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第一部:本編

63:与えたがり

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 しばらく抱き合っていたら、僕の涙も止まり、だんだんと冷静になってくる。それと同時にさぁ……っと、青ざめた。

 ぼ、僕……ヘルトさんになんて事を……。

 感情のままに言葉にした事を後悔していたら、ヘルトさんが口を開く。

「泣き止んだか? ほら、顔見せてみろ」
「い、嫌です……きっと、ひどい顔ですから……」
「大丈夫大丈夫。ほれ」
「わぁあっ!?」

 僕の体を両手で掴んだヘルトさんが抱きついていた僕を自分の体から剥がした。

「あー、真っ赤だな」
「み、見ないでください」

 真っ赤に泣き腫らした顔を見られたくなくて両手で顔を隠す。

 前にもヘルトさんの前で号泣したけど、好きだと気づいた今。前以上に泣き顔を見られるのが恥ずかしかった。

「こら、隠すな。治せないだろ」

 ヘルトさんが優しい声で笑い。僕の右手を手で掴んで顔から離す。

「そんなになるまで泣かせて悪かった」

 ヘルトさんが謝罪しながら、僕の顔を撫で、触れられたところから火照りが消えていくのがわかる。

 おそらく無詠唱で治癒魔法を使ってくれているんだろう。擦り傷や浅い切り傷を治すくらいの治癒魔法をヘルトさんが使えると知ったのは、訓練中に転んで怪我をした時だった。

 僕にも適性はあるらしいから、より強力な治癒魔法を使えると言われているが、感覚が難しくて未だに使えずにいる。

 早く使えるようになって、もっとヘルトさんの役に立ちたい。

 それなのに、今こうやってヘルトさんに泣き腫らした顔を治してもらっているのがすごく不甲斐なかった。

「どうした? さっきよりしょぼくれた顔して」
「これだけの事に……ヘルトさんの治癒魔法使ってもらうのが不甲斐なくて……」
「はははっ、俺がしてやりたいからやってるだけなんだから気にするなって」

 ヘルトさんは、腫れのおさまった僕の顔から手を滑らせ、頭を撫でてくる。

「ヘルトさんが……僕を甘やかしてくれるのは、さっきの理由があるからですか?」
「それもあるけど、お前の笑ってる顔が好きだからな。だから、いろいろ与えたくなるんだよ。……まあ、困惑してる顔を見る事も多いけど……」

 それは、ヘルトさんが僕の身分に不相応な高級品渡してくるからです。

「……気づいてるなら加減してください。いつも、心臓に悪いです」
「そう言うなって。どれだけやっても足りねぇんだから」
「……あれでですか?」
「あれでだ」

 ……訂正。さっきの言葉は、理由の一つだったかもしれないけど、ヘルトさん根っからの甘やかしたがりなんだと思う。

「まあ、俺なりの愛し方だとでも思ってくれ」

 どうにか止める方法がないか考えていたのだけど、そんな事を言われて顔が熱くなった。

「真っ赤で可愛いな」

 くつくつと笑うヘルトさんが優しく目を細める。

 互いに心を打ち明けたからなのか、そんな事ヘルトさんが言ってくるなんて!

 嬉しいけど、恥ずかしい……!

 ヘルトさん自分でズルい男だとか言ってたけど……ヘルトさんが思うのとは別の意味でズルい人だと僕は思う。

 恋愛初心者に、こんな事をすんなり言えてしまうんだもん。僕の心臓がもたないよ!
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