【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

91:故郷

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 故郷にスタンピードの予兆がある。その事実に、心が落ち着かない。

 僕を売った家族。助けてくれなかった村人達。

 それでも、幼い頃は優しくされていた記憶が甦った。

「……わかった。俺は行こう。だが、エルツ達は置いていく」

 隣に居たヘルトさんの言葉に僕はうつむいていた顔を上げる。

「ま、待ってください! 僕も……僕も行きます!」

 自分でも驚くような大きな声が口から出て、ヘルトさんが驚いたような顔をした。

「いいのか? お前を売った奴らがいる場所だぞ? まだ、一年と経ってないのに……無理する必要はない」

 ヘルトさんが僕に気を使ってくれているのはわかる。でも、ここで行動しなければ、僕はずっとなにも変わらない気がした。

「確かに、家族に会うのも不安ですし……村の人達に顔を会わせるのも怖いです。でも、きっと……逃げてるばかりは駄目だから……」

 膝の上にある手をぎゅっと握って言葉を呟けば、ヘルトさんの手が僕の背中を撫でる。

「わかった。それじゃあ、一緒に行こう」
「はい……!」

 僕の覚悟を信じてくれたのかヘルトさんが力強い笑みを浮かべ、僕はそれに頷く。

「シャマ、馬車はいつ出る」
「すでにいくつかのパーティーには声をかけている。明日の朝には、出る予定だ」
「わかった。急いで準備しよう」

 故郷へと向かう馬車の時間を確認したヘルトさんが立ち上がる。

「エルツ。ソルとルナも行くぞ」
「はい」
「「かしこまりました」」

 準備を整える為に急ぐヘルトさんに僕らも続く。

 ギルドマスターに見送られながら執務室を後にし、相変わらず騒がしいギルドの中を通りすぎて帰り道を急ぐ。

「ご主人様、予兆ってどれだけの猶予があるんでしょうか……」
「発見済みの人工ダンジョンとかだと、階層ごとのモンスターが急激に増えるから対処もしやすいんだが……未発見の環境ダンジョンじゃあ運次第だろう」

 急いで通りを歩きながらヘルトさんに尋ねればそんな言葉が帰ってくる。

「環境ダンジョンは、その作りからごく稀にモンスターが出てくる事もある。だけど、予兆と言われるまでなら数も多いはずだ。他の町からも応援が行くと思うが……ここからだと早馬でも三日……特急馬車で五日ぐらいだ。間に合えばいいんだが……」

 ヘルトさんの言葉に僕が売られた時は村から七日かかった事を思い出す。

 最悪の事態を考えると……僕らが到着する頃には、スタンピードが発生していて、荒れ果てた村で発生後の討伐処理になるかもしれなかった。
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