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第一部:本編

30:屋台

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「そうだ、何か食べながら帰ろう」

 屋敷への帰り道、ヘルトさんがそんな事を言った。

「えっ……でも、昨日は昼から僕が作るって……」
「そうなんだけどよ……ほら、全部夕方に届くように指定しちまったから、昼の分の材料がねぇんだよ」

 先程までの買い物を思い浮かべながら、確かに食材も夕方に配達するように指定していた気がする。

「今から近くで買ってもいいけど……さすがに作るには遅い時間だろ? だから、昼はお前の食ってみたい物買って食べて、ゆっくり休んでから俺の為に夕食作ってくれないか?」

 ゆっくり僕を諭すように笑うヘルトさんに、なんとなく仕方ないな。と、言う気持ちが沸き上がる。

 そんな事を思うのは失礼かも知れないけど……なんとなくずるい言い方でもあるような気がした。

「……わかりました。そうしましょう」
「よしきた! 何でも好きなもの選んでいいぞ。屋台限定だけどな」

 カラッと笑った後に苦笑するヘルトさん。その苦笑に隠したい言葉を察した。

 屋台はともかく、飲食店では奴隷の入店を拒まれるのだろう。いや、正しくは同じ席につけない。

 普通であれば、主人と奴隷が同じ席につくのは許されないから、当たり前だけど飲食店でももちろんそうだ。

 奴隷一人で来店しても、奴隷を他の客と同じように扱えば店の評判が下がる。

 奴隷が入店を許されるのは、おそらく付き人として、主人の横に控えるだけだろう。

 だからこそ、ヘルトさんはそれに気づかせないように言葉を隠しているのだと思う。

「わかりました。なにがあるか楽しみですね」

 ヘルトさんが言葉を隠すように、僕も気づいた事を隠しながら笑みを浮かべる。

「屋台が出てる通りはこっちだ」

 僕の笑みに気づいているかはわからないがヘルトさんも笑みを浮かべて僕を案内する。

 案内された先の通りは、広い作りだが、両端に屋台が並んでいて狭い。

 だけど、そこは賑やかで普通の人も買い物を頼まれたであろう奴隷の姿も見て取れた。

「さ、どうする?」

 並んでいる屋台を眺めながらヘルトさんが問いかけてくる。

 どれがいいかな?と、眺めているけど、昨日ヘルトさんが買ってきたもの以外にもいっぱいあって困ってしまう。

 焼いているものはどれも美味しそうな匂いをしているし、それ以外のものは彩りが豊かでどれもすごく目を引かれた。
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