【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

26:複雑な奴隷心

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 朝食を終えるとヘルトさんは、読んでいた新聞を一度部屋に戻しに行き、僕はヘルトさんが戻ってくるまで自分の食べた食器を洗う。

 朝食の準備ができなかったからヘルトさんの分の食器も洗おうと思っていたのにそれはすでに洗われ、乾燥機に入れられていたのでここでも僕は落ち込んだ。

 ……本当に僕が役に立てる事あるのかな?

 昨日の夜考えた事が頭の中でぐるぐる回る。朝起きられなかったし、食事の準備もさせてしまったし、食器も自分の分しか洗っていない。

 それどころか、これから元々の予定以上の買い物をさせてしまうのだ。僕を買った事だって予定外のはずなのに。

 考えがぐるぐるぐるぐると回り、答えの出ないままにため息を吐いた。

「エルツ。終わったか?」
「あ、はい!」

 出かける支度を整えて、僕を迎えに来たヘルトさんに返事を返す。洗った食器を乾燥機に入れて、ヘルトさんの元に小走りで駆け寄れば、頭を撫でられた。

 何の役にも立っていないのにこうやって褒めるように撫でられると心苦しい。嬉しくもあるけど、申し訳なさが先に立つのだ。

「よし、行くか」

 でも、ヘルトさんはそんな僕を気にする事もなく、僕の肩に手を添えて歩き出す。

 どうしたらこの人の役に立てるのか……。そんな事を考えながら僕はヘルトさんについて歩いた。

 大きな屋敷を出て、昨日歩いてきた道を戻る。屋敷の近くは、人通りが少なかったが大通りに近づくにつれて人が増え、賑わいを増していく。

 道を歩く人は、冒険者とわかる人、奴隷、町の人と様々だ。時折、身分の高い人が乗っているだろう馬車も通るからその度にヘルトさんに庇われるように肩を掴まれて引き寄せられた。

「ご主人様……僕に、そこまでしなくても……大丈夫ですよ」
「あー……どうしても気になってな」

 奴隷の僕を幼子を護るように庇うヘルトさんに進言すれば、視線を泳がされる。ついでにご主人様と呼ばれた時に複雑そうに顔を歪ませたのを僕は見逃さなかった。

 外なんだからヘルトさんって呼べるわけがない。それに、奴隷である僕を庇う行動を見せるのは、他の人から変に映る事だろう。

 でも、進言してもヘルトさんの行動は変わることはなく……僕を庇うような素振りを見せたので、せめて庇う頻度を減らす様に馬車の通る道の中央側ではなく、建物側を歩くように心がける。

 庇えないように後ろを歩こうとしたら、昨日のように手を引こうとしたからこれが妥協点だ。

 奴隷であるし、成人しているのだから、もう少し雑に扱ってもいいのに……。僕としては、奴隷を大切に扱うヘルトさんが周りから変な目で見られないか本当に気が気でなかった。
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