62 / 146
第一部:本編
62:答え
しおりを挟む
「えっ……」
ヘルトさんが応えてくれる……? 僕の気持ちに……?
信じられない……信じきれない……どれだけ優しくても……弟子に向ける感情以外は持っていないと思っていたから。
「あー……最初見つけた時、俺にとってお前は村で遊んでやった時の子供って認識だった」
考えた言葉を、さらに選ぶようにヘルトさんが呟く。
「以前言ったようにあの時から目をかけていたのは本当だ。キラキラした笑顔で俺を見つめてた子供がくらい表情そして使い潰されそうになっているのが我慢ならなかったのも」
その言葉は、ここに来て二日目の時に言われた言葉と同じもの。それは、ヘルトさんにとって変わらない事実らしい。
「だから、どれだけ成長していてもお前は子供だと思っていた」
それがヘルトさんが僕に対する態度の根幹なのだろう。どおりで僕をよく撫でるわけだ。
「でもな……初日に風呂上がりのお前を見て、ヤバいと思った。どんな教育を、調教を受けたかはその奴隷紋でわかる。だからだろうな……あの時のお前を色っぽいと魅力的だと思っちまった」
懺悔するように、悔やむように言葉を溢したヘルトさん。あの時は不快なものを見せたと思っていたけど……そんな事を考えていたんだ……。
「でもよ。俺にとってお前が子供のままだったのも事実だ。奴隷になって心が傷ついてるお前をそんな目で見るなんて、お前を性処理の道具としか見てないヤツらと変わりねぇじゃねぇか」
僕を抱き締めるヘルトさんの腕に力が入る。
「だから、その気持ちを押し込めて、弟子として可愛がる事で発散させようとした。守ることで誤魔化そうとした。でも、それでお前をここまで依存させるなんて……」
「違う! 依存なんかじゃない! 僕はっ、本当に……ヘルトさんが好きなんです……!」
この思いを依存と呼ばれるのが嫌で顔を上げて、ヘルトさんを見つめる。
「それは、わかっているつもりだ。でも、捨てられるのが怖いと嫌いにならないで欲しいと怯えるのは、恋と言うには重い。俺の行動は、お前の心を守るどころか、新たな重りを与えちまった」
「それでもいい……ヘルトさんがヘルトさんだったから! 僕は、今の僕になれたのに……! そんなこと言わないで……っ!」
買ったのがヘルトさんじゃなかったら、この想いを抱く事もなかった。
こうやって感情をあらわにする事さえなかった。
「全部全部ヘルトさんのおかげなのに……今までの行動をあなたが否定したら僕が苦しい……!」
「……そうだな。悪い」
ヘルトさんの手が僕の頬に回り、涙を拭う。
「お前の事は、大事で……これからも守ってやりたい。でも、お前の感情が依存心を含めたものじゃないかって疑う俺もいる。行き場のない子供の心を俺だけしか見えなくさせるなんて最悪な男でしかないだろう」
「そんな事ない……!ヘルトさんだから! ヘルトさんだからいいの! 僕の好きなヘルトさんをヘルトさんが否定しないでよ!」
ヘルトさんが自分の事ばかり否定するから、涙が止まらない。
なんで、僕の好きなヘルトさんをヘルトさんが否定するの!
「……こんなズルい男なのに、そんなに好きか?」
「好き! ヘルトさんじゃなきゃやだ!」
「……そうか」
僕を見つめるヘルトさんが諦めたように柔らかく穏やかに笑う。
「じゃあ、そこまで好きにさせた責任をちゃんととらねぇとな。まだ、俺自身の気持ちに整理はついていないけど……お前の事は、好ましく思っている。俺に笑いかける姿も、努力しようと頑張る姿も……どんなお前の姿も好きだ」
僕をまっすぐ見つめる真剣な眼差しに嘘は見えない。
「本当に……? 僕で……いいの?」
「お前だからいいんだ。お前も俺がいいんだろ?」
「っ……! うん、うん……ヘルトさんじゃなきゃやだっ!」
受け入れてもらえた嬉しさで、また涙が溢れて、ヘルトさんへと抱きつく。
「なんだ。嬉しくても泣くのか? 仕方ねぇなぁエルツは。いいぜ、いくらでも肩貸してやるから……満足したら、いつもの笑顔見せてくれよ」
ヘルトさんが僕の頭を優しく撫でる。
それが嬉しくて、その背中にぎゅっと腕を回した。
ヘルトさんが応えてくれる……? 僕の気持ちに……?
信じられない……信じきれない……どれだけ優しくても……弟子に向ける感情以外は持っていないと思っていたから。
「あー……最初見つけた時、俺にとってお前は村で遊んでやった時の子供って認識だった」
考えた言葉を、さらに選ぶようにヘルトさんが呟く。
「以前言ったようにあの時から目をかけていたのは本当だ。キラキラした笑顔で俺を見つめてた子供がくらい表情そして使い潰されそうになっているのが我慢ならなかったのも」
