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第一部:本編
29:家具屋
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「最後は、家具屋だな」
ようやく最後に……本棚を買うらしい。
家具屋に着くとヘルトさんは早速店員に迎え入れられる。
「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」
「本棚なんだが……特注でほしい。近いうちに職人を寄越してくれ」
特注……特注⁉ 今までで一番理解できない言葉が出た⁉
「かしこまりました。ご自宅は……はい、了解いたしました。では、前金を……」
「これで」
乱雑に置かれた革袋に店員が目を見開くがすぐににこやかな顔に戻って中を確認する。
「確かに承りました。費用などもこちらからお出ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい。……そうだ。いくつか長椅子やテーブルも新調したい。案内してくれ」
「かしこまりました」
本棚だけじゃなかったの? と、思いながらも、ヘルトさんの買い物なので口を出さずに後ろをついていく。
「この赤い長椅子一式とそっちのテーブル……そこの絨毯も貰おうか」
ヘルトさんは装飾の細かい赤い布張りの長椅子と椅子二脚のセットを一式、木目が細かく色の濃いテーブルを一つ。そして、金糸で細かい刺繍の施された赤い絨毯を店員へと頼む。
「あとは……注文した本棚とは別に、あそこの本棚もつけてくれ」
「了解いたしました。こちらは、職人を向かさせる際に配達する形でよろしいでしょうか?」
「それで頼む」
さくさくと高額な買い物を済ませてしまうヘルトさんに気が遠くなりそうになる。もう、今日何度目になるかわからない。
「では、こちらの代金は先ほどのお預かりした前金からお支払いしておきますね」
「ああ、残りの費用に関しては、職人とのやり取りの後に知らせてくれ」
「かしこまりました」
今日一番の大きな買い物を終え、ヘルトさんは店員に深々と頭を下げられて見送られる。
「職人は、明日来るそうだ」
僕の意識が飛びかけていた間に決まったのだろう日付をヘルトさんが教えてくれる。
「そうなんですね」
「職人が来ている間は、職人の前に出ないようにしてくれるか?」
「わかりました」
なぜ、出てはいけないのかわからないが、ヘルトさんが駄目と言うのなら僕が従うだけだ。
「悪いな。工芸系の職人は偏屈なヤツもいるし、気性が荒いヤツいるからお前を前に出すのは怖くてな。……奴隷を道具程度にしか思っていないヤツもいるんだ。まあ……それは冒険者も同じなんだが」
苦い笑いを浮かべるヘルトさんが僕の身を心配してくれているのがわかる。
「大丈夫です。ご主人様の言うとおりにしますから」
「……できるだけ早く解呪薬見つけてやるからな」
ヘルトさんを見上げて笑みを浮かべれば、ヘルトさんは痛ましいものを見るような顔で僕の頭を撫でてくれた。
ようやく最後に……本棚を買うらしい。
家具屋に着くとヘルトさんは早速店員に迎え入れられる。
「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」
「本棚なんだが……特注でほしい。近いうちに職人を寄越してくれ」
特注……特注⁉ 今までで一番理解できない言葉が出た⁉
「かしこまりました。ご自宅は……はい、了解いたしました。では、前金を……」
「これで」
乱雑に置かれた革袋に店員が目を見開くがすぐににこやかな顔に戻って中を確認する。
「確かに承りました。費用などもこちらからお出ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい。……そうだ。いくつか長椅子やテーブルも新調したい。案内してくれ」
「かしこまりました」
本棚だけじゃなかったの? と、思いながらも、ヘルトさんの買い物なので口を出さずに後ろをついていく。
「この赤い長椅子一式とそっちのテーブル……そこの絨毯も貰おうか」
ヘルトさんは装飾の細かい赤い布張りの長椅子と椅子二脚のセットを一式、木目が細かく色の濃いテーブルを一つ。そして、金糸で細かい刺繍の施された赤い絨毯を店員へと頼む。
「あとは……注文した本棚とは別に、あそこの本棚もつけてくれ」
「了解いたしました。こちらは、職人を向かさせる際に配達する形でよろしいでしょうか?」
「それで頼む」
さくさくと高額な買い物を済ませてしまうヘルトさんに気が遠くなりそうになる。もう、今日何度目になるかわからない。
「では、こちらの代金は先ほどのお預かりした前金からお支払いしておきますね」
「ああ、残りの費用に関しては、職人とのやり取りの後に知らせてくれ」
「かしこまりました」
今日一番の大きな買い物を終え、ヘルトさんは店員に深々と頭を下げられて見送られる。
「職人は、明日来るそうだ」
僕の意識が飛びかけていた間に決まったのだろう日付をヘルトさんが教えてくれる。
「そうなんですね」
「職人が来ている間は、職人の前に出ないようにしてくれるか?」
「わかりました」
なぜ、出てはいけないのかわからないが、ヘルトさんが駄目と言うのなら僕が従うだけだ。
「悪いな。工芸系の職人は偏屈なヤツもいるし、気性が荒いヤツいるからお前を前に出すのは怖くてな。……奴隷を道具程度にしか思っていないヤツもいるんだ。まあ……それは冒険者も同じなんだが」
苦い笑いを浮かべるヘルトさんが僕の身を心配してくれているのがわかる。
「大丈夫です。ご主人様の言うとおりにしますから」
「……できるだけ早く解呪薬見つけてやるからな」
ヘルトさんを見上げて笑みを浮かべれば、ヘルトさんは痛ましいものを見るような顔で僕の頭を撫でてくれた。
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