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第一部:本編

14:隻腕

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「なっ……えっ……どうして……」

 理解が追いつかず、茫然と言葉を呟く。

 さっきまでは普通に動いていた。それなのに……僕の目には、途切れた腕が映っている。

「……二年くらい前に仲間を庇ってな。すぐに接着できれば良かったんだが……戦っていたのが強敵でなキングリザードマン……まあ、ダンジョンボスだったんだよ」

 聞き馴染みのないモンスター名だったが、ダンジョンボスというのはそのダンジョンの難易度で強さが大きく変わるらしい。

 ヘルトさんが強敵というのなら、本当に強いモンスターだったのだろう。

「腕を拾う余裕もない。俺が前線を抜けたら壊滅してもおかしくなかった。咄嗟に傷を塞ぐように叫んで戦い続けたが……終わった頃には、落とした腕は駄目になっていた」

 ヘルトさんが手に持っていたガントレットを自身の隣に置き、先のない腕を撫でる。

「ダンジョンボスを倒して、ダンジョンは攻略できたが……大きい代償だったな。まあ、命があっただけマシだ。俺も、仲間達もな」

 穏やかな笑みを浮かべるヘルトさん。でも、その表情は、悔しさの滲むものだった。

「でも、こんな腕じゃ仲間にも迷惑をかける。引き留めてくれたが……自分からパーティーを抜けた」

 ヘルトさんが組んでいた人達に会ったことはないが、その人柄が昔ヘルトさんが語ったものと変わっていないのであれば、頼りになる優しい人達のはずだ。

 そんな人達の元を自ら去る選択をしたヘルトさんの苦悩はどれだけのものだったんだろう。

「それじゃあ……今冒険者は……」
「一人で続けている」

 引退したのだろうか?そう思ったが、ヘルトさんはなんでもない事のようにそう言った。

「仲間の元を去っても、染み付いた生き方だけは変えられない。幸い、これもあるから最低限困る事はないしな」

 ヘルトさんが横に置いていたガントレットを左手で掴む。

 ……そうだ。確かに、それは動いていた。まるで、本物の腕のように。

「それは……?」
「劣化版の魔導義手さ。ダンジョンで手に入った者を人間が解析して作ったやつだ。ダンジョンで手に入る物と違って日常生活をするのがやっとで、戦闘するにはいまいち強度が足りないんだけどな」

 僕に説明しながら、ヘルトさんは魔導義手を装着していく。

 魔導義手から伸びる二つのベルトを右肩にある肩当てと胸から脇の下に通して固定すると、それは力を取り戻したかのように動き始めた。

「慣れは必要だが、こうやって握ったり、物を掴むくらいはできるんだ。剣は振るえねぇが、それでもダンジョンで困る事はねぇのさ」

 魔導義手で拳を握ったり開いたりして見せるヘルトさんの言葉に嘘は見えない。

 でも、なぜハンデを背負っているのに未だに冒険者を続けているのだろうか?

 生き方は変えられないと、ヘルトさんは言ったけど……それでも、続けようと思える理由がわからなかった。
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