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第一部:本編

23:一人の部屋

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 お風呂から上がったヘルトさんに呼ばれ夕食を食べる。

 お昼の残りだけど、厨房の加温機で温めた料理は、お昼に食べた物と変わらず美味しかった。

 食事をしながらヘルトさんの冒険譚を聞く。

 古いものから、新しいものまで。

「五年前の事なんだけどよ――」
「あれは、去年の事だったか――」
「そういや、以前の仲間がな――」

 腕を失った時の事は、昼に聞いた時以上には語られなかったけど、昔のパーティーの話や彼らの最近の活躍、ソロになったヘルトさん自身の話を聞けるのは楽しかった。

「お前は、昔からいい顔で話を聞いてくれるから話し甲斐がある」

 楽しげに笑うヘルトさんからの言葉に恥ずかしくなったが、ヘルトさんの話にワクワクしてしまうのは事実。

 命を賭ける仕事ではあるけど、それでも憧れてしまうのだから仕方がなかった。

 食事を終えてからも、ヘルトさんは話を続けてくれて、僕は幸せな気持ちで時間を過ごす。

 でも、いつまでも続くわけではなく。食堂に置かれた時計が夜の十時を示すと共に夢のような時間は終わった。

 名残惜しかったけど、また話してくれるというヘルトさんの言葉に頷く。

「しっかり眠るんだぞ」

 部屋の前で頭を撫でられながらそう言われてヘルトさんと別れる。

 与えられた自室に入ると、途端に静かになって落ち着かなくなった。

 気分を誤魔化すように寝間着としてもらったチュニックに着替える。ぴっちりとしたズボンを脱いだからか少し楽になったけど、落ち着かなさは相変わらず。ベッドに入って眠ろうとしたけどなかなか寝つけなかった。

 急に環境が変わったからか、それともこの広い部屋で一人でいるせいか……。

 たぶん、一人でいるせいだろう。

 暗い部屋で一人。なんだか孤独を感じる。まるで、家族に売られたあの日のように。

 毛布を握りしめるように被り、うずくまる。

 たぶん……今日が夢のように幸せな日だったから、一人の時間が辛いのだ。

 気分がいっそう落ち込んでいく。

 家族が僕を売ったように、もし、ヘルトさんから捨てられたらどうしよう……。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 だって、この家には僕より役に立つ道具がいっぱいだから。

 頑張るって決めたのに。

 悪い思考がぐるぐると頭を巡り、ついには涙が流れてくる。

 もう子供じゃないのに……どうしてこんなにも涙が溢れるのだろう。

 ヘルトさんが僕を捨てるような人じゃないと思っているのに、捨てられるのが怖い。

 流れる涙を毛布で拭い、沸き上がる恐怖を押し込めるように眠る努力をする。

 でも、そう思えば思うほど眠れなくなっていった。

 結局、眠れたのは泣きつかれてから。

 ぼんやりとした記憶の中、窓から見えた空はほんの少し白んでいるように見えた。
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