【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

38:早朝のひととき

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 意識がふと浮上する。

 眠い目を擦りながら起き上がれば、白んだ空が窓から見えた。

 ……良く寝た。

 眠れなかった一昨日に寝ついた時間に起きた今日は、なんだかスッキリした気持ちで目を覚ます。

 まだ、眠くもあるけど実家にいた時はこれくらいに起きるのが普通だったからなんの問題もない。

 ベッドから起き上がり、体を伸ばせば寝ている間に固まった体がほぐれていく。

 凝りが解れて楽になった体を少し動かしながら窓を見る。空の明るさ的に朝食を作る時間まではもう少し余裕がありそうだ。せっかくだし……ちょっとだけ昨日渡された新聞を読んでみようかな。

 寝坊しないように早めに寝て良かったと思いながら、立派な机の立派な椅子に腰をかける。背もたれに寄りかかるのは怖いのでちょっと浅めに。

 柔らかなクッションを持つ椅子に落ち着かなさを感じながらも、机に置いてあった新聞を手に取る。

 薄い植物でできた紙は、村では見たことのないもので、商館で初めて存在を知ったものだ。

 村で紙といえば羊皮紙で、それも村長が役人と話す時くらいにしか使わない貴重品だった。

 だけど、この植物でできた紙は、羊皮紙より量産に向くのに羊皮紙以上に高級品らしい。

 それをこんな束で新聞にできる冒険者ギルドというものはすごい。

 そして、それをいろんなダンジョンごとに作っているのも本当にすごい。

 でも、なによりすごいのはヘルトさんだ。これだけでなく、今までのものも地下に保存していると言うのだから。

 紙でできた新聞に感動し、ヘルトさんのすごさにも感動する。自分でも単純だと思うけど、すごいものはすごいっていいたいんだ。

 ひとしきり感動した後、新聞の文字に目を通す。

 一番上の新聞はこの町にあるダンジョンの新聞のようだ。

 ヘルトさんから聞いた通り、魔導具と呼ばれる不思議な道具が手に入るダンジョンらしく、僕ではよくわからない魔導具の名前もあるが、収納鞄のように商館で見聞きした道具も乗っている。

 それらの道具がどこの階層で出たとか、買い取り額がいくらだとか……見ているだけでワクワクしてくる。

 たとえ、それらを見つけても僕の物になることはないだろうけど、直接見る事ができるかもしれないからだ。

 ダンジョンで、自分で、ヘルトさんと一緒に、こんな宝物を手に入れる事ができたら……。

 ダンジョンで探索し、ヘルトさんと宝物を手に入れる想像をして頬が緩む。

 たぶん、心が踊るってこういうことをいうんだろう。

 新聞一枚でここまで楽しくなれるのだから、この薄い一枚の新聞には大きなロマンが詰まっていると言える。間違いなく。

 わからない事も多いが読み飛ばしながら、文字を目で追った。

 ヘルトさんに聞けば教えてくれるだろうと思いながら。
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