その言葉は、ここに来て二日目の時に言われた言葉と同じもの。それは、ヘルトさんにとって変わらない事実らしい。
「だから、どれだけ成長していてもお前は子供だと思っていた」
それがヘルトさんが僕に対する態度の根幹なのだろう。どおりで僕をよく撫でるわけだ。
「でもな……初日に風呂上がりのお前を見て、ヤバいと思った。どんな教育を、調教を受けたかはその奴隷紋でわかる。だからだろうな……あの時のお前を色っぽいと魅力的だと思っちまった」
懺悔するように、悔やむように言葉を溢したヘルトさん。あの時は不快なものを見せたと思っていたけど……そんな事を考えていたんだ……。
「でもよ。俺にとってお前が子供のままだったのも事実だ。奴隷になって心が傷ついてるお前をそんな目で見るなんて、お前を性処理の道具としか見てないヤツらと変わりねぇじゃねぇか」
僕を抱き締めるヘルトさんの腕に力が入る。
「だから、その気持ちを押し込めて、弟子として可愛がる事で発散させようとした。守ることで誤魔化そうとした。でも、それでお前をここまで依存させるなんて……」
「違う! 依存なんかじゃない! 僕はっ、本当に……ヘルトさんが好きなんです……!」
この思いを依存と呼ばれるのが嫌で顔を上げて、ヘルトさんを見つめる。
「それは、わかっているつもりだ。でも、捨てられるのが怖いと嫌いにならないで欲しいと怯えるのは、恋と言うには重い。俺の行動は、お前の心を守るどころか、新たな重りを与えちまった」
「それでもいい……ヘルトさんがヘルトさんだったから! 僕は、今の僕になれたのに……! そんなこと言わないで……っ!」
買ったのがヘルトさんじゃなかったら、この想いを抱く事もなかった。
こうやって感情をあらわにする事さえなかった。
「全部全部ヘルトさんのおかげなのに……今までの行動をあなたが否定したら僕が苦しい……!」
「……そうだな。悪い」
ヘルトさんの手が僕の頬に回り、涙を拭う。
「お前の事は、大事で……これからも守ってやりたい。でも、お前の感情が依存心を含めたものじゃないかって疑う俺もいる。行き場のない子供の心を俺だけしか見えなくさせるなんて最悪な男でしかないだろう」
「そんな事ない……!ヘルトさんだから! ヘルトさんだからいいの! 僕の好きなヘルトさんをヘルトさんが否定しないでよ!」
ヘルトさんが自分の事ばかり否定するから、涙が止まらない。
なんで、僕の好きなヘルトさんをヘルトさんが否定するの!
「……こんなズルい男なのに、そんなに好きか?」
「好き! ヘルトさんじゃなきゃやだ!」
「……そうか」
僕を見つめるヘルトさんが諦めたように柔らかく穏やかに笑う。
「じゃあ、そこまで好きにさせた責任をちゃんととらねぇとな。まだ、俺自身の気持ちに整理はついていないけど……お前の事は、好ましく思っている。俺に笑いかける姿も、努力しようと頑張る姿も……どんなお前の姿も好きだ」
僕をまっすぐ見つめる真剣な眼差しに嘘は見えない。
「本当に……? 僕で……いいの?」
「お前だからいいんだ。お前も俺がいいんだろ?」
「っ……! うん、うん……ヘルトさんじゃなきゃやだっ!」
受け入れてもらえた嬉しさで、また涙が溢れて、ヘルトさんへと抱きつく。
「なんだ。嬉しくても泣くのか? 仕方ねぇなぁエルツは。いいぜ、いくらでも肩貸してやるから……満足したら、いつもの笑顔見せてくれよ」
ヘルトさんが僕の頭を優しく撫でる。
それが嬉しくて、その背中にぎゅっと腕を回した。
30
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説



アンドロイドは愛を得る
天霧 ロウ
BL
アンドロイドを持つのが当たり前になった時代。
ある名家は八歳になったらアンドロイドを与えるというしきたりがあった。創造主であるライラからコヨリという名を与えられたアンドロイドの私は助手として彼女とともにその家に訪れた。しかし、理想のアンドロイドを頼めるにもかかわらず、その家の子供――史人は私がほしいと言った。
一悶着あった末、私は彼のものになり十年。すっかり青年に育った彼を見るたびに私の胸のコアや頭の回路はときおり熱を帯びてエラーを吐くようになった。
ムーンライトノベルズにも掲載しております
史人(ふみと)×コヨリ
(SF/主従/俺様一途×天然健気/主×従者/人間×アンドロイド/年下攻め/甘々/溺愛/じれじれ/ハッピーエンド/受視点)

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!


オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる