【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

34:魔力酔い

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 僕を最高の魔法士にすると断言したヘルトさんが体から力を抜く。

「まあ……俺も、俗な人間ってこった。がっかりしたか?」

 苦笑するヘルトさんに僕は首を横に振った。

「いいえ……いいえ! ずっと、取り柄なんてないと思ってた。だけど、ヘルトさんがそう言ってくれるのなら! 僕は、ヘルトさんの言葉を信じます! あなたから最高の弟子だって言ってもらえるように……一生懸命頑張ってみせます!」

 昨日、諦めないと決意した。だけど、そうじゃない。そうじゃないんだ。

 僕は、この人にヘルトさんの期待に応えたい。ずっと、うじうじとしていたくはなかった。

「そうか! それは育て甲斐があるな!」

 僕の言葉を聞いたヘルトさんが満足したように笑う。その笑みは、僕が子供の頃に冒険者になりたいとヘルトさんに告げた時に見せた笑みと同じものだった。

「それじゃあ、早速やるか! 理論とかもあるが何よりも実戦が一番だ!」

 ヘルトさんが自分の膝を叩いて立ち上がる。それを見て僕も立ち上がろうとしたのだけど、ヘルトさんがそれを止めた。

「おっと、お前は座ってていい。……いや、そこで寝ろ」
「ね、寝る?」

 訓練じゃないの? と、混乱したもののヘルトさんがそう言うのならその言葉通りに従う。

「今お前の魔力は、体の中で固まってるようなもんだ。それを自覚させる為に起こすと馬車酔いみたいに酔うやつがいるんだよ」
「へぇ……」

 知らない知識を知る度にそんな事があるのかと新鮮で楽しい。でも、ヘルトさんの前で横になってるのはちょっと気まずいので、できるだけ何もないままに終わってほしい所だ。

「じゃあ、自覚させるために俺からお前の魔力に働きかける。少し触るぞ」

 僕の隣に膝をついたヘルトさんが僕の胸へと手を当てる。布越しに振れる手のぬくもりがじんわりと伝わってきて気恥ずかしかったのだけど、すぐにそれどころではなくなった。

「っ……! う……!」

 目の前が揺れる。それと同時に僅かな吐き気が僕を襲った。

「な、キツイだろ? 俺でもキツかったから、魔力の多いお前じゃ相当しんどいと思うぜ」
「は、い……」

 目が回る気持ち悪さと胃がぐるぐるとするような気持ち悪さを堪えながらヘルトさんの言葉に頷く。

 これは、食べた直後だったらもっとキツかったのかも……一時間くらい休んだからこれだけで済んでいると思う事にしよう。

 ……それでも、すごく辛い……キツい……。
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