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第一部:本編
45:あの後の事
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「ヘルトさんは、何も悪くないですよ……僕が、ちょっと油断しただけで」
あの時、あの男に声をかけずに椅子から立って頭を下げればやり過ごせたかもしれない。
何も考えず、疑問を口にした僕の落ち度だ。
「お前こそ何も悪くないだろう! あの後、あの家具屋の店主が正式に謝罪に来た。あの男は、トイレに行こうとして間違えて厨房に入ったらしい。そこでお前の態度が悪かったからあんな蛮行に及んだと言い訳したらしい」
ああ、あの男の中ではそうなっていたのか……。
「でも、お前の態度が悪いとかあり得るわけがない! 椅子に座っていたとしても、あの男が俺の屋敷に口出しして良い訳もない! ああ、思い出しただけで腹が立つ……!」
ヘルトさんが怒りを見せるのが珍しい気がして、まじまじと見てしまうがそこまで心配されて怒ってもらえる事が少し嬉しい。
あまり褒められた事ではないかもしれないけど……ヘルトさんの心を少しでも占められている嬉しさがあったのだ。
「はぁ……今イラついてもしかたねぇな。でも、あの店主がアイツの言い分を信じずに謝罪に来たのはまあ……よかった。前金の返金と迷惑かけた謝罪として、別の家具屋の紹介と和解金をもらった。あの男は許せねぇが……あっちで対処するっていうからもう俺からは口を出すことはしねぇ」
疲れたようにため息を吐くヘルトさん。僕の寝てる間に色々あったらしい。僕の看病もしていたのだから大変だっただろう。
「お前も色々言いたいことはあるだろうが……これぐらいで許してくれ」
「許すも何も……僕が何か言える立場じゃないのはわかってますから」
今回の事で奴隷という身分がどんなものか……より強く実感した。本当に人として扱われないのだと。
嘘みたいだが、僕の出身商館が教育までしてくれたのは本当に良心的だったのだ。
「だけどよぉ……」
「いいんです」
まだなにか言いたげなヘルトさんに首を横に振る。
「でも、わかりました。僕も何か対処できる術を覚えなきゃいけないって」
無力なままだといつかまた同じ事が起こるだろう。
憧れだけじゃなく、ちゃんと実力も身につけなければならない。
「だから、もっと訓練頑張って自分の身を守れるようになりたいです」
そう宣言したらヘルトさんが驚いたように目を見開いた。
「ヘルトさん、どうか厳しく訓練つけてくれませんか?」
横たわったまま言うことじゃないけど、驚くヘルトさんを見つめてお願いしたらヘルトさんが笑い出す。
「はははっ、そうか……そうくるか。いいとも!厳しく訓練してやろう!自分で身を守れるのは良い事だからな!」
ヘルトさんは笑いながら僕の頭を撫でる。
「でも、鍛えるのは明後日からだ。寝たままだったし、今日は安静にして、明日は普通に動けるか確認しよう」
「わかりました」
ヘルトさんの言うとおりだと思ったので、素直に頷いたのだった。
あの時、あの男に声をかけずに椅子から立って頭を下げればやり過ごせたかもしれない。
何も考えず、疑問を口にした僕の落ち度だ。
「お前こそ何も悪くないだろう! あの後、あの家具屋の店主が正式に謝罪に来た。あの男は、トイレに行こうとして間違えて厨房に入ったらしい。そこでお前の態度が悪かったからあんな蛮行に及んだと言い訳したらしい」
ああ、あの男の中ではそうなっていたのか……。
「でも、お前の態度が悪いとかあり得るわけがない! 椅子に座っていたとしても、あの男が俺の屋敷に口出しして良い訳もない! ああ、思い出しただけで腹が立つ……!」
ヘルトさんが怒りを見せるのが珍しい気がして、まじまじと見てしまうがそこまで心配されて怒ってもらえる事が少し嬉しい。
あまり褒められた事ではないかもしれないけど……ヘルトさんの心を少しでも占められている嬉しさがあったのだ。
「はぁ……今イラついてもしかたねぇな。でも、あの店主がアイツの言い分を信じずに謝罪に来たのはまあ……よかった。前金の返金と迷惑かけた謝罪として、別の家具屋の紹介と和解金をもらった。あの男は許せねぇが……あっちで対処するっていうからもう俺からは口を出すことはしねぇ」
疲れたようにため息を吐くヘルトさん。僕の寝てる間に色々あったらしい。僕の看病もしていたのだから大変だっただろう。
「お前も色々言いたいことはあるだろうが……これぐらいで許してくれ」
「許すも何も……僕が何か言える立場じゃないのはわかってますから」
今回の事で奴隷という身分がどんなものか……より強く実感した。本当に人として扱われないのだと。
嘘みたいだが、僕の出身商館が教育までしてくれたのは本当に良心的だったのだ。
「だけどよぉ……」
「いいんです」
まだなにか言いたげなヘルトさんに首を横に振る。
「でも、わかりました。僕も何か対処できる術を覚えなきゃいけないって」
無力なままだといつかまた同じ事が起こるだろう。
憧れだけじゃなく、ちゃんと実力も身につけなければならない。
「だから、もっと訓練頑張って自分の身を守れるようになりたいです」
そう宣言したらヘルトさんが驚いたように目を見開いた。
「ヘルトさん、どうか厳しく訓練つけてくれませんか?」
横たわったまま言うことじゃないけど、驚くヘルトさんを見つめてお願いしたらヘルトさんが笑い出す。
「はははっ、そうか……そうくるか。いいとも!厳しく訓練してやろう!自分で身を守れるのは良い事だからな!」
ヘルトさんは笑いながら僕の頭を撫でる。
「でも、鍛えるのは明後日からだ。寝たままだったし、今日は安静にして、明日は普通に動けるか確認しよう」
「わかりました」
ヘルトさんの言うとおりだと思ったので、素直に頷いたのだった。
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