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第一部:本編

31:クレープ屋

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 様々な料理を作る屋台の数々。そんな中、一際気になるものを見つけた。

「ぁ……」

 それは、紙のように平たく焼いた薄焼きのパンに果物などを乗せて巻いてある料理。

 包んでいるパン自体は地味だが、巻かれた中身はいろんな果物が美味しそうに輝き、その酸味を想像して口の中に唾液が湧きそうになった。

「なんだ?クレープにするか?」
「あれは、クレープって言うんですか?」

 村には無く、商館でも教えられなかった料理に首を傾げる。

「薄い生地で果物とか、野菜とか、肉を巻くんだ」
「へぇ……」

 聞くと簡単そうに聞こえるけど、薄く焼くのは難しそうだ。

 改めて屋台に目を向けると、鉄板の上で木製のつるはしのような器具で器用に薄く焼いていくのを見るのは楽しかった。

「あれで決定だな」
「す、すみません!」

 僕があまりにもじっと見ていたからかヘルトさんが苦笑する。

「いいって、ほら買いに行こうぜ」

 そう言うヘルトさんに背中を押され、僕とヘルトさんはクレープの屋台へと足を進めた。

「いらっしゃい!デザートクレープもサラダクレープもあるよ!」

 屋台に近づくと僕らに威勢のいい声が飛んでくる。

「いろいろあるな。エルツ、どれが食べたい?」
「お客さん、奴隷にもやるのかい?」
「何かおかしいか?」
「いや、その……」

 ヘルトさんが僕に尋ねてきた事に対して疑問を投げかけた店員だけど、ヘルトさんが聞き返したら言葉を濁す。

「奴隷に食べさせるのが嫌なのであれば、別の所に行こう」
「あ、いや!待ってください!大丈夫!大丈夫っす!」

 踵を返そうとしたヘルトさんに店主が慌てて引き留めようとする。

「……そうか。なら、ここで買わせてもらうとしよう」

 慌てる店員を一瞥したヘルトさんが僕へと視線を向け直す。その視線は柔らかく優しいものだ。

「さ、どうする」
「では……果物の入ってるものを……一つ」
「わかった。デザートクレープを二つとサラダクレープも二つ。持ち帰るから包んでくれ」
「デザート二つとサラダ二つ持ち帰りっすね」

 食べたいものを希望すれば、ヘルトさんの口から店員へと数が伝えられ、注文の通りにクレープが作られた。

「エルツ。持っていてくれるか?」
「はい」

 ヘルトさんからクレープが包まれた油紙を四つ抱えるようにして受け取ると、ヘルトさんが支払いを済ませる。

「帰ってから家で食おう。ここらへんじゃ座れそうにないからな」
「わかりました」
「それと……家までクレープ持っててもらっても良いか?」
「もちろんです!」

 家で食べるというヘルトさんの提案に頷けば、家までクレープを運ぶという役目を貰う。それが嬉しくて笑みを浮かべれば、ヘルトさんに頭を撫でられた。

「ありがとな」

 優しく笑うヘルトさんに心が少しくすぐったくなる。

 ほんの少しでもいい。役に立てると言う事が嬉しかった。
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