【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

72:ダンジョンでの夕食

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 簡単に夕食を作り、ヘルトさんと一緒に食事を取る。

 相変わらず他の冒険者からは浮いているが……気にしても仕方ないので、諦める事にした。

「今日の飯もうめぇな」
「喜んで貰えたのなら良かったです」

 コンロが二つあるので、二品同時に調理できたのでどちらも温かい状態で食べれるのがいいのだろう。

 今日の夕食は、干し肉と干し野菜のスープと肉野菜炒め。

 本来の野営料理はスープの方で、肉野菜炒めに関しては、ヘルトさんが食材の劣化を防ぐアイテムバッグを持っているからできる料理である。

 ただ、このダンジョンのモンスターが亜人系であるからできないのだけど、ダンジョンによっては食材となるモンスターがいるので、それで料理を作る場合もある。

 冒険者の野営料理というのは、そういう知識も含めてのものだった。

「ごちそうさま。明日の朝も頼むぜ」
「はい」

 食事を終え、ヘルトさんからの言葉に笑みを浮かべる。ヘルトさんは、美味しそうに食べてくれるから作る側としても作っていて嬉しい。

「じゃあ、片付けは頼むな。俺はテント張っとく」
「お願いします」

 本当は、テントを張るのも僕の仕事なんだけど、ヘルトさんはこっちの方が効率がいいからと、昨日のうちに僕は説得されてしまっていた。

 そういうところは、本当にズルい。

 テントを張りなれているヘルトさんと張ったことのない僕じゃ、効率はヘルトさんの方が早いのは事実だけど!

 ほんのちょっと働きすぎなヘルトさんに不満を抱きながらも、水魔法と清浄魔法で使い終わった鍋と食器を綺麗にする。

 調理中の障壁魔法もだけど、このあたりは、自主練習のおかげが無詠唱で発動できるようになっていた。

 戦闘中に詠唱するのは、イメージをしっかりさせるのと周りのパーティーメンバーに発動を知らせる為だ。

 魔法は、味方を巻き込む事もあるから余裕のない戦闘中は、詠唱するのが常識らしい。

 その為、無詠唱で発動したりすると仲間割れの原因になったり、よそのパーティーから難癖をつけられる事もあると教わった。

 まあ、無詠唱で奇襲されると確実に後手に回るから同業者どうしでも命のやり取りがある冒険者からしたら必要な警戒心なのだろう。

 だから安全地帯であるこの広場でも戦闘行為はご法度だ。

 野営もあるからある程度の無詠唱は目をこぼされているらしいけど……過去に別のダンジョンで仲の悪いパーティー同士が安全地帯で歪みあった際に、片方のパーティーが無詠唱で攻撃して、大惨事になったことがあったという。

 そのパーティーは、無事だった冒険者達に粛清されたらしいけど……死者や負傷者の数は、そのパーティーの数以上だったと言うのだから安全地帯での冒険者同士の戦闘は悲惨なものだと思う。

 僕も気をつけないと……癖で無詠唱しちゃうけど、疑われて難癖つけられるのはヘルトさんに迷惑かけてしまう。

 それに、奴隷だから目をつけられやすいだろうし……用心する事にこしたことはないと思うんだよね。

 そんな事を考えていたら、テントを張り終わったヘルトさんが声をかけてくる。

「エルツ。張り終わったから中で休むぞ」
「わかりました」

 ヘルトさんの言葉に返事をしながら、とっくに乾いてピカピカになった食器と鍋を手にテントの中のヘルトさんの元へと向かうのだった。
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