20 / 146
第一部:本編
20:昼食
しおりを挟む
気を取り直して、鍵と服をタンスにしまう。
化粧品は机に並べ、鞄は机の横に置いておく事にした。
広くて何もない部屋。言うまでもなく落ち着かず、そわそわと歩き回って、仕方なくベッドへと腰をおろした。
二人は、余裕で寝れそうな作りのベッド。かけられたシーツも手触りはいい。
ヘルトさん一人で暮らしているみたいだけど、部屋は埃っぽくもなく綺麗だ。
どうやって掃除をしているのだろう? まだ、住み始めたばかりとか? なんて、疑問が湧いてくる。
……僕に、できることはあるのだろうか?
弟子とは、言われたが……日常生活でなにもしないと言うのは、落ち着かない。
実家では農作業や家事をしていた。雑用奴隷としても、料理や掃除、洗濯などの教育を改めて受けた。
弟子として鍛えてもらうにしても、何かしらヘルトさんに返したかった。
そんな事をぼんやり考えていたら、部屋の扉が叩かれる。
「はい」
「飯、買ってきたから昼飯にしようぜ」
扉を開ければ、ヘルトさんが笑みを浮かべて親指でくいっと部屋の外に出るように示す。
「買いに行ってもらってすみません」
本来であれば、買い物は奴隷である僕が行くべきだったと落ち込んでいたら、ヘルトさんは僕の背中を叩く。
「気にすんなって、俺が好きでやってんだから」
ヘルトさんに連れられて、食堂に向かう。
たどり着いた食堂には、立派な長いテーブルとそれに見合った椅子がいくつも並んでいる。
そして、テーブルには、その装飾に見合わぬ屋台料理が並んでいた。
「適当なもんで悪いけどこれで我慢してくれ」
「いえ、食べれるだけありがたいです」
作りたての匂いに食欲がそそられて、小さくお腹が鳴る。
「ははっ、とりあえず食べるか」
きゅ~っと、小さな音だったけど、ヘルトさんに聞こえたようで恥ずかしさのあまり隠れたくなった。
「食べられそうなのから好きに食べて良いぞ」
「……はい」
ヘルトさんに進められるままに同じ食卓に付き、料理を手に取る。
屋台で買われたのだろうそれは、肉串やパンで具材を挟んだ物が多い。
ただ、味は全部違って、どれを食べても美味しかった。
「いつも、こんな食事をとっているんですか?」
「まあ、屋台か……酒場だな。自分で作れなくもねぇが金はあるし、楽できるとこは楽してる」
ヘルトさんは、僕の倍の速度で料理を食べながら答える。
どうやら、自炊はしていないようだ。
「そうなんですね」
炊事を申し出るか迷いながら、僕は肉を咀嚼する。
どうしよう、迷惑だったりするだろうか?
悩んで、悩んで……口を開く。
「……あの、家事とか……やらせてもらっても良いでしょうか?」
「別にその為に買った訳じゃないからやらなくてもいいぞ?」
「いえ……できれば、何か返したくて。僕に出来ることって家事とか……雑用しかないから……」
ぽつぽつと喋る僕にヘルトさんは、肉串の肉を纏めて引き抜きながら唸る。
「んー……まあ、お前がやりたいならいいぞ。必要な物があれば買うから、言ってくれ」
「あ、ありがとうございます!」
ただ、弟子として面倒を見てもらうだけじゃなくなった事だけでも気が楽になった。
「家事するなら、飯食い終わった後にもうちょっと家ん中説明するわ」
「はい!」
ヘルトさんの役に立てる。その事が嬉しかった。
化粧品は机に並べ、鞄は机の横に置いておく事にした。
広くて何もない部屋。言うまでもなく落ち着かず、そわそわと歩き回って、仕方なくベッドへと腰をおろした。
二人は、余裕で寝れそうな作りのベッド。かけられたシーツも手触りはいい。
ヘルトさん一人で暮らしているみたいだけど、部屋は埃っぽくもなく綺麗だ。
どうやって掃除をしているのだろう? まだ、住み始めたばかりとか? なんて、疑問が湧いてくる。
……僕に、できることはあるのだろうか?
