【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

71:野営調理

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 予定より早く四層に到着したけど、やることは変わらないので、ヘルトさんの言葉の通り野営の準備に取りかかったのだけど……。

「新しいですね。この魔導コンロ」

 僕の目の前には、二つの魔導コンロがある。屋敷にあるものに比べると小型で簡易的な野営用の物だ。でも、買うとしたら高い物であるのは間違いない。

 そして、並んだ二つのうち一つがピカピカの新品だった。

「いや……二人で野営するんだし……お前もコンロが二つあった方が便利だろ?」
「野営料理なんてスープがあれば十分だって言ってたのはご主人様じゃなかったでしたっけ?」
「あ、あれはお前に負担をかけたくなくてだな……」

 そんな事を言ったのは、僕が野営料理を勉強し始める前の事だったのだが、それを問い詰めればヘルトさんは視線を彷徨わせた。

 こういう時は、わかりやすい人だ。可愛いけど、ここで許したらまた同じ事をするので釘を刺しておかないと……。

「……普段家で食う野営料理も美味かったから……ちょっと贅沢したくなったんだよ……」
「わかりました!頑張って作りますね!」

 しょんぼりしたように肩を落とすヘルトさんに、僕は二つ言葉で許した。

 単純すぎるが、ヘルトさんが期待してくれるならそりゃあ、もう……腕を奮うしかない。

 買ってしまった物は仕方ないから有効活用しないとね!

「じゃあ、切るくらいは手伝う」
「あ、それは大丈夫です。僕の仕事ですから」

 調理の手伝いをしようとするヘルトさんを制して、調理に取りかかる。

 しょんぼりとしているけど、こればかりは譲れないのだ。

 ヘルトさんのアイテムバッグから今日の夕食分の材料を取り出してもらって、さくさくと料理を作っていく。

 使う道具はコンロと鍋と匙だけだ。

 それ以外の切ったりする作業は全部障壁魔法で行う。

 これは、最近屋敷でもやっている訓練の一つだ。

 空中に設置した障壁の上に食材を置いて、そこに新たな障壁を出現させて刻む。

 ダンジョンでゴブリンを倒している時に、もっと精度を高めたいと思うようになったので、日常でも魔法を使っていこうと思いついて編み出した訓練だった。

 たぶん、この訓練をしていたから今日のようにまとめてモンスターを思いついたんだと思う。

「それ、ホント上手くなったよな」
「そうですか?」
「魔力が潤沢にあって、才能があればこそだと思うぜ?普通なら魔力はいざとなった時の為に使い控える物だし……一発で均等にみじん切りできるなんてとんでもない精度だからな?」 

 僕としては、そこまで難しく感じないのだけど、凄腕の冒険者のヘルトさんでも難しいと思うことのようだ。

「これが魔法の訓練を初めて二ヶ月ってのが、信じられねぇんだよなぁ」
「ご主人様の指導の仕方がいいんです
よ」
「障壁魔法を料理に使うようには教えてねぇよ」

 苦笑するヘルトさんに、それでもヘルトさんが教えてくれたからだと思っている。

 二ヶ月前はただの雑用奴隷だったのだから。
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