【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

20:昼食

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 気を取り直して、鍵と服をタンスにしまう。

 化粧品は机に並べ、鞄は机の横に置いておく事にした。

 広くて何もない部屋。言うまでもなく落ち着かず、そわそわと歩き回って、仕方なくベッドへと腰をおろした。

 二人は、余裕で寝れそうな作りのベッド。かけられたシーツも手触りはいい。

 ヘルトさん一人で暮らしているみたいだけど、部屋は埃っぽくもなく綺麗だ。

 どうやって掃除をしているのだろう? まだ、住み始めたばかりとか? なんて、疑問が湧いてくる。

 ……僕に、できることはあるのだろうか?

 弟子とは、言われたが……日常生活でなにもしないと言うのは、落ち着かない。

 実家では農作業や家事をしていた。雑用奴隷としても、料理や掃除、洗濯などの教育を改めて受けた。

 弟子として鍛えてもらうにしても、何かしらヘルトさんに返したかった。

 そんな事をぼんやり考えていたら、部屋の扉が叩かれる。

「はい」
「飯、買ってきたから昼飯にしようぜ」

 扉を開ければ、ヘルトさんが笑みを浮かべて親指でくいっと部屋の外に出るように示す。

「買いに行ってもらってすみません」

 本来であれば、買い物は奴隷である僕が行くべきだったと落ち込んでいたら、ヘルトさんは僕の背中を叩く。

「気にすんなって、俺が好きでやってんだから」

 ヘルトさんに連れられて、食堂に向かう。

 たどり着いた食堂には、立派な長いテーブルとそれに見合った椅子がいくつも並んでいる。

 そして、テーブルには、その装飾に見合わぬ屋台料理が並んでいた。

「適当なもんで悪いけどこれで我慢してくれ」
「いえ、食べれるだけありがたいです」

 作りたての匂いに食欲がそそられて、小さくお腹が鳴る。

「ははっ、とりあえず食べるか」

 きゅ~っと、小さな音だったけど、ヘルトさんに聞こえたようで恥ずかしさのあまり隠れたくなった。

「食べられそうなのから好きに食べて良いぞ」
「……はい」

 ヘルトさんに進められるままに同じ食卓に付き、料理を手に取る。

 屋台で買われたのだろうそれは、肉串やパンで具材を挟んだ物が多い。

 ただ、味は全部違って、どれを食べても美味しかった。

「いつも、こんな食事をとっているんですか?」
「まあ、屋台か……酒場だな。自分で作れなくもねぇが金はあるし、楽できるとこは楽してる」

 ヘルトさんは、僕の倍の速度で料理を食べながら答える。

 どうやら、自炊はしていないようだ。

「そうなんですね」

 炊事を申し出るか迷いながら、僕は肉を咀嚼する。

 どうしよう、迷惑だったりするだろうか?

 悩んで、悩んで……口を開く。

「……あの、家事とか……やらせてもらっても良いでしょうか?」
「別にその為に買った訳じゃないからやらなくてもいいぞ?」
「いえ……できれば、何か返したくて。僕に出来ることって家事とか……雑用しかないから……」

 ぽつぽつと喋る僕にヘルトさんは、肉串の肉を纏めて引き抜きながら唸る。

「んー……まあ、お前がやりたいならいいぞ。必要な物があれば買うから、言ってくれ」
「あ、ありがとうございます!」

 ただ、弟子として面倒を見てもらうだけじゃなくなった事だけでも気が楽になった。

「家事するなら、飯食い終わった後にもうちょっと家ん中説明するわ」
「はい!」

 ヘルトさんの役に立てる。その事が嬉しかった。
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