弟子とは、言われたが……日常生活でなにもしないと言うのは、落ち着かない。
実家では農作業や家事をしていた。雑用奴隷としても、料理や掃除、洗濯などの教育を改めて受けた。
弟子として鍛えてもらうにしても、何かしらヘルトさんに返したかった。
そんな事をぼんやり考えていたら、部屋の扉が叩かれる。
「はい」
「飯、買ってきたから昼飯にしようぜ」
扉を開ければ、ヘルトさんが笑みを浮かべて親指でくいっと部屋の外に出るように示す。
「買いに行ってもらってすみません」
本来であれば、買い物は奴隷である僕が行くべきだったと落ち込んでいたら、ヘルトさんは僕の背中を叩く。
「気にすんなって、俺が好きでやってんだから」
ヘルトさんに連れられて、食堂に向かう。
たどり着いた食堂には、立派な長いテーブルとそれに見合った椅子がいくつも並んでいる。
そして、テーブルには、その装飾に見合わぬ屋台料理が並んでいた。
「適当なもんで悪いけどこれで我慢してくれ」
「いえ、食べれるだけありがたいです」
作りたての匂いに食欲がそそられて、小さくお腹が鳴る。
「ははっ、とりあえず食べるか」
きゅ~っと、小さな音だったけど、ヘルトさんに聞こえたようで恥ずかしさのあまり隠れたくなった。
「食べられそうなのから好きに食べて良いぞ」
「……はい」
ヘルトさんに進められるままに同じ食卓に付き、料理を手に取る。
屋台で買われたのだろうそれは、肉串やパンで具材を挟んだ物が多い。
ただ、味は全部違って、どれを食べても美味しかった。
「いつも、こんな食事をとっているんですか?」
「まあ、屋台か……酒場だな。自分で作れなくもねぇが金はあるし、楽できるとこは楽してる」
ヘルトさんは、僕の倍の速度で料理を食べながら答える。
どうやら、自炊はしていないようだ。
「そうなんですね」
炊事を申し出るか迷いながら、僕は肉を咀嚼する。
どうしよう、迷惑だったりするだろうか?
悩んで、悩んで……口を開く。
「……あの、家事とか……やらせてもらっても良いでしょうか?」
「別にその為に買った訳じゃないからやらなくてもいいぞ?」
「いえ……できれば、何か返したくて。僕に出来ることって家事とか……雑用しかないから……」
ぽつぽつと喋る僕にヘルトさんは、肉串の肉を纏めて引き抜きながら唸る。
「んー……まあ、お前がやりたいならいいぞ。必要な物があれば買うから、言ってくれ」
「あ、ありがとうございます!」
ただ、弟子として面倒を見てもらうだけじゃなくなった事だけでも気が楽になった。
「家事するなら、飯食い終わった後にもうちょっと家ん中説明するわ」
「はい!」
ヘルトさんの役に立てる。その事が嬉しかった。
20
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説



アンドロイドは愛を得る
天霧 ロウ
BL
アンドロイドを持つのが当たり前になった時代。
ある名家は八歳になったらアンドロイドを与えるというしきたりがあった。創造主であるライラからコヨリという名を与えられたアンドロイドの私は助手として彼女とともにその家に訪れた。しかし、理想のアンドロイドを頼めるにもかかわらず、その家の子供――史人は私がほしいと言った。
一悶着あった末、私は彼のものになり十年。すっかり青年に育った彼を見るたびに私の胸のコアや頭の回路はときおり熱を帯びてエラーを吐くようになった。
ムーンライトノベルズにも掲載しております
史人(ふみと)×コヨリ
(SF/主従/俺様一途×天然健気/主×従者/人間×アンドロイド/年下攻め/甘々/溺愛/じれじれ/ハッピーエンド/受視点)

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!


オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる