上 下
39 / 146
第一部:本編

39:早朝の訪問

しおりを挟む
 新聞に集中していたら部屋の扉が叩かれる。

「エルツ、起きてるか?」

 扉の向こうから聞こえてくるヘルトさんの声に集中しすぎた!? と、焦って扉に向かう。

「起きてます! すみません、今朝食の準備に取りかかります!」

 昨日は寝坊で、今日は読みふけったせいで朝食の準備ができないなんて!と、後悔していたら、扉を開けた先でヘルトさんがおかしいものを見る様に笑っていた。

「おはよう。そんなに慌てなくたって、まだ朝食の時間には余裕あるぞ」

 くつくつと笑うヘルトさんに、背後を振り向いて窓を確認すれば、まだ太陽は上りきっておらず、さっきよりちょっと明るくなったくらいだった。

「び、びっくりしたぁ……今日も、ヘルトさんに朝食の準備してもらったのかと……」
「その様子じゃ、ずいぶんと集中して読んでたみたいだな」

 床にへたりこみそうになっている僕の後ろで床に散らばっている新聞を見てヘルトさんが笑う。そして、僕は後ろの惨状に気づき肩を落とした。

 ああ……もう、踏んだり蹴ったりだよ……。恥ずかしいところばっかり見せてしまっている。

 穴があれば入りたいとか、毛布を頭から被りたい気持ちになりながら未だに笑いがこらえ切れていないヘルトさんに視線を向けた。

「あの……どうしてヘルトさんは、訪ねてきたんですか?」
「あ、そうだそうだ。普段から朝は軽く運動するようにしてるんだけどよ。お前もどうだ?ダンジョンにもぐるなら、魔法も大切だけど、体力だって必要だぜ?」

 ヘルトさんの言葉になぜ訪ねて来たのかを納得する。

 確かにダンジョンに潜る場合、長距離を歩くこともあるし、中で数日泊まる場合もあるのだ。

 家にいるときでも毎日の鍛練は、必要なことだろう。

 それに、こうやって声をかけに来たと言う事は、今の僕にダンジョンを歩く体力がないとヘルトさんは判断したのだろう。

 ならば、僕が断る理由もない。まあ、ヘルトさんが誘ってくれる事を断る事はないのだけど。奴隷としても、弟子としても。

「わかりました。行きます」
「おう。じゃ、後ろ片付けたら玄関から庭に出てこいよ。そこで待ってるから」

 そのままヘルトさんに着いていこうと思ったけど、ヘルトさんの言葉で後ろの惨状を思い出す。

「……はい」
「急がなくていいからな」

 ちょっとだけショボくれた僕にヘルトさんは、わしゃわしゃと僕の頭を撫でてから、僕の部屋を後にした。

 はぁ……片付けよ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。

竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。 溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。 みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。 囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。 サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。 真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。 ☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正 ⭐残酷表現あります。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...