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第一部:本編
9:屋敷
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僕の歩幅に合わせてくれるヘルトさんの後ろ姿を追いながらたどり着いた先で僕は目を見開く。
そこには、村で一番大きかった村長さんの家より大きくて立派な家があったからだ。
大きさは、僕のいた奴隷商館に比べると小さいだろうけど、村長さんの家と比べたら二倍も三倍もある。
立派な門と柵に囲われた庭は、村での一家族を養えそうな畑を作れそうなほどに広かった。
そして、この家の回りにも同じような立派な家ばかり……ううん、この家が一番大きい……と、呆然と目の前の家を眺めてしまっていた。
「エルツ、どうした」
「っ……! 申し訳ありません! 今行きます!」
呆ける僕に気づいたヘルトさんが僕へと声をかけ、僕は慌ててその背中を追う。
ヘルトさんが開けた門を申し訳なく思いながらくぐり、芝生に覆われた庭を開くように門から玄関まで続くレンガの道を歩く。
外から見ていた時も思ったがあまりにも僕の知っている家ではない。館とか屋敷と言う方が正しいような気がした。
「ほら、きょろきょろしてないで入れ」
「は、はい」
落ち着きの無い僕にヘルトさんは笑いながら、玄関の扉を開ける。
本当は主人であるヘルトさんではなく、奴隷である僕がやった方がいいんだろうけど……何もわからない今の状態で手を出す方が迷惑になると思うと大人しく着いていくだけしかできなかった。
ヘルトさんに促されるままに屋敷に足を踏み入れる。
奴隷商館の玄関ホールを思い起こさせる玄関は、本当に人の住む家なのかと思うほどだ。
床には、来客用の部屋に敷いてあったものと同じような絨毯が一面に敷かれているし、天井にはシャンデリアと呼ばれるランプが下がっている。
どれも奴隷商館で初めて見た物だけど、奴隷商館で見たものよりずっと高そうで質の良い物に見えた。
言葉を失うと言うのは、こう言うことなのだろう。
あまりにも違いすぎる世界。こんな所に僕なんかが居ていいのか……と、思った。
「エルツ」
「は、はい!」
ヘルトさんに呼ばれて体が跳ねる。これでヘルトさんを煩わせるのは何度目だろうか。
怒られるんじゃないかと恐る恐る見上げると、ヘルトさんは面白そうに笑っている。
「派手な作りの物ばっかりでびっくりするだろう?俺もここまでの家が欲しかった訳じゃないんだが……今持っている爵位と合わせてるとここが最低限だと言われてな」
肩を竦め、ため息を吐くヘルトさん。
こんなにもすごい屋敷に住んでいるのに、どこか納得がいってないような様子だった。
そういえば、こんな大きい屋敷なのに使用人らしい人がいない。商館では、裕福な家では使用人や雑用奴隷の類いが居るのが普通だと教えられたから静まり返った屋敷の中が不思議で仕方なかった。
そこには、村で一番大きかった村長さんの家より大きくて立派な家があったからだ。
大きさは、僕のいた奴隷商館に比べると小さいだろうけど、村長さんの家と比べたら二倍も三倍もある。
立派な門と柵に囲われた庭は、村での一家族を養えそうな畑を作れそうなほどに広かった。
そして、この家の回りにも同じような立派な家ばかり……ううん、この家が一番大きい……と、呆然と目の前の家を眺めてしまっていた。
「エルツ、どうした」
「っ……! 申し訳ありません! 今行きます!」
呆ける僕に気づいたヘルトさんが僕へと声をかけ、僕は慌ててその背中を追う。
ヘルトさんが開けた門を申し訳なく思いながらくぐり、芝生に覆われた庭を開くように門から玄関まで続くレンガの道を歩く。
外から見ていた時も思ったがあまりにも僕の知っている家ではない。館とか屋敷と言う方が正しいような気がした。
「ほら、きょろきょろしてないで入れ」
「は、はい」
落ち着きの無い僕にヘルトさんは笑いながら、玄関の扉を開ける。
本当は主人であるヘルトさんではなく、奴隷である僕がやった方がいいんだろうけど……何もわからない今の状態で手を出す方が迷惑になると思うと大人しく着いていくだけしかできなかった。
ヘルトさんに促されるままに屋敷に足を踏み入れる。
奴隷商館の玄関ホールを思い起こさせる玄関は、本当に人の住む家なのかと思うほどだ。
床には、来客用の部屋に敷いてあったものと同じような絨毯が一面に敷かれているし、天井にはシャンデリアと呼ばれるランプが下がっている。
どれも奴隷商館で初めて見た物だけど、奴隷商館で見たものよりずっと高そうで質の良い物に見えた。
言葉を失うと言うのは、こう言うことなのだろう。
あまりにも違いすぎる世界。こんな所に僕なんかが居ていいのか……と、思った。
「エルツ」
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ヘルトさんに呼ばれて体が跳ねる。これでヘルトさんを煩わせるのは何度目だろうか。
怒られるんじゃないかと恐る恐る見上げると、ヘルトさんは面白そうに笑っている。
「派手な作りの物ばっかりでびっくりするだろう?俺もここまでの家が欲しかった訳じゃないんだが……今持っている爵位と合わせてるとここが最低限だと言われてな」
肩を竦め、ため息を吐くヘルトさん。
こんなにもすごい屋敷に住んでいるのに、どこか納得がいってないような様子だった。
そういえば、こんな大きい屋敷なのに使用人らしい人がいない。商館では、裕福な家では使用人や雑用奴隷の類いが居るのが普通だと教えられたから静まり返った屋敷の中が不思議で仕方なかった。
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