【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

59:嘘

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 太陽が高くなってきたけど、起きる気力が湧かない。

 朝食の準備をしなきゃ。朝の軽い運動をしなきゃ。と、思っているのに体が動かない。

 昨日見た夢のせいだとわかっているけど、すでに見てしまったものを忘れることもできない。

 どうしよう……。ずっと、部屋にいたらきっとヘルトさんが様子を見に来てしまう。

 わかっているのに動けない。

 駄目だ。駄目だ。

 そう思っているうちに、部屋の扉が叩かれた。

「エルツ。起きてるか?」

 扉の向こうからヘルトさんの声が聞こえる。

 ああ……やっぱり来てしまった。

 どうしよう……なんて返そう。

 悩んで悩んで……ゆっくりとベッドから起き上がる。

「ヘルトさん……」
「ああ、起きてたか。どうした?体調でも悪いのか?」

 扉の向こうから心配する声が聞こえた。その声を聞いてすごく申し訳なくなった。

「はい……なんだか、だるくて……」
「あー……そっか。昨日ギリギリを攻めすぎちまったかもしれねぇな。悪かった」

 違う。ヘルトさんは悪くない。悪いのは、嘘をついている僕だ。

「それで……その、朝食も作れそうになくて……」
「いや、そんな状態のヤツに作れっていうわけないだろ。なんか適当に食うよ。お前は? なんか食べるか?」
「いえ……食欲もないので……」
「わかった。でも、腹が減ったら言えよ。今日は、休みでいいし、俺も家にいるから何かあったら言うんだぞ」
「……はい。ありがとうございます……」

 扉越しのやり取りを終え、ヘルトさんが立ち去る足音が微かに聞こえる。

 ああ……僕は、なんという事をしてしまったのだろう。

 尊敬しているヘルトさんに嘘をついた。

 大好きなヘルトさんに嘘をついてしまった。

 心が不安定なせいでぼろぼろと涙が溢れて、しゃくりあげてしまう。

「ひっ……っ……」

 ここで泣いたら……ヘルトさんが戻って来たりしたら気づかれてしまうのに。

 足が動かなくて、立っているのも辛くなって、その場に座り込む。

 ごめんなさい。ごめんなさい。僕なんかがあなたを好きになってしまってごめんなさい。

 でも、気づいてしまったから駄目なんです。

 好きと言いたい。愛してほしい。でも、ヘルトさんは僕の事をそんな目で見ていない。

 優しいけど、それは弟子だからで……甘やかしてくれるのも、守ってくれるのも弟子だからだ。

 だけど、愛してほしい。戻ってきてほしい。

 ヘルトさん、ヘルトさん、ヘルトさん……。

 こんな僕だけど……綺麗とは言えない僕かもしれないけど……どうか、愛して。
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