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第一部:本編
51:胸の痛み
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僕が認識票を嬉しく思っていると、職員がヘルトさんへと話しかける。
「本日は、これから探索でしょうか?」
「ああ」
「どちらまで潜る予定でしょうか? 実は、高難易度の依頼が溜まっておりまして……」
どうやら、難易度の高い依頼が溜まっているようだ。
この町で、一番ランクの高い冒険者はヘルトさんだというから、この一ヶ月で依頼が溜まってしまったのだろう。
「あー……今日は慣らしの予定だから深く潜るつもりはないが……依頼書があるのなら見せてくれ」
「ありがとうございます」
職員からの頼みをヘルトさんが受け入れ、二人での話し合いが続く。
それを興味深く覗いていたら、ヒソヒソと話す酒場からの声が聞こえてきた。
「おい、あの愛玩奴隷の装備似てみろよ」
「なっ……ありゃ、深層の装備だろ?」
「奴隷ごときに与えるなんて何考えてんだ」
ヘルトさんの怒気に酔いも覚めたのか、僕の装備が高価なものだと気づいたらしい。
じろじろと向けられる視線に堪えていると、ヘルトさんが僕の肩を叩いた。
ヘルトさんへと視線を向けると職員との話が終わったのか僕を見下ろしながら柔らかく笑みを浮かべている。
「行くぞ」
「わかりました」
ようやくここから立ち去れると安堵し、ヘルトさんの隣を追いかけるように歩く。
ギルドを出るまで、酒場の冒険者達の視線が突き刺さるような感じがしたけど、もう下卑た言葉が 飛んでくることはなかった。
「……悪かったな。たまにああやって日銭稼いでいるやつらが朝まで飲み明かしてる事があるんだ。それに当たるとはついてなかった……」
ギルドでの出来事を悔いるような表情を浮かべるヘルトさん。あの心無い言葉を気にしているのだろう。
「仕方のない事です。僕が奴隷で……調教を受けた事は事実ですから。僕のせいで、ヘルトさんにまであんな言葉を投げられた事が悲しかったですけど」
「俺の事はいいんだよ。妬まれる事だってあるからな。陰口はいつもの事だ」
上位の冒険者には、上位の冒険者にしかわからない、下位の冒険者達からの妬みもあるらしい。
「ま、あんま気にすんな。俺は、アイツらみたいな視線でお前を見ることはないし、俺がいる限りは下卑なヤツらからは守ってやる」
「……ありがとうございます」
ヘルトさんは笑みを浮かべて、僕の頭を撫でる。
でも、なぜだろう。ほんの少しだけ、胸がつきりと痛んだのは。
「さ、ダンジョンが待ってるぞ」
「……そうですね」
話を切り替えるように笑ったヘルトさんに、僕は一旦胸の痛みを忘れることにした。
「本日は、これから探索でしょうか?」
「ああ」
「どちらまで潜る予定でしょうか? 実は、高難易度の依頼が溜まっておりまして……」
どうやら、難易度の高い依頼が溜まっているようだ。
この町で、一番ランクの高い冒険者はヘルトさんだというから、この一ヶ月で依頼が溜まってしまったのだろう。
「あー……今日は慣らしの予定だから深く潜るつもりはないが……依頼書があるのなら見せてくれ」
「ありがとうございます」
職員からの頼みをヘルトさんが受け入れ、二人での話し合いが続く。
それを興味深く覗いていたら、ヒソヒソと話す酒場からの声が聞こえてきた。
「おい、あの愛玩奴隷の装備似てみろよ」
「なっ……ありゃ、深層の装備だろ?」
「奴隷ごときに与えるなんて何考えてんだ」
ヘルトさんの怒気に酔いも覚めたのか、僕の装備が高価なものだと気づいたらしい。
じろじろと向けられる視線に堪えていると、ヘルトさんが僕の肩を叩いた。
ヘルトさんへと視線を向けると職員との話が終わったのか僕を見下ろしながら柔らかく笑みを浮かべている。
「行くぞ」
「わかりました」
ようやくここから立ち去れると安堵し、ヘルトさんの隣を追いかけるように歩く。
ギルドを出るまで、酒場の冒険者達の視線が突き刺さるような感じがしたけど、もう下卑た言葉が 飛んでくることはなかった。
「……悪かったな。たまにああやって日銭稼いでいるやつらが朝まで飲み明かしてる事があるんだ。それに当たるとはついてなかった……」
ギルドでの出来事を悔いるような表情を浮かべるヘルトさん。あの心無い言葉を気にしているのだろう。
「仕方のない事です。僕が奴隷で……調教を受けた事は事実ですから。僕のせいで、ヘルトさんにまであんな言葉を投げられた事が悲しかったですけど」
「俺の事はいいんだよ。妬まれる事だってあるからな。陰口はいつもの事だ」
上位の冒険者には、上位の冒険者にしかわからない、下位の冒険者達からの妬みもあるらしい。
「ま、あんま気にすんな。俺は、アイツらみたいな視線でお前を見ることはないし、俺がいる限りは下卑なヤツらからは守ってやる」
「……ありがとうございます」
ヘルトさんは笑みを浮かべて、僕の頭を撫でる。
でも、なぜだろう。ほんの少しだけ、胸がつきりと痛んだのは。
「さ、ダンジョンが待ってるぞ」
「……そうですね」
話を切り替えるように笑ったヘルトさんに、僕は一旦胸の痛みを忘れることにした。
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