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第一部:本編

82:起動開始

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 魔力が漲る状態で横たわる二体の魔導人形の魔石へと触れる。

「それじゃあ……いきます!」

 ヘルトさんが見守る中、僕は魔導人形達へと魔力を注ぐ。

 やり方は、魔力循環の応用。魔法を使う時に魔力を注ぐ時と同じだ。

 注ぐ、注ぐ、注ぐ、注ぐ。

 注ぐ度に魔力が回復しているはずなのに、魔導人形の魔石は絶え間なく僕の魔力を吸っていく。

 その底見えない様子に勝負している気分になってきて顔に笑みが浮かんだ。

 じわじわと回復しながらも、それが追い付かないくらい体から勢いよく抜けていく魔力。

 貪欲な子達だと思いながら、ひたすらに魔力を注ぎ続けた。

 やがて、魔力が限界まで少なくなり体がふらりと揺れる。

「エルツ!」

 体が崩れ落ちる寸前、慌てたような声とともにヘルトさんの手に支えられた。

「限界までとは言ったが、本当に限界まで注ぐヤツがいるか」
「すみません、なんだか面白くなっちゃって」

 心配そうなヘルトさんに笑みを浮かべて謝る。

 注ぐのに夢中で、限界を見誤っていたと言ったら怒られそうだ。

「それより、魔導人形は?」

 ヘルトさんに支えられながら、横たわっているはずの魔導人形達へと視線を向ける。

 そこには、横たわったまま胸の赤い魔石が鼓動するように光る魔導人形達がいた。

 だが、その姿は先ほどのまでの明らかに人形だとわかる形からは程遠く、髪の毛の生えていなかった頭には、柔らかそうな髪の毛が生え、無機質な瞳が収まっていた眼孔は瞼に覆われている。

 白い陶磁器のような頬には赤みが差し、小さな唇には口紅を塗ったような艶やかさがあった。

 そして、体も……球体の間接でできていたはずの体は柔らかな肌に覆われていく。

 魔石の鼓動が収まった時。そこには人間の子供と変わらない姿の魔導人形が横たわっていた。

「これは驚いた」
「僕もです」

 魔力を回復させながら注いだから、どれだけの量を注いだかはわからない。

 だけど、魔導人形が人間と同じような姿になるなんてどんな文献でも読んだ事はない。

 そして、ヘルトさんの反応からしても……ヘルトさんも初めて目にした現象のようだった。

 しばらく僕らが固まっていると、魔導人形達の瞼が開く。

 その瞳は、胸に収まっていた魔石のように澄んだ赤い色をしている。

「「おはようございますマスター」」

 二体の魔導人形が起き上がり、僕を見つめる。

 どちらも同じ顔をしているが、髪の長さと色が違うからか受ける印象が違った。

 一体は、金色の髪が耳が見えるくらいの長さに切り揃えられていて、男の子のような雰囲気を感じる。

 もう一体の方は、長い腰までの銀色の髪の毛を持っているせいか女の子のような雰囲気を感じた。
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