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第一部:本編

60:告白

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「エルツ」

 涙が止まらないままに泣いていたら、扉の向こうからヘルトさんの声が聞こえる。

「ヘルト、さん……」
「様子がおかしいと思ったから戻ってきて来てみれば……どうした?」

 優しい声と戻ってきてくれた嬉しさにまた涙が溢れてくる。

「ヘルトさん、ヘルトさん……」
「うん、ここにいるぞ」

 名前を呼べば、帰ってくる言葉が嬉しい。

 会いたい。顔が見たい。

 ぐずぐずと泣いている姿を見られるという考えすら浮かばないままに、ドアノブに手をかけた。

「ヘルト、さ……ん……」
「あー、スッゴい泣いてんなー。なんだ、どうした?」

 座り込んでいる僕に視線を合わせるように屈みこんで、僕の頬へと暖かな手をあてる。

「っ……う、ぁ……ご、ごめんなさい……ごめんなさいぃ……」
「なんで謝られてるかわかんねぇけど、そんな泣くなって。たぶん、なんも悪くないだろ?」

 違う。僕が悪い。僕が悪い。

「ひぅ……う……」

 泣いたまま首を横に振れば、ヘルトさんが苦笑する。

「予想でしかないけど、ホントなんも悪くないと思うんだけどなぁ……でも、泣き止まないとなんも聞けそうにねぇな」

 僕の頬の涙を拭ったヘルトさんが両手で僕の体を抱えて、抱き上げる。

「ほら、泣いてないで落ち着け。大丈夫。大丈夫だから」

 僕の部屋に入ったヘルトさんが長椅子に座って僕をあやす。

 子供じゃないのにこんな事をしてもらうなんて……と、思ったけど、背中を撫でる手が優しくて、甘えるようにまた泣いてしまった。

「うーん、逆効果。ホントどうしたんだ? まあ、こうなったら好きなだけ泣け泣け。そしたらスッキリするだろ」

 成人してる男が子供のように泣いているのに、ヘルトさんがそんな事を言う。

「ひっ……ぅ……うぅ……」

 泣いていいと許された安心感で、ヘルトさんにすがりついて泣き続ける。

 優しい。嬉しい。でも、泣き終わったらなんて言おう。なんて謝ろう。

 思考がぐるぐる回る。自分でも自分がどうしたらいいかわからない。

 ただただ泣いて泣いて。落ち着いた頃には、頭も少しだけスッキリしていた。

「ん、落ち着いてきたな」

 まだすすり泣いているけど、それでもさっきまで泣きじゃくっていた時から考えると落ち着いた僕に安心したように言葉をかける。

「何かあったなら、なんでも聞くから、ゆっくり考えてから喋っていいぞ。焦らなくていいんだからな」

 僕の背中を優しくて叩いて、宥めようとするヘルトさん。

 なんで、こうも優しくしてくれるんだろうか……。

「ひっ……ぅ、く……っ……ヘ、ルト……さん……」
「なんだ?」
「ひっ……っ……すき……好き、なんです……じぶんでも、わからなく……なるくらい……ヘルトさんが……好き、なんです……」

 しゃくりあげながら伝えた言葉。

 あやすよう僕の背中を叩くその手は、優しいままだったが、僕の言葉にヘルトさんは口を閉ざした。
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