【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

24:寝坊

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「――ルツ、エルツ。起きているか?」

 遠くから僕を呼ぶ声がする。

 ふわりと浮上した意識。次に認識したのは眩しい光と見慣れない部屋だった。

 ……ここは?

「エルツ。まだ寝てるのか?」

 っ⁉ 起きなきゃ!

 頭の中に昨日の事が思い浮かび、飛び起きる。

「す、すみません! ヘルトさん! 今起きました!」

 扉の向こうから声をかけていたヘルトさんへと声を上げ、急いで扉へと向かった。

「ごめんなさい! こんなに遅くまで寝てしまって!」

 扉を開けて、頭を下げる。窓から見えた太陽はすでに高く上っていた。おそらく昼前にはなっているだろう。

 奴隷なのに、弟子なのに。ヘルトさんより遅く起きるなんてあってはならなかった。

「あー、あー……そんなに謝らなくてもいい。まだ環境に慣れてないんだから、仕方ないさ」

 ヘルトさんは言葉に悩む様子を見せながらも穏やかな声で僕の頭を撫でる。

「それより、魔力の訓練の前に買い物行くから……着替えて朝飯食いに来いよ」
「わかりました」

 それだけ言って一階へ降りていったヘルトさん。叱られなかった事にホッとして扉を閉めるが……視線を下げた先、ヘルトさんから貰ったチュニックの裾から見える素足になんて格好で対応してしまったのかと顔が熱くなる。

 いや、男同士だから別に見えてもって感じなんだろうけど、昨日お風呂上りに着てたシャツと同じくはしたない恰好と言うか……。

 ぶかぶかのチュニックだから下着が見えているわけではないけど……太ももが半分ほど見えているので、短いワンピースを着ているのと変わらない。商館で売られていた若い女性の奴隷と大差ない恰好だよ……。

 昨日に引き続き見苦しいものを見せてしまったと反省しながら、服を着替える。商館から渡された服を着て、上から貰った上着を来たところで、チュニックのまま下にズボンを履いても良かったのでは? と、思ったけど寝間着のままなのも行儀が悪いかと考え直す。

 村や商館では、一日どころか数日同じ服を着てたりする事もあったがせっかく綺麗な服を着れるのだから綺麗にしておきたい。……ヘルトさんと一緒にいるのだし。

 髪を手櫛で整えつつ、一度浴室にある洗面台へと顔を洗う為に向かう。商館から渡された荷物に入っていた洗顔剤で顔を洗い、化粧水や乳液なども塗り込んでいく。

 最初は面倒くさかったけど、商品としての価値を上げる為に強制された事だ。

 髭とか他のムダ毛も商品としての価値を上げる為に商館で薬品を使って生えなくされたし……。

 ただの雑用奴隷や戦闘奴隷だったら必要のない事だけど、性奴隷や僕のような兼用奴隷だと手を抜くと折檻されるほどの事だった。

 ……これ、なくなったらどうしよう。ヘルトさんに買ってもらうのも申し訳ないんだよな。

 弟子といえど、奴隷。奴隷と言えど、弟子。ヘルトさんが僕にどこまで手をかけてくれるかわからないし、元々男として必要のないものではあるからなくても困りはしないのだけど。

 ぺちぺちと液体を塗り込みながらそんな事を考え、最後に手櫛で直らなかった寝癖を直す。

 これで良し。……ホント、寝起きの酷い姿を見せてしまったのが辛い。幼い頃は泥だらけの姿を見せても平気だったのにね。

 大人になると見栄えを気にしてしまうんだなぁ……と思いながら、ヘルトさんの待つであろう食堂へと急いだ。
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