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第一部:本編
37:変わらないはずの部屋
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新聞を渡されて喜ぶ僕にヘルトさんが揶揄うように口を開く。
「今読んで、今日みたいに寝坊するなよ?」
「し、しません!」
すぐにでも読みたいけど、今朝の失態を繰り返したくないので慌てて否定した。
絶対、絶対……寝坊なんてしないんだから!
「ははっ、冗談だ。読みたかったら読むといい」
「いいえ、大丈夫です。ヘルトさんの話が聞きたくて我慢できなかった子供の頃とは違うんですから」
「そうか、そうか。悪かった」
ヘルトさんが楽しげに笑い、僕の肩を叩く。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
部屋の中に戻るヘルトさんに頭を下げて、僕も部屋に戻る。
部屋に戻り、新聞を机に置いて部屋を見渡せば、備え付けの魔導ランプに照らされた部屋は相変わらず広い。だけど、何故だろう。昨日より怖いと感じないのは。
部屋に置かれている物は、新聞や今日買った衣類以外は変わらないはずなのに。なぜだか、心が凪いでいる。
たった一日でこんなにも心境が変化する者なのだろうか?
不思議に思ってランプを消してみるも、その広さと月明りだけの闇を怖いとは思えなかった。
「……ヘルトさんを、ちゃんと……信じる事ができたから、かな……」
ポツリと呟いたのは、今の僕自身の心の中の言葉。
昨日は、ヘルトさんを信じたいと思っていた。でも、今は違う。
僕を育てたいと思ってくれた理由を知った。秘密にするのが当たり前なスキル……魔眼についても教えてもらった。
彼は、僕を信じてくれている。それは今日一日の行動を見ても明らかだ。
僕を弟子として扱い、弟子として信頼をしてくれている。
だから、僕はヘルトさんを信じる事ができる。ううん……もう、彼を信頼していた。
今まで、満たされていなかった心が久しぶりに満ちるのを感じる。
ああ……僕は、誰かに必要とされたかったのか……。
家族に売られた。奴隷になった。でも、それ以前から道具でしかなかった僕を、ヘルトさんは僕として求めてくれた。
だからこそ、こんなにも落ち着いて、満たされているんだ。
魔力循環している時とも、湯船に浸かっている時とも違う、温かさが心に広がる。
「ヘルトさんと会えて……本当によかったなぁ……」
昨日とは違う涙が零れる。嬉しいという気持ちで涙が出る事なんてあるんだと思いながら、ベッドに入る。
そして、満ち足りた気持ちのまま、僕は眠りへと落ちていったのだった。
「今読んで、今日みたいに寝坊するなよ?」
「し、しません!」
すぐにでも読みたいけど、今朝の失態を繰り返したくないので慌てて否定した。
絶対、絶対……寝坊なんてしないんだから!
「ははっ、冗談だ。読みたかったら読むといい」
「いいえ、大丈夫です。ヘルトさんの話が聞きたくて我慢できなかった子供の頃とは違うんですから」
「そうか、そうか。悪かった」
ヘルトさんが楽しげに笑い、僕の肩を叩く。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
部屋の中に戻るヘルトさんに頭を下げて、僕も部屋に戻る。
部屋に戻り、新聞を机に置いて部屋を見渡せば、備え付けの魔導ランプに照らされた部屋は相変わらず広い。だけど、何故だろう。昨日より怖いと感じないのは。
部屋に置かれている物は、新聞や今日買った衣類以外は変わらないはずなのに。なぜだか、心が凪いでいる。
たった一日でこんなにも心境が変化する者なのだろうか?
不思議に思ってランプを消してみるも、その広さと月明りだけの闇を怖いとは思えなかった。
「……ヘルトさんを、ちゃんと……信じる事ができたから、かな……」
ポツリと呟いたのは、今の僕自身の心の中の言葉。
昨日は、ヘルトさんを信じたいと思っていた。でも、今は違う。
僕を育てたいと思ってくれた理由を知った。秘密にするのが当たり前なスキル……魔眼についても教えてもらった。
彼は、僕を信じてくれている。それは今日一日の行動を見ても明らかだ。
僕を弟子として扱い、弟子として信頼をしてくれている。
だから、僕はヘルトさんを信じる事ができる。ううん……もう、彼を信頼していた。
今まで、満たされていなかった心が久しぶりに満ちるのを感じる。
ああ……僕は、誰かに必要とされたかったのか……。
家族に売られた。奴隷になった。でも、それ以前から道具でしかなかった僕を、ヘルトさんは僕として求めてくれた。
だからこそ、こんなにも落ち着いて、満たされているんだ。
魔力循環している時とも、湯船に浸かっている時とも違う、温かさが心に広がる。
「ヘルトさんと会えて……本当によかったなぁ……」
昨日とは違う涙が零れる。嬉しいという気持ちで涙が出る事なんてあるんだと思いながら、ベッドに入る。
そして、満ち足りた気持ちのまま、僕は眠りへと落ちていったのだった。
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