかった村人達。
それでも、幼い頃は優しくされていた記憶が甦った。
「……わかった。俺は行こう。だが、エルツ達は置いていく」
隣に居たヘルトさんの言葉に僕はうつむいていた顔を上げる。
「ま、待ってください! 僕も……僕も行きます!」
自分でも驚くような大きな声が口から出て、ヘルトさんが驚いたような顔をした。
「いいのか? お前を売った奴らがいる場所だぞ? まだ、一年と経ってないのに……無理する必要はない」
ヘルトさんが僕に気を使ってくれているのはわかる。でも、ここで行動しなければ、僕はずっとなにも変わらない気がした。
「確かに、家族に会うのも不安ですし……村の人達に顔を会わせるのも怖いです。でも、きっと……逃げてるばかりは駄目だから……」
膝の上にある手をぎゅっと握って言葉を呟けば、ヘルトさんの手が僕の背中を撫でる。
「わかった。それじゃあ、一緒に行こう」
「はい……!」
僕の覚悟を信じてくれたのかヘルトさんが力強い笑みを浮かべ、僕はそれに頷く。
「シャマ、馬車はいつ出る」
「すでにいくつかのパーティーには声をかけている。明日の朝には、出る予定だ」
「わかった。急いで準備しよう」
故郷へと向かう馬車の時間を確認したヘルトさんが立ち上がる。
「エルツ。ソルとルナも行くぞ」
「はい」
「「かしこまりました」」
準備を整える為に急ぐヘルトさんに僕らも続く。
ギルドマスターに見送られながら執務室を後にし、相変わらず騒がしいギルドの中を通りすぎて帰り道を急ぐ。
「ご主人様、予兆ってどれだけの猶予があるんでしょうか……」
「発見済みの人工ダンジョンとかだと、階層ごとのモンスターが急激に増えるから対処もしやすいんだが……未発見の環境ダンジョンじゃあ運次第だろう」
急いで通りを歩きながらヘルトさんに尋ねればそんな言葉が帰ってくる。
「環境ダンジョンは、その作りからごく稀にモンスターが出てくる事もある。だけど、予兆と言われるまでなら数も多いはずだ。他の町からも応援が行くと思うが……ここからだと早馬でも三日……特急馬車で五日ぐらいだ。間に合えばいいんだが……」
ヘルトさんの言葉に僕が売られた時は村から七日かかった事を思い出す。
最悪の事態を考えると……僕らが到着する頃には、スタンピードが発生していて、荒れ果てた村で発生後の討伐処理になるかもしれなかった。
17
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説



アンドロイドは愛を得る
天霧 ロウ
BL
アンドロイドを持つのが当たり前になった時代。
ある名家は八歳になったらアンドロイドを与えるというしきたりがあった。創造主であるライラからコヨリという名を与えられたアンドロイドの私は助手として彼女とともにその家に訪れた。しかし、理想のアンドロイドを頼めるにもかかわらず、その家の子供――史人は私がほしいと言った。
一悶着あった末、私は彼のものになり十年。すっかり青年に育った彼を見るたびに私の胸のコアや頭の回路はときおり熱を帯びてエラーを吐くようになった。
ムーンライトノベルズにも掲載しております
史人(ふみと)×コヨリ
(SF/主従/俺様一途×天然健気/主×従者/人間×アンドロイド/年下攻め/甘々/溺愛/じれじれ/ハッピーエンド/受視点)


オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる