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第一部:本編

16:弟子

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「じゃあ、今日からエルツは俺の弟子な!」
「へっ!?」

 冒険者を諦めたくないとは、言ったがなぜ弟子になるという事になるのかわからずに変な声をあげる。

 ヘルトさんの弟子!? 僕が!?

「そ、そんな!ぼ、僕は奴隷ですよ!?」
「確かにそうだけどよ。俺は、育てる奴を奴隷として扱いたくねぇ。だから、弟子だ」
「で、でも……ヘルトさんの立場が悪くなるし……」
「俺が良いって言ってるから良いんだ。ご主人様呼びも禁止な。家でも外でも」

 奴隷を弟子扱いするのは、ヘルトさんの立場が悪くなると思うのにヘルトさんは気を変えることが無さそうだ。

「ほら、前みたいに呼んでみろ」

 戸惑う僕にヘルトさんは子供っぽく笑う。それは、幼い僕に冒険譚を語っていた時に見せていた笑みだった。

「ヘ、ヘルト……さん……」
「おう」

 言い澱みながらも、ヘルトさんと呼べばヘルトさんが嬉しそうに頷く。

 そんなに喜ぶほどの事だろうか? と、思ったけど嬉しそうなヘルトさんにホッとした。

「さて……弟子にしたからにはいろいろ教えていきたい所だが……まずは、魔力を自覚させるところから始めるか……それとも、少しは動けるように体力をつけさせるべきか……迷うな」

 僕をどう育てるべきか悩むヘルトさんに僕はちょっと落ち着かない気持ちになる。

 だって、奴隷だけど憧れている人の弟子になれたのだ。

 今の身分からしたら本当はあり得ない事。

 だけど、本気で僕を育ててくれようとするヘルトさんに気持ちが逆上せてしまうのを抑えきれなかった。

「ん~……エルツは、どっちがいい?」
「うぇっ!? え、えっと……その……」

 ヘルトさんから話を振られて焦る。だって、僕に選択肢が与えられるとは思っていなかったから。

「その……」

 魔力の自覚?と体力……。

 欲を言うのなら、魔力について知りたい。だって、魔法を使えるのなら使ってみたいし。

 でも……。

「ほら、気になる方でいいぞ」

 ちらりとヘルトさんへ視線を向けるとヘルトさんは優しく笑みを浮かべている。

 ほ、本当に僕が選んでいいんだろうか。

 迷う。迷うけど……。

「僕、魔法について知りたいです……!」
「よし、魔法だな」

 意を決して言葉にすれば、ヘルトさんが頷く。

「じゃあ、明日から始めよう。今日は、家の事を教えたいし、いろいろあって疲れてるだろうから体を休ませるといい」
「は、はい!」

 疲れてはいないけど、その優しさが嬉しい。

「あっ、そうだ。服も買わねぇといけねぇか……他に必要そうなものも……ってなると、明日訓練始める前に買い物とか行った方がいいのか?いや、今から買いにいくってのも有りだな」
「あ、いえ……僕は古着とかあればそれで……」
「俺の服じゃ、サイズ合わねぇだろう? ……そういや、その鞄何が入ってんだ?」

 僕に服を買うか悩んでいたヘルトさんの意識が鞄に向く。

 その事にサッと青ざめたくなった。
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